オープニング
オープニング
この星には地下世界があると言われている。
でも、そんなもの存在するはずない。
そう思っていた。
あの出来事があるまでは――。
伊達メガネをかけた、とある天才プログラマーは海沿いの高級住宅地に住んでいた。
その名は、水和 好樹。男、十六歳(多分)。
「みーくん、自称・魔法って何。」
みーくんとは好樹がつけている伊達メガネの名前だ。
「魔法は魔法だよ。しかも自称はいらない。」
みーくん。性別不明、百歳以上(多分)。
みーくんは物心ついた時からかけていて、はずそうと思っても外せない。
よく『疲れないね』と言われたが、自称・魔法のおかげ(?)で全く疲れない。
疲れるという感覚がわからない。
鼻がどんな風に痛むのだろう。
逆に気になる。
…とまあ自慢はこれくらいにして。
今、一人と一つはいつも通り海に沿った防波堤を歩ていた。
「マナとかマジックポイントとか、どうやって回復するの。」
「ミントから吸い取る。」
「こわっ。」
ミントとは水和好樹のあだ名。
「まあ。冗談だよ。吸い取ってるのは本当だけどね。」
「一瞬でも安心した僕がバカだったよ…。」
「その一人称『僕』はいい加減やめないの。」
「うーん。やめる気はあるんだけど、なかなかねえ。」
「もうここまでだと、病気なんじゃないかな。」
歩き続ける。みーくんが好樹に聞く。
「あれ。何を話していたんだっけ。」
「ななな何でもないよ。」
「何で動揺してるの。」
「だだだ大丈夫だから。」
水和好樹は海を見る。
「平和だな。」
また一歩踏み出す。
「うん。」
「…そういえば、みーくんって九十九神?」
また一歩踏み出した。
「えっとね――」
だが、そこには地面がなかった。
いつもは温厚な(?)好樹の顔がゆがむ。
「?!」
もともと地面があったところには直径八メートルほどの大穴が開いていた。
落下していく。体が軽くなったような気分だ。
寒気が全身を襲う。
「ミント!取りあえず落ち着いて。下まではまだ距離があるよ。膝を折りたたんで腕で抱えて、そこに顔をうずめて。みーくんも手伝うから。」
「自分が助かりたいだけじゃないのかい?」
そう言いながらも好樹は言われたとおりにする。
一人と一つは闇の中に落ちていった。