第21話・お葬式
私たちは遺体を搬送するため夜を待つことにした。運ばれているところを見られるのはまずいし、遺体を処理する際はケンゴさんの協力も必要である。私は夜が更けるまで、家の中を見て回って遺品がないか確認することにした。
タモツさんの家は二階部分もあり、私は階段を上がって確認してみることにした。二階は夫婦で使っていたであろう寝室と子供部屋、そして空き部屋があった。子供部屋に入るとダンボールが積み上がっており、すでに物置部屋となっているのがわかる。
私はダンボールを開けてみると、ケイコさんが使っていたと思われる勉強道具やおもちゃが入っていた。私はそれらの中から燃えやすいものだけ選び出し、一つの段ボールにまとめ直した。ダンボールをまとめ直した頃合いに、外で車が駐車する音が聞こえる。私はケンゴさんが来たのだと思い、ダンボールを持って一階へ向かった。
***
ケンゴさんはミニワゴンタイプの車でやってきており、タモツさんを運ぶには十分な大きさだった。玄関ギリギリまで乗り込み、極力タモツさんを運んでいることがわからないようにトランクへ彼を運び込んだ。
そして、私たちはケンゴさんの廃棄所に車で向かった。廃棄所の敷地内に車で乗り込み、ランが降りるのを見計らって私もドアを開く。私たちの周りはゴミがブロック状にまとめたものが山積みになっており、今にも崩れ落ちそうだった。
ケンゴさんがこっちだ、というので私たちはゴミを廃棄するエリアへ向かう。そこにはケンゴさんの車もあり、私とランはタモツさんを車から降ろした。
「じゃあ、この中に今回の依頼者をいれてだせえ」
ケンゴさんが指摘した場所は、SF映画などで見かける冷凍カプセルのような装置だった。日焼けサロンでも同じようなものがありそうだが、小窓以外は金属製で覆われているところが、どこか未来的な装置に見えた。
「サクラ、いいわね」
私は頷き、そこにタモツさんをゆっくりと寝かせていく。最後にランが心臓と脈を確認し、瞳孔もチェックした。それらすべてに反応がないことを認めると、カプセルのフタを閉める。
「それじゃケンゴ、あとはよろしくね」
はいよ、と言ってからケンゴさんはカプセルに付いてあるキャップを開け、制御装置からホースを伸ばしてつなげる。ケンゴさんがパネルを操作し始めるとウイイインと音を立てながら液体が流れ出したのがわかった。
私はあえて何を流し込んでいるのか聞かず、手を合わせて黙とうを捧げた。横目で二人を見ると、私と同じように手を合わせていた。しばらく時間が掛かるので、とケンゴさんは気を使ってくれたのかどこかで休んでくるように促してくる。
ランは今回は言葉に甘えましょう、と言いながら適当に歩くことを提案してくる。
「それじゃ、ケンゴさん。ちょっと相談があるんだけど」
「なんですか?」
「タモツさんの遺品、燃やしたいんだけど……。いいかしら?」
ケンゴさんは不思議そうな顔をするも、ランは口元を緩めていいわよ、と言ってくれた。
***
私たちはタモツさんの遺体処理現場から離れ、ケンゴさんが提供してくれた場所で遺品を燃やしていく。火が燃え広がらないように石で火を囲み、そこに私が持ってきた遺品を投げ入れていく。
たったこれだけだ。たったこれだけなのに、私はどうしてもやっておきたかった。
「こんなのはじめてだわ」
「どういうこと?」
「依頼者の遺品に当たるものを燃やすこと。こんなこと、私は一度もしなかった」
「……そう」
「でも、今考えるとどうしてやらなかったのか、少し不思議だわ」
ランは火を見ながらポツポツと言葉を連ねていく。
「どうして人間だけが火を扱えるのかしら。本当に不思議。火の発見が無ければ私たちの文明は無かったと言われるけれど、その通りね」
「それは、技術的な意味で?」
「いいえ。文化的な意味でよ。火はすべてを浄化し、魂を洗礼する。日本だけでなく世界でも火の鳥の存在は転生を意味し、人を新しい人生へと導く神聖な存在としてあがめられている。遺体を炎で埋葬するのは難しくても、依頼者の魂が眠るものぐらいは、炎できちんと浄化すべきだったわ」
あなたには本当色々と勉強させられるわ、とランは言いながら丁寧に遺品を燃やしていく。でも、この行為だって自分の行為に対する慰めみたいなものだ。
私だって彼を今後自然死するまで世話を見続けることができないし、それ以外に彼を満足させることを思いつけるわけでもない。妥協に妥協を重ねた結果だ。そんな私の行為を、ランは褒め称えてくれる。
「サクラ、あなたはよくやった。あなたがやったことは、この炎と同じよ。タモツさんの真意を感じ取り、彼の最後の願いを聞いたの。自分が生きるために、そして、タモツさんが最後まで人として生きるために」
「やめて、そんな美化するのは」
「美化するつもりなんてないわ。だから、ちゃんと私は仕事として報酬を渡すの」
ランはタモツさんからもらった通帳を手渡してくる。
「今回の仕事に対する報酬に、特別手当として三〇〇万円すべて渡すわ」
「そんな! これ全部なんて」
「ケイコさんだってこのお金は絶対に受け取らないし、私もタモツさんからしっかり報酬もらってるからこのお金は別にいらないし、使うとすればサクラへの報酬ぐらいしかないの」
「でも、こんなお金……」
「こんなお金だからこそ、ちゃんとあなたが使うべきなんじゃないの? タモツさんが何十年も娘さんに送り続けたお金。きちんと考えて使いなさい」
私はランに手渡された通帳をぎゅっと握ると涙が止まらなかった。それは自分が今やっていることに対する後ろめたさとか、申し訳なさからくるものではない。まるでタモツさんまでが私に「生きなさい」と、語りかけているように感じてしまったからだ。




