第18話・「死」を決定つけるもの
私たちはケイコさんから通帳を預かった後、駅に帰ってからすぐに自分たちの住む町行きの電車に乗った。私もランも何も話すことなく、コンビニで買った軽食を流し込む作業と睡眠に時間を使っている内に着いていた。
「ねえ、少しドライブでもしましょうか?
ドライブスルーでハンバーガーでも買って」
別にいいけど、と言うと私はランに付いていって彼女の車に乗り込んだ。駅から一番近かったハンバーガー店でご飯を適当に買い、ランは適当に町を走り始めた。
「ラン、今日のことだけどさ」
「どうしたの? ひどい女とでも思った?」
「別にそういうことじゃ。ただね、もっと二人の関係を修復することを考えてもよかったんじゃないかなって。ただ、それを思っただけで」
「私だって、二人に仲が悪くなってほしいわけじゃないわ」
そう言いながら、ランはハンドルを片手にハンバーガーにかじりついていく。
「ただね、すでに親子でもない人たちの感情をいたずらに刺激して、涙の再会を演出する必要もないと思うの。確かに、人の死に目となれば多少なりとも心が動くのが人間だと思うわ。でもね、彼らはそれを修復するだけお互いに時間を積み上げていないし、私たちがとやかく言うことでもないわ」
私だってそれはわかっている。もし、これが一般的な婚姻関係の元で育った娘と父親であれば、私は意地でも二人を引き合わせようとしただろう。でも、ケイコさんは離婚したタモツさんの娘だ。彼女が今さら彼に会う道理はおろか、面倒を見る責任だってないだろう。
でも、それならば私たちがもらったあの通帳は何を意味するのだろうか。タモツさんが彼女に対して罪滅ぼしとしてあのお金を渡していたのであれば、その気持ちは汲むべきではないだろうか。でも、その気持ちさえケイコさんに届いていないのであれば……。
「サクラ、あんたは今どっちの気持ちを考えている?」
「どっち? どっちってどういうこと?」
「タモツさんかケイコさんか、ていうことよ」
車は市街地を抜け、どんどん峠を上り町の高台へと向かっているようだった。ランの普通車は坂道をものともせず、どんどんと私たちを町から遠ざけていた。
「どっちって……。そんなのわからないわ。両方のことを、私は考えていたから」
「あくまで依頼者のことを考えなさい」
私の意見に対して、ランははじめてきっぱりと答えた。
「私たちはタモツさんからお金をもらって、彼の自殺について考えないといけないの。確かに、今日あったケイコさんもタモツさんの関係者よ。でも、私たちが一番に考えないといけないのは何?タモツさんがどうして自殺を求めていたのに、その考えにためらいがあるのか。この一点に尽きるんじゃない?」
「それはわかってるんだけどさ。それでも、私はタモツさんにー」
「それはサクラ、あなた自身の意見よ。タモツさんの意見じゃない」
「だからって死ぬことなんて薦められないじゃない!」
自分の怒鳴り声に私は驚き、しばらく車が地面の上を進む音だけになる。ランも私に何も言わないし、私もこの後何を言えばいいのかわからなかった。
「サクラ、タモツさんはケイコさんに渡していたお金が返ってきて嬉しいと思うかしら? そのお金の額をみて、彼はまた生きる力を取り戻すと思う?」
沈黙を破るように、ランは再び言葉を発し始める。その空気は私と出会ったときと同じトーンだ。目こそ私のほうに向いていないけれど、あの獣のような目つきになっているのがわかる。
「どうだろう。額が額だし、それなりに楽しいことはできるんじゃない?」
「でもタモツさんはそのお金を使ったとしても、どうやって楽しむの? すでに自由のきかない身体で、お金だけあったとしてどうすればタモツさんが心から楽しめるの?」
「そんなの、やってみないとわからなじゃない! それこそタモツさんに見せてみないとさ」
「私は、その通帳について話すとタモツさんは自殺を決意すると思ってるわ」




