第16話・ケイコさんの相談
タモツさんのことについて調べる必要が出てきた私たちは、彼の元娘に当たる「ケイコ」に会ってみることにした。彼女は今は隣の県に住んでいるようだったので、私たちは朝一番の電車で向かうことにした。
眠かった私とランは車内で一言も話さず、起きたころには目的地に到着していた。眠い目をこすりながら電車から降り、その駅でレンタカーを借りて私たちは目的地まで移動することにした。
「ラン、そういえばケイコさんの情報はどうやって調べたの?」
「探偵とか? まあ、他にも頼めばすぐ調べてくれる人はいるけど」
「もうランにどんな知り合いがいても、なんか驚かないようになってきた」
「麻痺は良くないわ。ちゃんと常識をもって物事には接するべきよ」
その台詞だけはランに言われたくないなと思いながら、私はカーナビにケイコとの待ち合わせ場所を打ち込んでいった。
***
駅から一時間ほど走り、私たちは海岸線沿いまでやってきていた。窓を開けて潮風に当たるも、今から迎える仕事の不安はぬぐえなかった。ナビを見ると目的地周辺となっており、景色も海からその近くにある町に移っていった
ナビの通りスーパーや生活用品店が並ぶ道路に入り、飲食店が立ち並んでいるのも見える。ランはナビの指示通りに車を動かし、一軒のファミレスに車を止めた。
「ここが待ち合わせの場所ね」
「ええ……」
「どう、準備はできてる?」
「準備も何も、どう説明するのよ?」
「タモツさんのことに関してに決まってるでしょ。それに、今日自分がどんな立場で接しないといけないかちゃんとわかってる?」
ちゃんとわかってる、と聞かれても昨日の今日で自分の役を覚えないといけないとは。私はいつから役者になったのだと思いながら、身元引受サービスの資料とランから手渡されたNPO団体の名刺と概要をしっかり覚え込んでいた。
この団体はランが実際に経営しているようで、NPO団体としても登録されていた。本当に手際がいいというか、抜け目がない人だなと思わされる。
「普通、そんな簡単に話そうとしないと思うんだけれど」
「私たちに会おうとするということは、ケイコさんも何か言いたいことがあるはずよ」
ランは約束の時間ね、と言いながら車を降りてしまった。私も自分のカバンを持ち、慌てて彼女の後を付いていくのが精いっぱいだった。
***
ファミレスの中は閑散としており、席数に対して一割程度埋まっているかどうかの客数だった。ちょうどお昼お明けということもあり、私たちの話をするにはちょうどいい具合になっていた。店員がやってくるので私が待ち合わせです、というと該当する人がいると案内してくれた。
私たちはウェイトレスが案内してくれたほうに向かうと、女性がコーヒーを飲みながらすでに待っていた。写真で見た顔を同じだ、彼女がケイコさんだ。
「あなたがケイコさんね」
ランが声をかけると、ハッと驚きながらケイコさんが顔をあげてくる。彼女は私がどのような素性の人間か知っているのか、立ち上がって深々とお辞儀をしてくる。私は昨晩一夜漬けで叩き込んだ情報を元に、それらしい素性の人間を想像してからソファ型の席に腰を下ろした。
「今日はすみません。お忙しい中、時間をいただきまして」
「いえ、いいんです。ちゃんと、先延ばしにせず解決しておきたかったので」
ウェイトレスが注文を取りに来るので、私たち二人はドリンクバーを頼む。仕事を終えたウェイトレスはすぐに席を離れるのを見計らい、私は聞いてみた。
「先延ばしというのは、一体?」
「たぶんですけど、タモツさんの身元保証人ということで、彼から頼まれて私の元にきたのでしょ?」
質問を間違えたかな、と私がきょどっているとランがすかさず答えてくれた。
「ええ。お電話でもお伝えしたのですが、持病がひどくなってしまい、彼も自分の余命は長くないと悟っています。そこで、自分の身辺を整理したいということで、私たちが代わりに対応している次第です」
「そうですか。じゃあ、あなた達は独居老人の身元保証人になるような仕事を?」
「ええ。タモツさんはあなたのお母さんと離婚後、再婚もしなかったこともあって、今は独居状態です。そのため、彼も私たちのサービスに利用している状態です」
「そう。やっぱりあの人は最後まで孤独だったのね」
そう言いながらケイコさんはグッと口を閉じてしまう。ランの堂々したふるまいに私は驚きそうになるも、とにかく今はケイコさんから情報を引き出さないといけない。
私は先ほどのミスを反省するのを後に回し、目の前の状況に集中した。
「それで、お電話したときにケイコさんも私たちに相談がある様子でしたが。それは一体?」
ランの言葉を受け、彼女は一通の通帳をテーブルに出してきた。
「実は、このお金をタモツさんに返して欲しいんです」




