真夏の悪魔
ミーンミンミン……
今は夏だ!
食べ物の好き嫌いも無く、人もめったに嫌いにならない俺が、唯一嫌いなものがこの季節には存在する…。
その正体は…
この道路の真ん中で、ひっくり返っていて。
人が横を通り過ぎようとすると…
「おまえ、嫌がらせだろっ!!」と叫びたくなるくらい、
ミ"ミ"ミ"…と悪魔のような声で叫びながら、のた打ち回るコイツ…
俺は今、絶対絶命の窮地に立たされている…。
俺の家は一軒家で、家に入るには細い道を通らなければならない。
細いと言っても横幅3メートル位はあるだろうか、車も楽に入っていける位はある…。
しかし、その真ん中には、生きているのか死んでいるのかすらも分からない悪魔が横たわっている…。
イジメか?イジメなのかっ!?
何故こんなスペースにコイツがいる?
いくらでも他に行くところはあるだろうっ!
ハァ、ハァ…
いくら心の中で叫んでも奴は動く気配すら無い…。
そもそも俺が、名前すら声に出すのもおぞましいアイツを、嫌いになった訳を説明しよう。
アレは小学校三年生の夏だった…。
*
「ユッキー!」
俺は自分の幼なじみであり親友である、ユウキを見つけて声をかける。
「おぅアヤト、今からセミとり行かねぇ?」
「セミぃ? 行く行く!」
俺は虫取りをする事の興奮を隠せないでいた…。
無邪気に二人で笑いながらセミを取っていき、しばらく経つと虫かごには大勢のセミが蠢いていた…。
捕まえる楽しみが無くなり、もうセミには何の魅力も感じない…。
「気持ち悪いなぁ〜」と俺が言うと、
「じゃあ逃がしてやるか!」とユウキが言って、カゴを空け逃がそうとする。
しかし、ユウキの手が止まる…。
俺が不思議に思って
「どうしたん?」と聞くと、
ユウキは、イタズラっ子が新しいオモチャを見つけたような笑みを浮かべながら
「イヤイヤ、何でも無いよ。それよりあっちにリスが居るよ!」
と言い、変だなとは思いつつも、リスも見たい欲望には勝てず。後ろを向く
「……リスどこに居んの?………わぁっ?!」
俺がリスを探していると、急に襟を引っ張られる、そして背中に何かうじゃうじゃしたモノが流し込められる。
それがセミだと理解するのに、あまり時間はかからなかった。
「うぎゃああああぁーーー!!」
背中からセミを掻き出そうとするが、なかなか出て来ない。
俺の目からは涙が溢れていて、ユウキはそれを泣くほど笑って見ている、おまえは悪魔かぁーっ!!(怒泣)
少しでも逃がそうとバック走をする、そんな状態で後ろ向きに走るもんだから、何かにつまづき後ろから倒れてしまう…。
*
残念ながらその後の記憶は無いが、ユウキが必死に謝っていた所を見ると、それはそれはヒドい惨状だったのだろう…。
と、昔の回想をしたところで現状が打破される訳では無いが…。
俺がどれだけ奴の事を嫌いかは理解出来ただろう。
この硬直状態から抜け出す為に、つま先立ちで、奴から一番遠くでだろう場所に足をつけ、なるべく刺激しないように通り抜ける事にした。
そろ〜り そろ〜り
と、今なら忍者にも気づかれないと思えるほどの忍び足で慎重に奴の横を通る…。
家の門に近づき手を付ける…。
この時の最大の失敗は、足元にだけ気にしていて手元をあまり見ていなかった事だ。
手を付いたとき、いつもの感触は無く代わりに、全身の細部すべてに鳥肌が立つような感触……。
手元を見るとバタバタともう飛び去った後だった…。
五分位制止していたが、メスだったので鳴き声は無く、ダメージは大きいが立ち直れない程では無かった。
やっとの事で意識を戻しドアの前に視線を移すとそこには、ひっくり返り、六本の足を惜しげもなく晒している悪魔が…。
なぜこんなにもこの場所は悪魔の潜伏率が高いのか…。
心の中で嘆いてみても何も変わらない。
この状況をどうやって脱出しようか身動き一つ出来ずに考えていると、後ろから声が掛かった。
「おっ、アヤトじゃーん何してんの?」
よりによって一番この状況で会いたく無い奴から…。
ユウキは止まっている俺と、下に居る悪魔を見てすぐに現状を察した。
そして、また、あのイタズラっ子の笑みを浮かべた。
…俺の体からは絶えず、脂汗が流れている。
ユウキは道の真ん中に居た悪魔の羽をおもむろに掴むと、俺の方へ向かってー
振りかぶってー……投げたっ!!
その後、俺の断末魔が住宅街に響き渡ったのは、言うまでもないだろう…。
〜end〜
下手くそなので、アドバイス、感想などを書いて下さったら、泣いて喜びます!