おや、誰かが来たようだ
月のない陰鬱な夜だった。
何もかもが混然となって黒に塗り込められる中を、男たちは明確な意思を持って進んでいた。意思のの力が闇を切り裂いていく。そう信じている男たちの足取りには迷いがなかった。
「ここですか……」
男たちの中でもひときわ怜悧な青年が静かにつぶやいた。その声音には、何も含まれていないように聞こえる。少なくとも国を、同胞を危うくする輩のアジトに踏み込まんとする人間のつぶやきではなかった。
志がある。理想がある。守るべきものがある。ならば、己はただ一本の剣である。剣は切るためにある。その存在意義は常に変わらない。たとえ対象が女、子供であっても。
「築地君、一ツ橋君、踏み込むぞ」
古びた鉄扉の前で、影のように付き従う部下たちに指示をだす。静かに頷く2人。鍵はすでに入手済みだった。
乱暴に鍵を回し一気に室内に踏み込む。証拠を隠滅させないよう素早く奥に進む。奥には2人の男がいた。驚愕に見開いた目でこちらを見ている。彼らの前には何丁かのライフルやハンドガンがあり、まさに証拠となっている。
「さて、諸君。何か言うことはあるかな」
反体制派の小太りの男の顔がゆがむ。
「なぜここが……」
「決まっているだろう。市民からの通報だよ。憂國の同志達はどこにでもいるという訳だ。さて、國賊共。随分手間を掛けさせてくれたな」
もう一人の反体制派のやせた男が叫ぶ。
「誰にも迷惑を掛けてないだろうが!」
「だまれ!國民が一丸となって反戦平和に邁進している時局にサバイバルゲームなんぞにうつつを抜かしおって。この非国民めが!」
言い争いの中でも、築地と一ツ橋が証拠品のエアーガンを押収していく。
そう、この世に反動がいる限り我々”天の声を蒙昧な人々に語って聞かせる団”の仕事が終わることはないのだ。