終:斯くして「せかい」は/されど「世界」は
《 》
今日が何日かなんて、もう忘れてしまった。
というか、どうでもいい。
ごうごうという小さな音を立てて燃える練炭を眺めながら、俺と飛鳥は取り留めもない話をしていた。
「……俺はさ、思うわけよ。この世に神なんてものがいたら、本当に残酷なヤツだよなー、って」
俺の膝を枕にして寝転がる飛鳥が、言葉を返す。
「……この世界では、割とありふれた云われじゃないか。何故改まってそんな話を?」
特に何を目的としている訳でもないこの会話。いつも通りのこのやり取りは、言ってみれば習慣みたいなものなのだろう。
「神って、普段何をしてるんだろうな。女遊び?博打?火遊び?……まぁ何でもいいんだ、問題はそこじゃない。問題は、なーんでこんな世界を放っておいたままにしてるんだろう?ってところだ」
「さぁ?……面倒になった、その方が都合が良い……まぁ、いろいろあるだろうね」
「だとしても、もしそうだとしたら神様の職務怠慢じゃん。つまりはそれって世界の管理がきちんと出来てないって事だろう?」
「そのあたりは神の定義にも依るのだろうが……まぁ、その可能性も否定はできないな」
ごうごうと、練炭は燃え続ける。
隣同士並んで寝転がりながら、俺たちはブツブツと言葉を投げ合う。
「トランス脂肪酸」
「……古ぼけた吊り橋」
「チュパカブラ」
「……崩れかけの石橋」
「……そうやって『怖いものリレー』でリアルに怖いものを出してくるのはどうなんだい」
「しょうがないだろ……俺には想像力が無いからな」
「……そういう問題でもないと思うんだが」
ごうごうと、練炭の炎が揺れる。
飛鳥の太ももを枕にしながら、俺は飛鳥の話を聞いていた。
「漫画というのは凄いものだよ……絵と文章の融合……それに、作者のテクニックが……ああいや、違うな……」
「おーい飛鳥……しっかりしてくれよ……その話はさっきもしてた気がするぞ」
「気のせいだろう……ボクはこの話をするのは初めてだよ」
練炭の炎は、頼りなさげにぐらつく。
……。
「……」
「……」
「……寝てるか?」
「……起きているよ」
練炭の炎……もうどうでもいい。
──いつの間にか、仰向けになった俺の上に飛鳥がうつ伏せになっていた。
「……飛鳥」
「……何だい、プロデューサー」
「お前……下着は付けてないのか」
「別にいいだろう……死装束くらい、身軽でいたいからね」
「……感触が気になって仕方がないんだが……」
「お約束……さ」
「そうかよ……」
「……プロデューサー」
「……何だ、飛鳥」
「……死が近付いた人間の脳は……性行為の、何倍もの快感を得ているそうだよ……」
「ああ、道理で……ははっ」
「ボクもだよ……ふふっ」
「……プロデューサー」
「……何だ」
「……赦してくれ」
「──……ああ、赦すよ」
「……ありがとう」
「飛鳥……」
「──フフッ……赦すよ」
「まだ何も言ってない……」
「……言わなくても……解るさ」
「……ありがとう」
「飛鳥……」
「……プロデューサー」
──練炭の炎は、消えかけていた。
──もし神がいるのなら、本当にそいつは残酷だと思う。
《セカイの内側から》
見知らぬ天井。
「───────────────?」
思考が白く飛んだ。
……ああ、脳が。
ぷろでゅーさーは………
………………『ぷろでゅーさー』?
わからない。
でも、捜さなければ。
ここは?
点滴。
心電図。
ナースコール。
……?????
これは、何だろう。
黄色の毛…………?
誰のだろうか……………………?
箱も………沢山。
───────足が、動かない。
何故???????
カーテン。
……隙間。
………誰かがいる。
男。
2人…………?
白い服…………
違う。
白い布…………………顔に?
誰?
──あ。
──あの男が誰か、ボクは知っている。
「『プロデューサー』……………!?」
ぞわ。
ぞわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ。
全てが粟立つ感覚。
「──────────…………………!!!!!」
声にならない声が、喉を裂いて飛び出す。
「───、────……ッッッ!!!!」
自分でも何を言っているか解らない。
ただ、一つだけ。
ボクが取り返しのつかないことをしてしまったのだということは、これ以上ないくらいにハッキリとわかった。
ああ、またか。
また、ボクは。
この愚か者は、またこんな事を。
ボクは、ボクは、ボクは。
ボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクはボクは────────────────ッッッッッッ!!!!!!!
──星が、砕け散った。
こんにちは。
今までこの小説を書いてきました、「綾葉咲」という者です。読みは「あやば しょう」です。
私の作品をここまでお読みいただいた方、お付き合い頂きありがとうございました。
私としては初めての長編作品でしたが、如何なものでしたでしょうか。小説を書き始めてから日の浅い私にとっては初めての試みでしたので、至らぬ点などあればご指摘願えればと存じます。
実はこの小説、私の「愛」というモノへの考察を元にしたものなのです。愛とは何なのか、それが解らないままただひたすら「愛」を求め続けた私が苦悩の果てに導き出した一つの結論。それが、この小説に込められていたりします。
私が思い描く「愛」が何なのかは明確に言葉には致しませんが……この2人の関係が私の理想に近い形の「愛」を体言していると言えば伝わるかもしれません。
それにあたり、この結末は割と早い時期から決めておりました。愛というものの一つの成れの果てがこの結末なのだろうなぁとぼんやり思っていたのです。
さて、この小説を通じて皆様の心に何かを生むことは出来ましたでしょうか。
少しでも皆様の心に「こういうのもあるのか」などといった思いを生むことが出来ましたら、この作品を書き上げた甲斐もあるというものです。
今後は「文走星」という名義のアカウントを中心に活動していく予定ですので、宜しければそちらにもご声援を賜ることが出来ればと思います。