絶望の中で
「これは報いなのか……」
深夜近い時刻。老人は居間のテーブルに突っ伏し、頭を抱えて苦悩の表情を浮かべていた。
ミールの病状は一向に回復せず、希望は潰えてしまった。となると、彼女はいつまでも終わらない冬の中、ずっと病に苦しむしかないのだろうか。
その時。
「おじいちゃん……」
か細い声が聞こえた気がして慌てて振り向いた老人の目に、いつの間にか戸を開けて居間に入ってきた孫の姿が映った。
「ミール!寝てなければ…………!」
思わず椅子から腰を浮かせた老人が言葉を詰まらせた。
ミールの胸元には、あの目覚まし時計が大事そうに抱えられていたのだ。
「ねえ、おじいちゃん……。この時計、女王様の目覚ましだよね?前に見せてもらった……」
「…………」
「でも、動かないのこの時計。おじいちゃんなら直せるよね?なにしろわたしの先生なんだから」
「し……しかしそれではお前が━━」
「いつまでも動かないのはかわいそうだよ。わたし、この時計大好きなんだから」
「……ああ」
以前に何度か、この目覚まし時計が点検や手入れの為にこの店に持ち込まれた事があり、ミールはこの小さな時計がたいそうお気に入りであった。そしていつか━━。
「いつか……わたしがおじいちゃんみたいな立派な時計職人になったら、次はわたしが担当するんだ。故障したらすぐに直してあげて━━」
「そうだったな……」
老人はミールの元へ歩み寄った。彼女もふらふらと近付き、老人にしっかりと抱きしめられた。
「でも、わたしじゃまだおじいちゃんに及ばないから。まだまだ勉強しないとね」
「そうだな。お前は算術が苦手だから……それをまず…………何とかしないと…………」
「ごめんなさい。それはこれから頑張るから……」
「そうだな……」
老人は涙を流しながら、ミールの髪を優しく撫でた。




