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希望
その日の遅くに、時計職人の家を訪ねる者があった。
「どちら様でしょうか?」
戸を開けた父親に、男は軽く頭を下げた。
「夜分に失礼します。私は流れの医者、クラインという者です」
「!━━貴方が!?」
「はい。こちらに重い病気の娘さんがいるとの話を聞き、伺いました」
「おお……」
ずっと暗い陰を落としたままだった父親の顔に、ようやく希望が見えた。
すぐさまクラインはミールを診察し、集まった家族にこう告げた。
「幸いにも手持ちに彼女の病気に効く薬がありましたのでそちらを飲ませました。後は一日に二回、朝と夕に薬を飲ませてみて下さい。ただ……病気が進行しているのでここ数日が峠となるでしょう」
「それでは、もしも効果が無かったら……?」
祈るように手を組む母親に、クラインは最後にこう言った。
「申し訳有りませんが、その時には覚悟を決めて頂かなければなりません。━━では、私は他の患者が居る家を廻りますのでこれで失礼いたします」
その数日後。
ミールに回復の兆しは表れなかった。