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寝坊の女王さま  作者: 桐生円
1/5

発端

真面目は(自分には)難しい……。勉強不足です。

 チクタクチクタク…………。

 時は廻る。繰り返し繰り返し。

 チクタクチクタク…………。

 これは、同じようで毎年どこか変わりゆく季節に起こった小さな奇跡。

 チクタク……チク……タ……ク……………………。

 それを少し、覗いてみましょう。

 し……ん…………。


「ん…………」

 彼女が目を覚ました。━━だが、何か辺りの様子がおかしかった。部屋が暗すぎるのだ。

 不思議に思った彼女がベッドを抜け出すと、暗いだけではなく、肌寒い。

「まさか?」

 彼女は慌てて窓にかけ寄ると、一気にカーテンを開けた。

「そんな!?」

 目の前の景色が信じられなくて、さらに窓を開けると、そこから冷たい風と雪が部屋の中に入り込んでくる。

「春が……来ていない?」

 そう、外は一面の雪景色だった。そして、異変はそれだけではなかったのだ。

「あっ!!」

 彼女は窓に映る自分の顔に驚いて、思わずぺたぺたと顔を触ってみた。

 間違いない。自分は━━。

「冬の女王のままだ……」

 いったい何が起こったのか。『冬の女王』は途方に暮れてしまった。


 この国の季節は、春・夏・秋・冬の各季節を司る女王が国の中心にある塔に交替で入れ替わることにより廻る━━とされている。が、実はこの女王はたった一人の女性が季節ごとの女王へと変化することにより季節が変わっていくのだ。

 このことは国の王すら知らない秘密であり、それを知る者もごく一部の人間だけであった。

 では、どのようにして季節が次へと移るのかいうと━━。


 国のとある街にある一件の店。ここは、国一番の腕といわれている時計職人のいる時計屋だった。

 その店の奥で、一人の老人がひとつの時計を見つめてイスに座っていた。それは小さな目覚まし時計だった。

 しかし━━その針はまったく動いていない。この時計は壊れてしまっているのだ。

 そしてこの時計こそが、季節の移り変わりを告げ、女王を次なる姿へ変える、魔法の時計なのだ。

 本来なら季節の変わり目にこの目覚ましをセットして女王が眠りに着き、ベルと共に起きれば春が来て、彼女も春の女王へと変化するはずだった。

 女王はすぐさま時計と共に使いの者をこの時計職人の元へと送った。それもそのはず。元々彼はこの時計の専属の修理屋であり、時おりの点検や内部の清掃なども請け負っている、正に優れた時計技師(マイスター)なのだ。

 だがその彼がなぜか時計を前にして中を開けようともしない。

「ワシは許されない事をしようとしている……だが……」

 彼の表情には苦悩が色濃く表れていた。

目覚まし(お前を)を直すわけにはいかんのだ……」

 その時、部屋の戸を遠慮がちにノックする音が聞こえた。

「……お父さん、起きてますか?」

 その声に老人は慌てて目覚ましを引き出しにしまった。

「まだ起きておるよ。入るといい」

 戸を開けて入ってきたのは一緒に住んでいる娘夫婦の娘の方である。そしてその表情は疲労と悲しみの色が濃い。

「どうだね、ミールの具合は?」

「今は落ち着いて眠っています。ただ、かなり食が細くなっているのが心配です」

「そうか……」

 最近娘と話す事と言えば、孫娘のミールの事ばかりだった。ミールは冬が来た頃に重い病気にかかり、今ではほとんど寝たきりの状態になってしまっていた。

 その為に母親である彼女が付きっきりで看病をしているのだが、ミールの容態は思わしいものではなかった。そしてその父親が方々に手を尽くして娘の病気を治せる医者を探しているのだが、唯一の望みである放浪の名医と呼ばれる医者は未だに見付からずにいた。

 もちろんこの街の医者にも診てもらった。が……。

「持って春まで。それまでに覚悟を決めた方がいい」

 そう言われ、老人も両親もどれ程嘆き悲しんだ事か。

 そして春が来るこの時期にこの目覚まし時計が老人の元へ届いた時。彼はこう思ってしまった。━━春さえ来なければ。冬のままで時が留まれば。

 それからこの国の季節は凍り付いた。

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