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鶴と陽炎  作者: RAIN
4/5

敵と殲滅

第四話です!(=゜ω゜)ノ

~side:陽炎(死神)~

「確かにこの時代の人間にとっては、見つけることは難しいだろうな」


 この時代にはGPSや探知用のレーダー、ヘリコプターもない。

 さらに、夜になれば明かりとなるものは月の光くらいしかない。

 そんな状況で、盗賊や野犬などがいるかもしれない夜道を歩く勇気など常人にありはしない。

 

 そう考えていた陽炎は、村人の誰もが寝静まった真夜中に静かに動き出した。

「可能性があったとはいえ、休暇中に面倒なことになった」

 誰に言うでもなく陽炎は呟いた。


「まあそうだな…あの子のおかげで休暇も楽しめたことを考えれば、こういう苦労をするのも仕方がないな…」

 あの明るい輝きを放つ少女を助けるため、陽炎は少女を助けに向かおうとする自分を納得させるための言い訳を口にした。


 そして、外套を深く被った陽炎は月の明かりだけが輝く夜空に向けて飛び立つのだった。

※※※

~side:鶴~

 私は暗い牢屋のような場所の中で目が覚めました。


「ここは…?」


 確か私は、おっとうと一緒に町に出かけた帰りに盗賊のような人たちに囲まれて…!!


 その途端、私の全身に寒気が走りました。

 始めに手が震え、その震えが徐々に身体全体に広がって行きました。

 この時、私はおっとうに永遠に会えなくなってしまったことを理解してしまいました。


 なんでこんなことになってしまったのでしょう…。

 こんな場所に誰も助けには来ないのでしょうか…。

 私は知らず知らずの内に涙を零していました…。


 そんな悲しい気持ちで押し潰されそうになったとき、私が閉じ込められている牢屋の天井の辺りから男の人たちの騒ぐ声が聞こえてきました。

 

 何かあったのでしょうか?

 私は必死にその原因を考えましたが答えは出ませんでした。

 

 ですが、理由もなく誰かが助けに来てくれたのではと考えました。

 もしかしたら、あの方が助けに来てくれたのかもしれないと思った時、いつの間にか私の手の震えは止まっていました…。

 

 その後、私の期待は裏切られることなく、あの方が迎えに来て下さったのです!

※※※

~side:陽炎(死神)~

 私は鶴の住んでいた村から最も近いある町に降り立った。

 念のため、外套やフードを被ったまま町中を歩いている。


 時折、命の灯が鈍い光を放つ人間とすれ違うが、彼らは後回しにして大丈夫だろう。

 仕事よりも、休暇を満喫している最中に起きたトラブルを先に解決する方が大事である。


 自分にそう言い聞かせた私は、町から少し離れた大きな屋敷の前まで来た。


「ここにいるな…」

 私は、先程から鶴の命の灯が放つあの明るい輝き頼りにここまで来た。

 死神の目を持ってすれば、地下に居る人間の存在も捉えることが出来る。

 そうして特に光の強い場所を訪ねて回った結果、この町でも有名な商人の屋敷に辿り着いた。


「1つの地域にあれほど沢山の盗賊が集まっているのも不自然だとは思っていたが、やはり元締めがいたのか…」

 陽炎は休暇(自称)の合間に命の灯が鈍い者の命を狩っていたが、その殆どが盗賊や柄の悪い男たちであった。


 普通ならば、老若男女問わず命を狩る対象にここまで大きな偏りは無い。

 加えて、今回は数も異常であったこともあり陽炎はその事実が気になっていた。

 

 それに、この時代にここまで執拗に同じ人物を狙う人攫いも珍しい。

 そのため、仮に問題が起こっても揉み消せるだけの権力と執着心がなければ、到底する者などいないと考えていた。

 その結果、陽炎は鶴との会話に出て来た優しい商人という人物にも一応の当たりを付けていた。


「これがドラマや小説ならば、潜入中に相手に見つかり鶴を人質に取られてピンチなどになるのだろうが…。人間は何故わざわざあんな危険を演出するのだろうか…?」

 陽炎は以前から思っていた疑問をふと口にした。


 陽炎にとって、鶴を誘拐した相手がどんな人物でどんな背景を抱えていようと関係のないことだった。


 故に陽炎のすることは、誰にも気付かれることなく無慈悲に作業的に相手を狩っていくことだけだ。


 そこにはドラマもピンチも訪れることはない。


 陽炎は自らの得物である大鎌を片手に構え、その屋敷にいた者たちを狩りながら鶴の元に歩いて行くのだった…。 

 

 この夏、鶴の住む地域では多くのならず者たちと共に町の有力者たちが亡くなった。

 町人や村人たちは治安が良くなったことを喜ぶと共に統治者たちの不在による混乱が生じるのだった。


 その後、陽炎は夜が明けるのを待ってから、鶴の母親の元へ鶴と共に帰るのだった。

 陽炎が鶴と共に村へと帰る途中、陽炎は鶴の不安を少しでも和らげるために自分が昔経験した色々な話をしていた。


 成立は不可能と思われた国を動かすような同盟を成立させた男の生き様や、巧みな話術と小鳥のような声が魅力的であると評された砂漠の国の女王の恋物語などに鶴は目を輝かせていた。


 陽炎は、辛い思いをしたはずの少女が嬉しそうに話を聞く姿を見て、その心の強さも綺麗だなと口には出さずに内心で思いながら歩いた。

 

 そして、ついに陽炎の長くも短かった村への逗留期間が終わりを告げる日が訪れる…。

※※※

~side:鶴~

 とうとう陽炎様は、この村を去ってしまうのですね…。

 

 正直に申し上げますと、この村に残って欲しいという気持ちがあります。

 けれども陽炎様には、これから先もやらなければならない仕事があるそうです。


 私も一緒に行きたいとは思いましたが、おっとうを亡くしてから落ち込んだままのおっかあを残して行くことなど出来ません。


 それでも…もし、また何処かで会うことが出来たのならば、そのときは一緒に…。

 いえ…陽炎様がこの場所に来るのをいつまでもお待ちしております…。

 どれだけ時間が経とうとも、陽炎様と過ごした楽しい日々を忘れることはありません…。


 陽炎様が旅に出てしまったその日は雲一つ無い青空でしたが、私の目からは大粒の雨が何度も流れ出しておりました…。

※※※

~side:陽炎(死神)~

 この夏の間、お世話になった村人たちに見送られながら、私は人目が無くなる場所まで歩き続けていた。


 あの鶴と言う少女に会うことはもうないのだろうな。

 私は歩きながら、ふとそんなことを考えていた。

 それでも…もし何かの縁で会うことが出来たのならば、また一緒に話をして過ごす日々も悪くはないな…。 いや、死神らしくないやつだと他の死神たちに笑われてしまうかもしれないかな?


 そして、人目の付かない場所にひっそりと生えていた大木の根元辺りに着いた陽炎は、外套についたフードや髑髏の仮面を深く被り、次の仕事を行う時代に向けて準備を整える。


 笑顔の素敵なあの少女と過ごした、夏の思い出を胸に抱きながら…。


 そして、1柱の死神は静かにこの時代から姿を消したのだった。

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