恋と別離
第三話です!(=゜ω゜)ノ
~side:鶴~
私が顔の怖い方たちに襲われていた時に助けて下さった陽炎様のことは、今でも1日たりとも忘れたことはありません。
初めてお会いした時、私は驚いてしまい助けて頂いたお礼をすぐに言うことが出来ませんでした。
それでも陽炎様は、特に気にしたご様子ではありませんでしたが…。
そういえば、陽炎様が言っていた綺麗と言う言葉は私のことを指していたのでしょうか?
そうであったのならば、すごく嬉しいです!
なによりも今は、陽炎様のお顔を見る度に来る、胸の辺りが早鐘を打つこの気持ちの正体が気になります。
病気なのでしょうか?今度、おっかあに聞いてみましょう!
陽炎様が私の住む村に来て下さった翌日、陽炎様はおっとうの畑仕事の手伝いをしていました。おっとうよりも早く畑仕事が出来る人を初めて見ました!
それしても、陽炎様が着ている着物は汚れることがないのでしょうか?
畑仕事を終えた陽炎様は、土どころか汗1つかいていないご様子でしたし…。
そういえば、畑仕事が終わった後に陽炎様が『雑草だけ生えなくしておくか』いうことを呟いておりました。旅をしていると、そんなことが出来るようになるのでしょうか?
畑仕事を終えた陽炎様が、私と一緒に遊んで下さることになりました!
本当は、陽炎様とお二人で色々な場所を回りたかったのですが、おっとうに『他の子たちとも一緒に行動しなさい』と言われてしまったので、近くの家の仲間たちと山や川へ遊びに行くことになりました。
それにしても、陽炎様はいつも不思議な空気を醸し出しています。
身なりや雰囲気は元服を迎えた方のように見えるのですが、私たちと同じ目線で遊ぶことの出来る方のようです。
それに、ご本人は旅をしていると言っておりましたが、知識も豊富でどこかの商人様の跡継ぎだったのでしょうか?
時折、おっとうでも知らないような難しい言葉を使います。
それよりも、今日は皆で小川に涼みに行きました!
この時期のお外は暑いですが、水は冷たくて気持ちが良いです!
小魚が光る水面の中を泳ぐ姿はとても綺麗だと思います。
私は小川の傍らに腰掛け、つま先からゆっくり水の中に足を浸けて行きました。
それだけで全身が涼しくなって来るような気がします。
陽炎様は私のその姿を見て、風流だと言ってくれました。
私よりも小さい子たちは、着物が濡れるのも構わずに川に入って水を掛け合っています。
私はもう子供ではないので、優雅に川の流れを楽しむだけです……あれ、陽炎様が他の子供たちと一緒に川の中で遊んでいます…。
……やっぱり私も皆の輪の中に交じって一緒に遊びたいです!
結局は陽炎様を除いて、皆、着物をびしょ濡れにしてしまいました…。
その後は、陽炎様が近くの家からもらってきた胡瓜や果実などを川の水で冷やして皆で食べました。
胡瓜のパリッとした食感とその後から来るたっぷりの水は、この暑さを和らげるのには十分でした!
陽炎様は氷を探しておりましたが、この暑い時期には氷は高貴な身分の方たちしか持っていないことを知らないのでしょうか?
いつか陽炎様と一緒に、町にある甘味処などを回ってみたいものです。
日が山に隠れようとする頃になると、川の近くにはたくさんの蛍が集まって来ました。
蛍の光が凄く綺麗でした!
陽炎様は、蛍を初めて見たような顔をしておりましたが、蛍がいない場所から来たのでしょうか?
それにしても、空が暗くなった頃に陽炎様が話していた怪談という話は凄く怖かったです。
陽炎様は、まるでそれらを見てきたように話していたのも皆が怖がっていた理由の1つだと思います。
陽炎様が考えた作り話なのに、他の子たちは怖がり過ぎだと思います!
えっ…私は怪談が怖く無かったのかですって…?
陽炎様の話を聞いた日からしばらくの間、私は夜の厠に1人で行くことが出来なくなりました…。
陽炎様と過ごす日々が、これからもずっと続いて欲しいと思いました!
※※※
陽炎が鶴の住む村に滞在してから、すでに半月ほどが経過した。
その間、陽炎は朝早くに畑仕事の手伝いをし、昼からは鶴を始めとする子供たちと共に山や川への散策をして過ごした。
そして夜になると死神の服装を纏っては、周辺に巣くっている濁った輝きを持つ者を狩るために夜の空へと向かってゆくのだった。
そんな日々を過ごす中で、村に来た行商人たちから村の周辺での盗賊による被害が少なくなってきたことを知るのだった。
この知らせに鶴の住む村の以外の人からも喜びの声が上がった。
このまま、何事もなく毎日を過ごせればいいと誰もが思っていた…。
だが、そんな日々も終わりを告げる日が来た。
きっかけは、鶴が父親と共に町に出かけた日の夕暮れだった。
その日、陽炎は朝早くから町に向けて出かけた鶴たちに代わって畑の手伝いをしていた。
だが、日が暮れる時刻になっても、2人が帰ってくることはなかった。
この事態を不思議に思った村人たちは、数人掛かりで鶴たちが普段から通っている道を辿って行った。
するとそこには、道の途中で全身を刃物のようなもので斬り付けられ事切れた鶴の父親が横たわっていた…。
辺りには鶴の姿はなく、村人たちは盗賊たちの仕業だと確信した。
だが、彼らを見つける手立ては無く、鶴を取り戻すことは不可能に思われた。
その日、2人の村人を失った村ではどの村人も意気消沈していた。
特に鶴の母親は、酷い落ち込みようだった。
夫を亡くし、その上娘の鶴までも失ってしまった事実を知った直後に寝込んでしまったようだ。
誰もが鶴の発見は絶望的だと考えていた…。