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鶴と陽炎  作者: RAIN
2/5

夏と休暇

第二話です!(=゜ω゜)ノ

~side:陽炎~

 時は、陽炎が鶴と出会う少し前まで遡る。

 鶴が男たちから逃げ回っている頃、上空数百mの位置に人の姿をしたソレは現れた。

「ふむ…今回の対象はずいぶん多そうだな…」


 自らが宙に浮いていることに対して特に気にする様もなく、ソレは足下に目を向け呟いた。

 ソレは、全身を覆うような長さの外套を着ており、フードのようなものを頭まで掛けており、唯一容姿が分かるのは顔のみだった。

 その上、顔には髑髏の仮面を着けており、仮面の隙間から僅かに見える青い瞳だけが、人間味のある部分のように感じられた。

 しかし、その人間味も背中に担いだ大鎌によって大分薄れている印象を受けている。


「死神にも人間のような休暇が欲しいな…いっそ勝手に休むべきか…?」

 誰に聞こえるわけでもないのに、ソレは愚痴をこぼすように呟いた。


 ソレは死神と呼ばれる存在である。


 死神は人を死に誘う者であり、老若男女に対して平等に訪れる死の概念である。

 彼らは常に一定の個体数が存在し、彼らが減る度に何処かで新しい死神が生まれる。

 彼らはこの世に生まれるときには、ある程度の必要な知識を持った人型で生まれ、服装はその個体によって微妙に異なっている。

 さらに、未来から過去までどの時代にも移動することが出来るため彼らから逃げ切ることは決して出来ない。


 だが、命を狩る存在である彼らにもルールはある。


 彼らが命を狩る対象は、彼らの目から見て命の灯の発する光が鈍くなった者だけであり、それ以外の者を狩ることはない。

 そして、対象の身体の中にある命の灯を自分の持つ得物で切り裂く。それだけで、普通の人間ならば命を落とす。

 ちなみに、得物自体は死神によって異なるようで先輩の中には剪定バサミを得物にするものまでいる。

 また、命を狩る対象を助けてはいけないらしく、昔、酔狂にも人間を助けようとした先輩はその人間を助けた後に、消滅してしまったそうだ。

 

 余談ではあるが、彼らは人の形をしてはいるが生物ではないため、性別という概念はなくただ知識があるのみである。

 また、彼らは瞳が青いという点を除けば、容姿や体格、性格などは様々である。

 最近生まれたばかりの後輩などは黒髪で子供のような容姿だったそうだ。


「仕事を終わらせて何処かでゆっくりしたいな…」

 そう言いながら、その死神は命を狩るべき対象を空からのんびりと探すのだった。

 どうやらこの場所は、山奥とはいえそれなりに人がいるようだった。

 ところどころに鈍い光を放つ物体が移動しているのが上空から見て取れた。


「おや、こんな山奥に数人で移動する人間の反応があるとは…?」

 その死神が気付いたのは、ほんの些細な偶然だった。


 はるか上空からでも確認出来る程、眩しく綺麗な命の灯の輝きを放つ人間を追う濁った輝きの複数の人間を見つけた。

 それは、鶴が諦めなかったからこそ掴んだ偶然であった。


(困ったな…。こんな場合には、何と声を掛ければ自然になるのだろうか?)

 彼らの近くに降り立つ直前に、死神はふとそんなことを考えた。

 いくら日常会話に関する知識があっても、時代に合ったしゃべり方をしなければ変わり者に見られてしまう。

 以前に魔女狩りが行われた時代に言った際には、うっかり未来では鉄の塊が空を飛ぶなどと言ってしまい、危うく異端者として捕まりそうになったこともあった。


(確かこういう時には、さりげなく天気の話をすると自然な会話に繋がると知識にはあるな。それならば、『良い天気ですね?』などと言えば大丈夫だろう…)


 そう納得した死神は、鶴と男たちのいる場所の近くに降り立った。


 そして、緩慢な動作で髑髏の仮面と被っていたフードを外し始めた。

 普通の人間は、死神の姿や彼らの持つ得物を見ることが出来ない。

 そのため、彼らが人前に姿を表わす時には、顔が見えるように仮面やフードなどを外すようにしている。

 

 ここまではいつも通りの作業のため、自然に行うことが出来た。

 そして死神は、早速声を掛けようと口を開くのだった。

 結果として、この声掛けは見事に失敗し盗賊たちに襲われることになるのだった。


 そんな多少の失敗はあったものの、死神は盗賊たちの命を無事に狩ることが出来た。


(あとは、困っていた少女に私が怪しい者ではないと説得しなければならないか…)

 そう思い、死神は少女の方に向けて足を進めた。


(それにしても、本当に綺麗な命の輝きを放つ少女だな)

 少女の命の灯は、死神が今まで見てきた誰よりも力強く綺麗な純白の光を放っていた。

 この時代に、これほどの綺麗な輝きをしているのならば、おそらく長生きすることは間違いないだろうと死神は確信していた。


 基本的に命の灯の輝きが強い程、人間は強く長く生きる。

 だが、鈍い輝きを放つものが近くにいると徐々に周りの人間の輝きも鈍くなってしまう。

 そのため、鈍い輝きの者を増やさないために死神は命を狩るのだ。


 しかし、鈍い輝きを放つ者の基準は彼らにも分からない。老若男女を問わず鈍い輝きの者はおり、清廉潔白な善人でさえも彼らが狩る対象になるときがある。

 そのため、死神の中にはある程度対象を観察し執行までの猶予を与える者までいる。


(成程、綺麗なものを見て湧き上がるこの感情は良いものだな…)

 綺麗な輝きを見た、1柱の死神はそのような気持ちを抱くのだった


(そういえば、こういう時には名前を名乗らなければならないのだったな…)

 少女の目の前に来た辺りから、自分が名乗る名前を用意していなかったことを死神は思い出した。


(この時代で有名な姓は、極力控えるべきだろう。それでいて、呼ばれても自分のことだと気付ける名前となると自分に馴染みのあるものが良いだろう…彼岸花…違うな…朽木…これも違うか…)


「あの…旅人様、如何されましたか?」

 自分の目の前で突然考え込み始めたその男を見て、少女は思わず声を掛けるのだった。


(…明るい輝きを放つ少女と対比して考えてみるか。だとすると、儚いイメージの泡沫もいいか。…いや、せっかくならば寿命の短い蜉蝣に倣って『陽炎』なんていいな…)

 

 このような経緯を経て、件の死神-陽炎-は鶴と出会うのだった。

※※※ 

 村へと着く途中、陽炎は鶴との会話から多くのことを知った。


 ここは極東の国の中でも町からやや離れた山奥にある村で、その村では普段は山の果実や畑の農作物を収穫して生活していること。

 豊かとは言えない生活だが、飢えることのない環境で過ごせることは、十分に幸せなことだと鶴は嬉しそうな顔で言った。


 他にも、鶴の家族は両親との3人暮らしで、母親の代わりに町に買い物に行った結果自分が男たちに襲われることになったのだということを聞いた。


 陽炎としては、別にそういった家族についての話などには興味がないのだが、鶴の楽しそうに話す顔を見ていると、どうにも聞くのを断ることが出来なかった。


 その後も楽しそうに話す鶴であったが、自分の住む村が見えてからはそちらの方に関心が移っていた。


「陽炎様、ここが私の生まれ育った村です!」

「そうですか、非常にのどかな雰囲気の村ですね…」

「はい、私の自慢の村です!」

 嬉しそうな声の鶴に、陽炎はそう答えるのが精一杯だった。


 なにせ、鶴の住む村は特別変わったものがあるわけでも、綺麗な花などが咲き誇っているわけでも無かった。

 何か上げることがあるとすれば、村の近くに夏の暑さを和らげてくれるような川が流れていることと、村人たちが自分の変わった風貌を見ても特に気にした様子も無く受け入れている位だった。

 

 そんな平凡な村の奥にある鶴の家に陽炎は案内された。

 家の造り自体は他の家と特に変わった様子はなく、家のすぐそばに作物を育てている畑があるだけだった。


「おっとう、おっかあ!ただいま!」

「お鶴、今帰ったのか?」

「うん、おっとう!あのね、さっき危ないところをこの旅人様に助けてもらったの」

「ほう…?」

 そう言って、鶴の父親と思われる男は、鶴の後ろに立っている陽炎を胡散臭い者を見るような目で見るのだった。


 そこからは陽炎が鶴の両親に対して、鶴が柄の悪い男たちに襲われていたところを助けた経緯を話すことになり、両親が陽炎の説明に納得したのは日が既に落ちた頃だった。


 どうやら、両親たちは陽炎がその男たちの仲間ではないかと疑っていたようだ。

 しかし、陽炎の浮世離れした言動や彼らを一蹴した手腕から無関係であると確信したようだった。


 その結果、両親たちは夏の暑さが終わる頃までの間、陽炎がこの村に逗留することを許可するのだった。


 陽炎としては、この地域周辺での死神としての仕事が終わり次第、のんびりしたいとは思っていたので、両親の提案は渡りに船であった。

 また、鶴の両親たちも命を狩る対象でないこともこの村に留まる理由の1つであった。

陽炎としても、あの明るい輝きを放つ少女には出来るだけ笑顔でいて欲しいと思ってのことだった。


 こうして陽炎はこの夏の間だけ鶴の住む村で過ごすことになった。


 初めの数日間の内は、鶴の両親の畑仕事などを手伝いつつ、鶴に誘われるがまま村の子供たちと山の散策や、川に水遊びをしに行くなど、人間の子供が楽しむ遊びに付き合って時間を過ごした。


 また、この村にも行商の人が時折来るようで、村人は自分が作った作物を行商人たちと取引をしているのを見かけたりもした。

 陽炎としても、自分がどれ位生きていたかは既に覚えてはいないが、童心に帰ったような気持ちでつかの間の休暇を楽しむのだった。

オマケ

NGシーン

陽炎(そういえば、こういう時には名前を名乗らなければならないのだったな…)

(Q:どれにしますか?)

⇒「私は陽炎というものです」

 「名乗るほどのものではありません」

 「通りすがりのサンファイヤーだ」


陽炎(どっかの恋愛ゲームか…?)

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