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ブライス・ゼゼット妖精騎士団団長は広いとは言えないシェムエル村の公民館で集った国の軍隊、その指揮系統にもあたる妖精騎士団の面々の顔を見た。
レオンハルト家の次男として生まれ、8人居る妖精騎士団隊長のうちの1人、ゼゼット家に婿養子に出され、実力はもちろん家柄からも選ばれやがて栄えあるフリューゲル妖精騎士団団長に納まった。
騎士団の長となって8年目を迎え、幾度となく開戦の空気の中に居たが何度味わってもこの空気には慣れない。
が、黒板の横ではトラウマにならなかったのが不思議な位の散々な戦争デビューを飾った最年少騎士団のブレッド・アクセルが発見の経緯、学院生の妖精の偵察から判断したという分析を黒板の半分に書いたものを眺めながら現状を分析していた。
ノヴァエス領主を務める妖精騎士団第五団長のアルトゥールなんかは何時もの女たらしの顔は鳴りを顰め領主としてこの事態の不機嫌さを隠さない顔を大盤振る舞いしていた。
いや、寧ろこっちの方が似合うんじゃねぇ?何て思えばアルトゥールのとこの副団長が嬉しそうな顔をしている所を見ると案外こっちの方が地じゃねえかと、よくぞ今まで猫を被ってきたなと心の中で褒め称えて見れば何故かアルトゥールに睨まれた。
勘の良い奴目と苦笑するも
「ブレッド、ガーランドのヤツらは20人1師団で10師団潜入していると言うんだな」
「はい。ルートはキリアツム山脈からガーランドの国境沿いを通りノヴァエスに侵入したと思われます。野営跡地を見つけてきました」
野営跡地に赤い×印をいくつか書き込み
「よくここまで見付からなかったな」
感心するも
「一つ質問だが何で院生がここに居る」
黒板の横に立つブレッドの隣に椅子を置いてこれ以上と無いくらい居心地悪そうに小さく座っている赤い瞳の子供を見下ろす。
騎士団団長、隊長、副隊長と妖精騎士団隊長、副隊長という、トップのみがそろう中で院生が1人と言うのはとにかく目立つ。
軍の方の部隊長もちらちらと俺に視線で合図を送るから聞いてみたのだが、ブレッドはこれだけの面々を前に今それを聞くのかと言わんばかりの愛想の悪い顔で赤い瞳の少年を隣に立たせる。
「紹介が遅れましたが彼はラン・セン。華燐国出身でアルトゥール・フォン・ノヴァエスに援助を受けて学院に通ってる一年生です」
簡単な紹介をした所で
「俺の副隊長と、主にブレッドが面倒見てると言う所が抜けてるぞ」
やつあたりのようなアルトゥールの野次に「マジか?!」「虐待じゃないか」「って言うか他に保護するやつ居ないのか?」「ヴァレンドルフお前が引き取れよ」なんて散々な声が一気に沸きあがった。
その意見には大賛成だ。
5年前の戦争で敵の罠にはまった後方支援の任務を遂行していたブレッドがいた隊の救出に行った時の姿を見てこの天才はもう使い物にならんなと思っていたが暫らくノヴァエスの屋敷で引きこもった後ひょっこり現れたブレッドは事件の前のクソ生意気なガキに磨きがかかって復活を成し遂げた。
研究レポート20本と言う脅威の研究を成し遂げて通常10年以上かかる所を脅威の3年で博士号までもぎ取ってきたのだ。
アルトゥールに何をしたのだと聞くも「好き勝手させていたらこんな事になっていた」と頭痛そうに博士号授賞式を見ていた辺り本当にサポートはしても感知せずだった事がうかがい知れる。
精神年齢だけが育ってしまったそんな男に子育てだなんて、俺がレオンハルト家がらみじゃなきゃ引き取ってあげたいと思う境遇の子供を眺めながら
「で、その院生をここに呼んだ理由は?」
一際大きな声で周囲をけん制して言えばとたんに静かになる室内にブレッドは涼しげに言う。
「彼の妖精、名前をシュネルと言いますが、非常に優秀な情報調達能力があるので、このたびの戦争にはシュネルの能力が大いに役立ちます」
「で、その妖精は?」
「今調査中です」
言って窓際に立つジルベールに帰って来たかとチラリと見れば彼はまだと頭を横に振るだけ。
「情報調達能力なぁ。お前の所も文字を覚えて優秀だろ?」
4体の妖精を操る若き妖精騎士団副参謀長ブレッドにどっちが優秀だと聞けばそりゃもちろんと言いかけた所でジルベールがブレッドと呼ぶ。
「着たか」
ジルベールが窓を開ければ鮮やかなまでの赤い鳥と
「プリムどうした?!」
大きいとは言えない鳥の背にブレッドの4体の内一番小さい妖精がその背に乗っていた。
プリムはシュネルが到着した机の上にくったりと横になる。
「怪我をした様子はありませんね」
普段は医師として診療所を開いているジルベールはすぐさまその様子を見るが
「当り前の結果だろ。もう何時間休み無しで全力で飛ばせていると思ってるんだ。
休憩が必要だ」
アルトゥールが溜息混じりにそっとプリムを掬う様に抱き上げ何所で調達したのかタオルを敷き詰めたカゴにそっと横たえさせた。
「お前の気持ちは嬉しいがここがプリム達の限界だ。
朝から全力で飛ばし続けさせた。もう無理はさせれない」
言い終わるが早いかドアが開いたと思ったらアルトゥールのヴィンシャーが1体の妖精を頭の上に、1体の妖精を咥えてやってきた。
「アウアーにチェルニ……」
それから一体だけ遅れてやって来たのはルクス。
意地でも最後まで飛んで黒板に新たな情報を書き加えチェルニのいるカゴにもぐりこんでいった。
シェムブレイバーはシェムエルの森の主といわれるくらいの存在だがいくら優秀でも体の小ささの通りしか体力が無いのだ。
「暫らく休ませてやれ」
ブレッドの肩をポンと叩いて
「で、この小鳥ちゃんはどんな情報を持ってきてくれたのかな?」
机の上に座っていた妖精を覗き込めばガチリと音を立てるように睨まれたと思ったとたん飼い主の子供の服の中に潜り込んで行ってしまった。
「おいおい・・・」
いきなり妖精に無視をされてしまってどうしたものかと思うも更にいきなり俺の妖精ガムラムが足に噛みついてきた。
「ガムラム!」
相棒になって以来の暴挙と言うか突然の事に思わず声を荒げるもガムラムは俺を睨みながら唸り声さえ上げている。
それ所か妖精騎士団のつれている妖精達まで俺を非難するかのように睨んでいて思わずたじろいでしまえば
「妖精には妖精の順位があります。序列は絶対ですが、ここまでの反応は始めて見るな」
ブレッドの解説に妖精騎士団はもちろん軍側からもへーと言った簡単な溜息が聞えれば
「ちなみにシュネルは俺のヴィンより上位だ。よく頭の上で昼寝してるぞ」
「マジか?!」
精霊ウェルキィの亜種と言うのに酷い扱いだと笑いながら嘆くアルトゥールは俺がコケにされた事に機嫌をよくし何時もの調子が戻ってきたようだ。
ったく可愛げのないって言うのはお前らの事を言うんだよなと心の中で毒づき、さっきからずっとうーうーと唸り声を上げて抗議するガムラムの頭を一なでしてからランの正面にしゃがみ込んで膨らむ胸元に向って
「小鳥ちゃん扱いして悪かった。よかったら、お前さんが持って来た情報を教えてくれないか?」
不器用ながらも笑顔を向けて言うもすでに嫌われてしまった相手にはうんともすんともしないのが妖精と言う物。
しーんとした室内に騎士団長はふうと溜息を落として
「ブレッド、悪いが後は頼む」
「食べ物でも貢いで機嫌は取ってくださいよ。
このままだとここに居た妖精の協力すら得るのが難しくなりそうですし」
「そこまでか?!」
そうなると団長が団長としての地位すら危うくなると遠回しに言えばゼゼットは承知したと自分の荷物から菓子箱を取出し、この場に居る妖精達に作戦の間休憩するようにと指示を出す事にした。
そんなバタバタしている光景の中シュネルはランの胸元から出てきてやっとブレッド達に情報を渡す事を決めたようだ。