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精霊騎士である為に  作者: 雪那 由多
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精霊の住まう地フリュゲール

予約投稿です。


そこでランは手を挙げ


「ガルフォード・ガーランドは一気に領地を広げたけど、その前の王様達はなんでそこまでしなかったの?」


一気に広げる戦力があったのに何故しなかったと言いたいのかと言う質問に私も頷く。


「ガーランド国は元々農耕民族だから種植えの時期とか収穫の時期には戦争はしない。

 一年でも畑仕事をサボったら飢え死に決定の地だからな。

 侵略は冬の厳寒期の出稼ぎみたいな物だ。冬の間の食い扶持は減るし、春には侵略先からの土産で懐は潤う。

 侵略が成功しガーランドに春が来るまでは元来働き者の国民性だ。すぐさま土地を耕し食糧確保に勤しむ。そんな兵士に大概の国民は同情し、いかに自国の王が怠けているか比べてしまい、国民を味方につけるのが上手くて、こう言う事を繰り返して地盤をしっかりと作り、ガルフォード・ガーランドの時代でやっと一気に侵略が成功する事になった。

 今でも生きるのに厳しい国だからな。

 指導者にも技量が求められるし国民も指導者を疑えば待ち受けるのは一年もしないうちの死だから、故郷にのこされた家族のためにもいつか楽な生活をさせてあげたい想いはどの国よりも強かったのが勝因だ」


「だが、さすがのガーランド国はガムザ山脈を越える事はできなかったわ」


新たな声がブレッドの特別授業の続きを始めた。

振り向けば


「アリシア先生!先生も・・・」


赤に金の飾りの付いたブレッドと同じコートを身に纏っていた。

ただし何時もの動きやすいズボンではなく黒のズボンと膝上までのロングブーツ。腰には帯剣をし


「私が一番乗り?」

「さすがです」


ブレッドが書いた黒板を見ながら


「みんなはガーランド皇国がフリュゲールに侵攻しなかった理由は想像付く?」


聞かれた質問にディックが


「ガムザ山脈は精霊の住まう山です。いかにガーランド国が強大でも精霊に挑むのは無謀」

「ダメ。次はテオ」

「山を越えるのがめんどくさかった」

「ガーランド国は元々山岳民族よ。

 国の場所自体ガムザ山脈の中腹より上にあるのは授業でも教えたはずよ。

 山越えなんて問題にしないの。次フラン!」

「えと、いくらガーランドでも侵略は冬だから、さすがにガムザ山脈を冬場に越えるのは無謀・・・」

「却下。貴方達、ガーランドとは山で区切られてるだけだと思っちゃだめよ。隣同士海路だって有効なのを忘れているわけじゃないよね?ラン!」

「あ、えと、確か精霊信仰が根強くて、ガムザ山脈の精霊と東のサーシェス海の精霊の住む地を血で怪我したくなかった・・・」


最後にランがしどろもどろに答えた言葉にアリシア先生はフンと鼻息を吐き出し


「それだけじゃ70点よ。はい。正解をブレッド!」


突然の名指しに驚いた顔を歪め


「ガーランドは精霊信仰が強く、特にガムザ山脈を住みかにしているクヴェルを神とし、このフリュゲールにはこの一帯の妖精の主でもある精霊フリュゲールの住む地。フリュゲールの使いとなるクヴェル。精霊フリュゲールの住む地を穢そうと言うのは恐れ多くて最後まで躊躇いが生まれ、結果フリュゲールの侵攻は成功が出来なかった」

「ここまで答えれたら100点をやろう」


一番答えに近かったランの頭を褒め称えるように撫でているのをなんだか微妙な気分で眺めていれば


「所で、何で貴方達がこんな所に居るの?」


もっと早くにそこに気づいて欲しかった。


「今日私達はシェムエルの森で妖精に会いに行っていたのですが、途中ブレッド博士に出会って、えと……」

「フェイヘイだ。ガムザ山脈から西に続いているキリアツム山脈より北側の3000エール以上に生息する希少種だ。主にガーランドの皇族が飼ってる」


ランの足元を離れずに纏わり付いているフェイヘイをアリシア先生は抱き上げ、その顔をまじまじと見る。


「ランは……そうか。お前はもう妖精がいたのだったな」

「はい。シュネルって言います」


言って服の胸のボタンを外し、内ポケットにもぐりこんでいた赤い鳥形の妖精シュネルをつかみ出すもすぐに内ポケットへと潜り込む。


「アリシア・ガーネット先生だよ。服にもぐりこんでないでちゃんと挨拶するんだ」


人見知りをするせいか私達だって今だ片手ぐらいしかあった事はない。


「ああ、すみません。こいつ普段からこう言う風だから出来たらあまり気にしないで下さい」

「まあね、そういう妖精は時々居るから気にしないわよ・・・」


言って逃げ出そうとするシュネルのシッポを捕まえた所でやっとご対面できた。

二人と言うか、先生とシュネルは一瞬固まったかのように見つめあいどこかぎこちない動作で視線を反らせた。


「先生、ひょっとして鳥が苦手だとか?」


予想外の反応にテオがからかうように笑えば次の瞬間床に寝転んでいた。

何があったのかは見えなかったけど、一体何が起きたのか非常に気になる所だけど本能が聞いちゃいけない。聞いたら同じ目に会うと押し留めるから気にならないフリをすればそれはどうやら私だけでは無いようだった。


「いや、苦手とかじゃなく、こんな小さい体だったから……そう!

 戦場でも大丈夫か一瞬考えてしまったんだよ」


はははと、いかにも嘘っぽい言葉を並べればシュネルはまた何時もの定位置のランの服の内ポケットに潜り込んだ。


「まぁ、院生でも手伝いぐらいなら出来るかと彼らの保護も兼ねてつれてきましたが……」


何とかこの場の空気を変えるようにブレッド博士が口を紡げば


「ブレッド!どう言う事だ、俺の許可無く敵軍が侵入してとは?!」


ブレッドと言うも無視をして妖精に跨ったまま黒板に記されている物を見ていた。


「ガーランド軍だと?イエンティ、アレグローサは何をしていた!」


舞台俳優のような美しい人だと思っていたのに思わぬ気性に思わずたじろぐ。侵略とは決まってないかもしれないけど戦争が起きるんじゃないかと不安は私の体を氷のように固まらせるが、その手が不意に暖かくなる。

ゆっくりとその手を見れば私の手にディックとテオが繋がっていた。

二人は何も言わず私を励ますように見つめていてくれるからゆっくりと深呼吸をする。


「大丈夫。落ち着いたわ」


声が震えてるかもしれないけど、大丈夫だといえば二人は柔らかな笑みを浮べるけど手は離してくれなかった。


「アルト落ち着け。戦争がおきるなら隣のレオンハルトだ。狙いはウェルキィだろう」

「落ち着いてられるか!勝手に領地をあらされる領主の気持ちがお前にわかるのか?!」


私の代わりにノヴァエス領主が激昂してくれてだんだん冷静になれる。


「領民はもちろん領土の総てを私は守る義務があるんだぞ!」

「判ってるから、そんな姿を領民の前で晒すな」


ブレッドが落ち着かせるように言えば領主様はゆっくりと周囲を見回し「見苦しい所を見せた。すまん」とだけ言って黒板を睨みつけるようにながめていた。


「アリシア先生もやっぱりウェルキィが狙いだと思いますか?」


眉間と眉間に皺を刻みつけたまま問えば


「ガーラントがここまで侵入したとならばそうだろうな」


返された答えにチッと舌打ちをし


「知ってのとおりレオンハルト公はここ数年臥せっていてウェルキィ自体もう長い事公の場に現れていない。後継者は未熟な小娘、しかも未確定だ。

 援軍が送られてくると言うなら確実にシェムエルは焼ける。

 ウェルキィが連れ去られ森が焼け落ちればシェムエルの水源も枯れ、復旧の見込みは無い」


言ってゆっくりとブレッドを見る。


「お前の力を貸してくれ」


懇願するような視線に誰もが息を飲む中ブレッド博士は力強く頷く。


「俺の妖精の故郷を焼け野原に誰がさせるか、だ」


最年少妖精騎士団員で私達より二つ年上なのにやけに頼もしく思え、これから戦争が始まると言うのに全然怖くなかった。


「ブレッド戻りました。ああ、アルトも来ていたのですね。アリシア先生もお久しぶりです」


いつの間にか姿を見なかったジルベールはティルルに沢山の荷物を括りつけて現れた。


「すみません。薬を取りに行くついでに診療所を閉めてきました。それからブレッドの荷物もついでに取ってきましたよ」

「悪いな」

「森に行くのにその格好では動きづらいでしょう?もうすぐ騎士団も到着します。早く着替えてらっしゃい」


更衣室に送り出す合間に外は賑やかになり、騎士団の団長達が次々と入ってきて私達は外に出るように言われたが


「ランはちょっと残ってくれ」


ブレッドに引張られ公民館の中に連れ戻されてしまった。


「何だあれ?」


なんとなく気分悪いといわんばかりの顔でテオは閉じられた扉を睨みつければ


「あれが妖精持ちと妖精の居ないやつとの差だ。にしても、あれまだ学院生だろ?優秀なんだな」


通り過ぎの騎士団の鎧を纏ったぼさぼさ頭の男がニカリと笑う。


「ま、そうやって妖精なしさんは悔しい思いをしながら成長するんだ」


じゃあなと言って野営の準備をしている一群の中に混ざっていた騎士の後ろ姿を見送れば


「俺、この戦争が終わったら学校が終わったら毎日妖精に会いに行く」

「奇遇だな。俺も同じ事考えてた」

「あら?私達ほんと気が合うわね」


言って揃って苦笑。


「ランに嫉妬するなんて私達どうにかしてるわ」

「だな」

「俺達に出来る事は一日も早く妖精に出会い」

「ランと一緒に励まし合う事よね」

「ああ、妖精の居ない俺達が羨ましがるのは筋違いだ。同じ舞台に立って仲間入りを実感しようぜ?」


目の前でまた1人妖精使いが室内に入っていくのをただ何も出来ない無力な子供と言う事実にで眺めれば


「きみ達、学院生だろ?野営の設定手伝ってくれ」


さっきとは違う騎士に呼ばれ、私達は顔を見合わせる。


「今行きます!」


学院に入れたと言うプライドは脱ぎ捨てていずれこの輪の中に入る未来の予行練習と、練習じゃないけど私達は私達が今出来る事に全力で取り組む事にした。


1センチー1ゼール

1メートル=1エール

1キロ=1ソール

四則演算と0の概念のない世界なので単位も少なくソールより上は在りません。

1年後辺り概念が壊されますが、それまでの話なのでこの程度になります。

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