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精霊騎士である為に  作者: 雪那 由多
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既に周りは固めてあった……とか

予約投稿してます。

いきなり失敗したので、今回こそ失敗してませんように!

遠巻きにランを見つめる妖精達に向かってランは愛くるしいまでの笑顔で手を差し伸べて呼びかければ主持ちの妖精も、どこからか現れたまだ一人きりの妖精もランの周りに集まり彼が差し延ばした腕に飛び込むように集まる。


「なっ?!」


初めて見る現象だからか?

それとも集まった妖精の数の多さだからか?

去って行ったばかりのオリヴィアも足を止め振り向き何事かと唖然とし、突然飛び出した妖精を追ってきた主人達も茫然とし、過去の文献でも見た事のないような光景に俺を含めた教師達は研究者の欲望丸出しにその光景を分析始め…


「それよりほっといてもいいのか?ランが妖精につぶされるぞ」


シェムブレイバーのような小さい種族達ならともかくいつの間にかやってきていたヴィンシャーとティルシャルも一度ランの顔を舐めて主人の足元でランを眺めている。


「いったい何が起きているのでしょう?」


こんな数の暴力とまでの多さになると誰も近づけないでいる。

いや、決して暴力じゃないから困っているのだ。

妖精達が彼と触れ合いたいと集うのだ。

人として彼らを排除しようとすると傷つける可能性もある。

社交的なブレッドの四体もいつの間にか集まるも、彼らは一緒に住んでいるせいかウェルキィ同様周囲でこの様子を見守っていた。


「ほんと何が起きているんだか」


アルトゥールは整えられた髪に無造作に指を突っ込むも妖精に押し倒されて悲鳴を上げているランをどう助けるか悩んでいれば


ぴゅるるるるるるる・・・・ひゅ――――…ぴゅるる――――


聞いた事も見た事のない鳥の美しい声だった。

影を落としながらランの頭上を数度旋回するうちに妖精達はその存在に気づきランから離れていく。

波が引くようにすべての妖精達は主のもとへ、主無き者は距離を取れば寝転がったまま伸ばされた手にその鳥が止まった。


「シュネル助かったよ」


疲れきった声にぴゅるると答えた深紅の体の鳥はたぶん


「お前の妖精か?」


訪ねれば起き上がったランは俺たちを見て


「うん。前に話した僕のシュネル」


不思議な妖精だった。

深紅と見えた体は陽光の煌きの中炎がうねるように輝き淡いながらも光を放っている。

ランの掌の中にすっぽりと隠れるほどの小さな妖精だがすらりと手から零れ落ちた長い尾羽はひょこひょこと感情を伝えるように動く。


「今回はずいぶん遠くまで行ってたんだね?」


言えばシュネルはまるで鳥のように首を傾げたかと思えばその体が淡く輝く。

シュネルの能力……

妖精本来その種族に縁のある力を操る事が出来るが、それが主を持つことでどう変化するかがブレッドの研究の一環で、ずっとその研究を見守ってきた俺としてもある程度の知識はあり、初めて見る妖精の能力に興味がわく。

輝きはシュネルの前に収束し、まるで密度を高めたような淡い輝きを小さくも鋭いくちばしでランに向かって押し当てれば、その輝きはランにすっと溶け込んでいく。

それだけだった。

だけどランは光が溶け込んだ場所の胸に手を当て瞼を閉じふふふと幸せそうに笑う。


「そう。アウリールが無事送り届けてくれたんだ。みんな元気で……

 うん。先生達とも合流できて……ふふふ。うん。みんなありがとう」


突然の独り言に涙さえ浮かべる姿にぎょっとするもゆっくりと瞼に浮かんだ涙を指先で拭えばランは綺麗に笑う。


「シュネルありがとう!僕も無事着いて元気だよってまたみんなに伝言お願いするね」


明るい声で言えばそれにこたえるようにシュネルはぴゅるると鳴いた。


「もちろん休憩してからで十分だよ!」


それからランの腕をジャンプするように渡り歩いたかと思えば制服の内側に潜り込んで行ってしまった。

静まった妖精達はどこか惜しむようにランを見ていたもののやがて一体、二体と何度も後ろを振り向きながら去って行っていく。ところどころまだ別れ惜しいというようにとどまっている者もいるが、ランは制服についたほこりを落とすようにはたけばブレッドが近づく。


「今のがシュネルの能力か?」


訪ねる問いにランはそうだよと素直に答える。


「言葉はもちろんその時の風景まで頭の中で再生してくれるんだ」


伝達能力。

この妖精の能力かと感心するも成りは小さいが、あれほどの妖精を一声で圧倒したほどの妖精だ。

他にも能力を隠しているんじゃないかと考えて彼との数少ないシュネルとの話を思い出して想像をつける。


「ひょっとして…」


と言いかけた所でブレッドの鋭い眼光が俺の口を閉ざさせた。

たぶんきっとおれと同じことを考えているのだろう。

目を閉じて三回呼吸を繰り返し平常心を取り戻す。


「それよりも私はおなかがペコペコだ。

 屋敷で入学のお祝いの準備をさせてある。食事にしないか?」


妖精に押し倒されてぐしゃぐしゃになった頭を整えてやりながら迎えの馬車に向かってその背中を押して歩けば慌ててジルベールもブレッドもついてくる。

「ヴィン!悪いがもうすぐ家に帰る事を先に行って伝えてくれ」

「ならティルルも一緒に」


仲良く二体を送り出して待たせてある馬車へと乗り込めば途中オリヴィアが俺達を、いや、ランを睨んでいた。

クスリと意地悪く笑みを浮かべるもプライド高い彼女は何れ従える妖精持ちとしてにっこりとした余裕の笑顔で笑い返してきた。






入学式も無事終わり初めての授業が始まった。

今年の入学者は16名と昨年の12名と言う数字に比べたら素晴らしく豊作の年だった。

本来なら14名の所を海外からの入学生と飛び級で予想外の新入生が入学してくれたのは嬉しい誤算だ。

ただ頭が痛いのはこの飛び級で入学した女生徒はこのフリュゲール国四公の領主の娘、四公爵レオンハルト家の直系の孫、オリヴィア・レオンハルトだった。

まさか俺が担任の時に東の四公が入学するとは想像もしなかった。

最低あと二年は先の話だと思っていただけに、入試の折には教員の間でも話題に上ったが、まさか文句つけようのない点数で入学してくるとは思いもしなかったが、それよりも問題児は今は滅んだ華燐国からの来訪者で彼女オリヴィア・レオンハルトよりも優秀な成績で入学したのだ。

実質上の主席だが、まさか国外の人物に主席に座らせるわけもないどころが、レオンハルト家を差し置いて主席にするわけにもいかず、会議の末に同国出身者と言う理由で主席に座らせたのだが、それ以降は実力主義の学院の法式にのっとって成績順にしようという事でまとまったのは学院内の秘密だ。

この問題児ラン・センはオリヴィア・レオンハルトより一つ年下で、なんとあのブレッド・アクセルとジルベール・ヴァンドルフが保護責任者。さらにその背後には東北の八家のノヴァエスも控えている。

ただでさえレオンハルト家とその取り巻きの四人の家柄だけでもめんどくさいのに、ラン・センにはあのブレッド・アクセルがいる。


ブレッド・アクセル---


8歳年下の同級生で200年以上を誇る学院の歴史の中で最年少入学を果たし、そのずば抜けた頭脳で最年少首席卒業をした超をつけてもいい天才児だった。

何処かの貴族の愛人の息子だと噂は聞いたとこがあったがニコリともしない感情のない子供にただ不気味さを覚え彼は幼いながらも常に孤独だった。

同じ年頃の子供はまだ親の後ろにくっついて恥ずかしながらも甘えたい年頃だったはずなのに、彼は1人で入学式を迎え、卒業していった。

なんでも父親はおらず、母親は仕事で忙しいと至極普通な返答だったが、栄えある王立学院に入学していてそれはないだろうと誰もが怪しみ、好奇心はとどまる事は知らなかった。

父親には認知され、愛人として本家にも認められているものの、異母兄弟とは折り合いが悪く疎遠だという。

そして母親は愛人を全うしつつ、人気宿屋の食堂を切り盛りしているという、実に言葉の通りだったのだから。

噂好きな年頃として冷やかしと言うか、からかいに行ったことがあったのだが宿泊外の客も集まる大繁盛の食堂で、当時俺達のような子供が入る隙はなく、ちらりとだけ見えた母親の姿は化粧っ気があまりない質素ない出立ちだが、ブレッドよりも派手な長い金髪を一つに束ね、何としてもお近づきになりたい男どもを笑顔で追い返す美貌は子供ながら一目ぼれと言っても間違いないだろう。

何でこんなにも美しい人が愛人なのだろうか、何であんなにも美しい人からあのブレッドが生まれたのか、そんな疑問を残して俺達は時折同年代の女子に馬鹿にされながらも遠巻きに眺めるのを今もやめる事はなかった。

それから三年、ブレッドは飛び級制度を利用して7歳で入学し、10歳で瞬く間に首席で卒業してしまった。

俺達が順調に学年をあがる合間に彼は先輩となり、感化された同い年のアルトゥール・フォン・ノヴァエスとジルベール・ヴァレンドルフも残り短い学生生活を彼と共に駆け抜けて卒業するというその年の話題をすべて三人でかっさらっていってしまった。

そんなわけで元同級生としては軽く苦手意識を持ち、いろいろと嫌がらせをした身としては負い目を感じていた。

当然卒業をして方や貴族や、医者、15歳で博士号を取った相手に学院教師とはいえまだ一番下っ端の俺が下手にちょっかいを出したらどうなる事か想像は容易い。

なんせ最悪なのが貴族の奴だ。

20歳と共に八家ノヴァエス家当主として継いでしまったのだ。

本来なら継ぐべき母親が病気がちな為に婿養子のやはり妖精使いの父親が当初継ぐはずだと誰もが思っていたが、妖精にも格があり、ウェルキィとどこにでも見かける妖精ニンフ属最下位種のシェスタでは比べるのも失礼と言うものだ。

妖精使いとしてまあ当然だなと、シェスタなんて妖精捕まえる時よほど焦って捕まえる間抜けな奴か、最後まで捕まえる事が出来なかったドジな奴が扱う妖精と使い手の間での常識だが、家柄と顔だけは悪くない父親は無事種馬として八家に潜り込むことに成功したのだ。

納得していないのは本人だけで、でもウェルキィが怖くて自分の息子にすら遠慮しているという小物。

と言うか、むしろそうやって親さえ押さえつけている時点でヤバいよなと思うのが一般的な感想なのだが、そんな相手に真っ向から喧嘩なんて売りたくないというのが俺の防衛本能。

二大悪魔に憑りつかれた今年の最年少入学生の担任としては無事一年過ごしてもらうのが一番の心労なんだろうが…


「では、今日から授業を始める。この一年はこの国の歴史と妖精についてとことん学んでもらい、妖精をパートナーとして迎える為の体力づくりをしながら二学年に上がってもらう。

 なお、いくら成績優秀でも妖精に選ばれなかったものは単位は取れず、妖精に選ばれるまで卒業まで同じ授業を繰り返してもらう」


妖精を持たない生徒たちに緊張が走るが


「すでに妖精に選ばれているラン・センにはみんなのサポートに回ってもらう。

 ラン・センには全員が無事妖精に選ばれるように惜しみなくアドバイスをするように」


周囲からの視線に縮まる彼にため息をこぼすも


「さて、授業を始める」


高らかな宣言と共にぶ厚い教科書の表紙をめくり、既に頭に叩き込まれている精霊と妖精とその使い手たちと言う文字に目を落とした。


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