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精霊騎士である為に  作者: 雪那 由多
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城破壊の魔物使いと言う称号を手に入れたようですが?

ランセン・レッセラート・フリューゲルの戴冠式は年が明けた月の終わりに各国の王族を招きそれは見事なな式典を繰り広げたのだった。

何より二百年ぶりに王が立ち、王制も復活した。

同時にお披露目となった新体制の四公八家の新しい顔ぶれ、新しくあつらえた意匠の騎士服に身を包む妖精騎士団、まだ暫定だが国の中枢を動かす議員と国民と、そしてそれらを世界中に披露したのだった。

まだ12歳の子供がどの国にも劣らない贅を尽くした王冠を頂き、肩には精巧な翼竜を意匠としたフィブラが真紅のマントを止めていた。

誰もが王相応しい風格だと外交上褒めちぎるも、小さくなったアウリールが本物のフィブラの上に重なるようにして肩に止まっていると言う護衛と言う名のちょっとしたずるだ。

本当の事を知れば誰もが驚くだろう。

ドラゴンと言えばこの大陸ではS~SSSクラスの魔物と言う共通認識がある。

戦場で見せた真の姿を見れば誰もがアウリールはSSSクラスに指定するだろう。

彼のドラゴンブレスは国境から100000エール超えた先のガーランドの王都にまで届いていた。

ゼゼットがアウリールと共に王都に辿り着いた時は既に役職は逃げ去り、閑散とした王宮の片隅に息を潜めて隠れるように王族が怯えて待っていた。

どう考えてもやり過ぎだったと反省してもすでに遅い。

ガーランドでは実しやかにフリュゲールの王が山を壊し、城を国を越えて破壊したと囁かれている。

ひどい勘違いだ。

許可したのはランかもしれないが、実行したのはアウリールだ。

とは言え、さすがにガーランドの中枢まで攻撃が届くとは思っていなかった。

アウリールの攻撃力を見誤ったランは反省するしかない。

そんなおっかないドラゴンの反対の左の肩には小さくも愛らしい姿のシュネルが止まって居た物の、長く続く各国の王族や大使の挨拶に疲れたのか飽きたのか判らないがランが頂く王冠の上で眠っていた。

時折マントの中に隠れたりと自由すぎる姿にランはくすぐったそうに笑い、誰もが玉座での戯れに目を丸くし、そして近くに侍る物は苦笑を隠せずにはいられなかった。

だけど王座を囲むように巨体の姿のフェルスが寝そべり、時折耳を動かしてみたり、しっぽを揺らしたりと、退屈し切っている子供を喜ばせ、子供王様を見下している大人達はあんなものを従えるランに怯えていた。

そんな意味でもランの存在は城破壊の魔物使いとして各国の情報に書き加えられていく事になる。

10日に渡る祝賀会は各国の王や大使を満足させた。

何せ魔物が出ないフリュゲールと言う事で有名な国なので滞在中はまず魔物に怯える事がなく純粋に楽しむ事が出来る。

そして魔物が出ないので国も荒れず街並みも美しく、年代を重ねた重厚な風格を持つ屋敷が各国の代表を受け入れ、大いにもてなした。

フリュゲールは陸路が高い山々に囲まれている為に海側ぐらいからしか安全に入国できない。

天候もあまり荒れる事のない巨大船を受け入れる事の出来るフリュゲールの港は美しい旅客船の博覧会のように港に留まり、各国とも自らの威信をかけて自慢の船を披露するのだ。

ちゃっかりとフリュゲール国もガーランドから奪い取った造船所で建造中の船を豪華旅客船風に作らせ、その進水式も公開し、処女航海はノヴァエスからリズルラントと言う短い距離ながらも客たちを喜ばせて見せた。。

北側入り口ノヴァエス、南側の入り口マーダー、そしてリズルラントは船を動かす船員によって真夜中まで賑やかで、豊かな土壌がはぐくむ作物は大いに客達の胃袋を満足させ、それは新たな貿易へと発展していった。

成功と言うにはふさわしい戴冠式であったが、それまでの道のりは戴冠式なんてできるのかと誰もが顔を青ざめていたのだから結果よければすべてよしだと今なら言えよう。

なんせ、キュプロクスを打った後ランは倒れるようにして10日に渡る眠りに就く事になったのだ。


「精霊騎士になった反動だ。

 体が休まるまでは寝たままになる」


アウリールの説明にランが眠るベットの片隅でシュネルがその眠りを見守り、アウリールが説明した。

こちらに来る前にも一度起きた事だから私達は理解しているが、こう言う事はこれからもたびたび起きるかもしれないから覚えておくようにとの注意事項から始まり


「ランが居た大陸では既に魔法、魔術はすたれ、誰もが使える事を忘れ去っていた場所だ。

 この国同様、人は総て等しく魔力を持っている。

 だが魔力を扱う器官を長い時間が体からその存在を忘れ去り、魔力が使えなくなったと言うのが正しいのだが、ランもこの国同様魔術、魔法を使う事が出来ない。

 なら、なぜランは魔法をつかえたか。

 フリューゲルの精霊騎士として同化した事でフリューゲルの魔力を、そして魔法を扱う事が出来るようになった。

 とはいえ、もともとがわずかな魔力しかなく、そして使えなくなった器官を同化する事で無理やり使用したのだ。

 反動は同化を解いたランの体にやってくる。

 むしろそんな状態であれだけの一撃を放てたのは見事だった。

 今こうやって眠っているのはランの体の中に流れ込んだフリューゲルの魔力の排出と無理やり起動した器官が正常化となるまでの修復期間だと思ってもらってもいい。

 いつ起きるかは判らないが、そのうち起きる」


アウリールの説明を理解するのは魔法の使えないアルトゥール達には難解な言葉だが、その言葉を吟味するように腕を組んで難しい顔をしたままのブレッドは


「つまり、ランが精霊騎士になる度にこう言った事は起きると?」

「毎度毎度ではないが今回は魔法を使った反動だ。

 前例を我々は知らないがこの程度で済むならさしたる問題はないだろう。

 ランはフリューゲルと精霊騎士と言う盟約を交わしている。

 内容は言えないが精霊騎士としての役目を終えるまでランは命の心配をする事はないのだから」

「それは、どういう……」

「精霊騎士とは、精霊の下僕となり精霊の願いを叶える為にその一生を共に捧げる者だ。

 代償にその精霊の恩恵を受ける事になるのだが、精霊の願いを叶えるまで精霊と共に生き続ける事になる。

 永遠と言う時間を生きる精霊の下僕だ。

 首を刎ねられたりと言った一瞬での確実な死にはあがら得ないが、多少の傷なら生命力の強い精霊の恩恵を受けて人よりも体は丈夫であるだろう。

 普通にしていれば成人まで人と同様に成長し、我ら同様悠久の時を生きる者になる」


愕然としたその言葉をブレッド達は聞いた。


「ランは、それを知っているのですか?」


呻くようにジルが確認すれば


「あの同化も、悠久の時を過ごす事になるかもしれない事もランは承諾している」


横になり、瞼を閉じて呼吸をするだけの姿のランを見ても言葉が出ない。

そんな話し聞いてないぞと掴みかかりたかったが、眠りっぱなしで既に3日。


「二回目だからどうなるかは判らないが、この間は我々は最大限の守備でランを守らせてもらう」


それが我ら主の命令だとアウリールは言って、ノヴァエスの王都の屋敷にある、ランの部屋に居つく事になるのだが、それと、ランの目覚めがいつになるかわからないとブレッドは元老院に説明する。


「いずれ目が覚めるならこのまま戴冠式の準備は続けよう。

 フリュゲールの威信を取り戻すチャンスだ。

 半年後の新年を迎えるのと同時に式典を開催する。

 既に各国には招待状を送る用意は出来た」


アレグローザはそう言って、いざとなったら似通った子供を代理に立てればいいとブレッドの不安を一蹴した。


「それともお前の心配は他所にあるのか?

 だったら顔を洗って出直して来い」


その言葉を最後に会話を強制終了させて、アレグローザは過去の式典の資料を貪っていた。

もう止まる事は出来ないと言う元老院側の言葉と、ブレッドはアレグローザの言わんとする言葉を噛みしめて元老院を後にする。

それからランのすう、すう、と呼吸するだけの室内の彼を見下ろしながら、あの時俺が拾わずに、ランが自力で目を覚まして、自力でこの国に滞在する事になればこんな事にはならなかっただろうかと考える。

ランならそれぐらいの事はやっていける器用さを持ち合わせていて、俺のおせっかいがランをこんな目に遭わせたのかもしれないと堂々巡りの思考にジルもアルトも気のせいだと言ってくれるが、ひたすら眠る姿を見るたびに心の中に積もる重石はどんどんと重くなる一方だった。


そんな日々を10日ほど経った所でランは目を覚ました。

不意に風に乗ってやって来た匂いに気が付いて目が開いた。

小さな、よく知る四体の妖精達が両手に自分達よりも大きな花をベットの上に、そして枕の横に、はたまたランの髪に飾ったりして遊んでいた。

ランが目を開けた事に気づいた長い髪の妖精は持っていた花をランに押し付けるので、干からびた様にのどの渇いた口でありがとうと伝えればすぐさま何処かへと飛んで行ってしまった。

残された三体は水差しが側にある事を教えてくれたり、枕元に飾られた果物を食べようと急かしたり、持っていた花を彼女同様受け取って欲しくて目の前で花を振り回したりと大はしゃぎだ。

とりあえず、花を貰い、水を一口飲んで、赤い果実の皮をむいてみんなで食べる。

甘くみずみずしい歯ごたえの良い果肉の食感を随分久しぶりだと感動しながらゆっくりと飲み込み、また一口かじる。

そんな様子に妖精達は自分達にも切ってくれと甘えるようにせがめば、ランは妖精達に小さく切り分けていた男を思い出しながら同じように切り分けて与えていく。

両手で受け取った果実を肩に座って食べたり、膝の上で食べたり、自分の食べかけだけどランにいっぱい食べてもらいたいと言うようにランの口に押し込んできたりと、いつもの賑やかな食事の風景に思わずランは笑い声を上げながら果実を食べさせてもらい、そしてまた新たに強請られた新しい別の果実の皮をむきながら


「ブレッドに見つかったら怒られるねー?」


何て言えば、妖精達も一瞬ぎくりと体を強張らせるもその前に食べようと急かす始末。

はいはい。ちょっと待ってて。

やがて近づいてくる足音に果物を切り分けたのをサイドテーブルに置いて、妖精がどこからか持って来たタオルで手を拭いて待っていれば、ドアを潜った足は止まることなくランが座るベットまで飛び込んできて。

感情のないと揶揄される顔が涙ぐんでいくのをどうすればいいかわからず、やがてやってくるだろうこの家の主人達を待つ間、その頭を抱きしめて無言のまま泣く男をあやすのだった。




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