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精霊騎士である為に  作者: 雪那 由多
20/29

精霊騎士

ランの下にブレッドを始め、アルト、ジル、学院生、ノヴァエス兵、そして一部の軍隊もやって来ていた。

別の隊長にはこれは裏切り行為だと、今なら間に合うから戻れと喚くが、どっちにしても生きて帰れないのだからと死に場所ぐらい選ばせろと言い返す始末。

そんな合間にもアウリールのドラゴンブレスの一件に気づきつつも止められない戦船の銅鑼は近づいてきて、ついに姿を現した。

川を下り突撃するだけの為に余分な物は一切殺げ落とした船。

船の先と底を鉄板で強化し、突撃と人員の輸送に強化した船。

側面にはいくつもの窓があり、既にいつでも矢を射れるように構えの状態で待っている。

当てる必要はない。

数撃てば当たる状況ではそれで十分で、互い違いの二段の窓からはいつ放ってもいいようにとぎっしりと矢がフリュゲールを狙っている。


「来たっ!」


ランの元に集まった兵も、森にとどまった兵も戦争どころではないごった返した配置の中ランはアリシアを見上げる。


「お願いするよ」

「任せて!アタシ達はランの力なの。

 ランが望む時、望む様に望みを叶えるのがアタシ達の喜びなのよ」


だから安心して待っててねと頭にちゅーとキスを落としてまた腰をくねくねとキャットウォークよろしく一人川辺に立ちそのまま水辺で遊ぶかのようにぴょんと飛び込んだのだ。

本当なら『あの川の流れに飛び込むなんて無謀だ!』と止めるべきなのだろうが、カミングアウトしたばかりの後のキャットウォーク。

敵味方関係なく手は伸ばせど声が掛けられなく誰もがその姿勢で固まっていたが、その途端に派手な水柱が立ち上がった。

いつそこに噴水が出来たのだろうか?

いや滝じゃないのか?

そもそも川の真ん中に何でそんな物がと思う合間に、流れ落ちた水柱の中から一体のドラゴンが鎌首をもたげて俺達を見ていた。

こんな所に魔物が……

アリシア先生は?

なんで普通の魔物すら住まないフリュゲールに超危険級なドラゴンが出現なんて?!

この国が誕生して以来どの記録書にも出てこなかったドラゴンが俺達を見下ろし、パチンとウインクをした。

ぞぞぞぞぞ……

背筋を這い上がるうすら寒い本能的拒否感覚に思考は真っ白になり、学院生達は悲鳴を上げて互いに抱き合って耐える中


「アリシアがんばれー!」


ぶんぶんと元気よく手り応援するランに、全員が心の中で突っ込んだ。

お前かよ!!!

ビビらすなとか、心配させるなとか、見える所で変身しろとか言いたい放題喚くも、すぐそこまでに迫って来た戦船にアリシアの川の様な長い蛇のような巨体絡まり、その圧力によって潰していく。

次々に流れて来て上陸しようとする戦船をその手前で次々に潰していく様を呆然としながら見守る。

ランは言った言葉を思い出す。


『僕は僕の持つすべての力を使い、僕と敵対する総てを殲滅する!』と……


一人でガーランドと戦うなんてと思っていたが、確かにこれなら一人でも戦う事が出来る。

それと同時に、これだけの力を持っているランが今まで野放しで過ごしてきたのだ。

正直、この力を自由にできるランの思考ひとつでどうとでもできる現実に恐ろしいと思う反面、敵対せず、ランの加護の内に入れた事に胸を撫で下ろさずにはいられない。

何十隻となってやってくるだろう戦船は次々に沈められ、数の多さにアウリールと呼ばれたドラゴン同様ドラゴンブレスで吹き飛ばし、そしてその巨体を揺らす事で川の流れにうねりを作り、無事船から脱出したガーランド兵はそのうねりにのみ込まれ、高く護岸を整備されたノヴァエス側によじ登るガーランド兵は一人もいなかった。

その合間にも崖の上のアウリールが時折ドラゴンブレスを放ち、まだ崖の上に居るガーランド軍を吹き飛ばしているのを崖の下で想像するのは荒れ果てた大地と壊滅状態のガーランド軍の光景だけだ。

がんばれーと応援するランの後姿を見つつも、ランと敵対したらと思うどうあがいても勝てる気がしないと言うか、勝てる要素がどこにもなく、冷や汗を流して息を呑むしかない。

やがてやってくる戦船はなくなり、川から上がって来たアリシアは、アウリール同様光に溶けるようにして人型へと戻る。

アウリール先生あなたって人はと言おうと思うも、光が消えた人型の姿は何度も名前を呼んだ教師の姿ではなく、大きな耳飾りを付けた短い髪の長身の男が立っていた。

派手なエメラルドグリーンの髪と、海よりも深い青の瞳が俺達を見て笑っている。


「まぁ、ランの許しがあればまた軍に戻ってもいいんだけどぉ?」

「その前にあっちをどうにかしてからだよ。

 騎士団が面白いのならまたやっても問題ないけど」

「ううん!違うの!アタシ軍の方が大好きなの!

 ほら、女の子も居るけど基本男ばかりの集団でしょ?!

 あんなたまらない所に行けるならアタシ頑張っちゃうんだから!」

「二度と軍に来るな。ランの供をしてろ」


思わず素でアルトが拒否をするも、アリシアは薄く笑みを浮かべ


「何言ってるのよ!

 ランの家族公認のアルトゥールもアタシがお風呂もベッドの中もお供をしてあげるわぁ!」


キャ、アタシって天才!

素敵よねーとうっとりと呟くアリシアにアルトは反射的にジルを盾に隠れるも、よろしくねと投げキッスと同時にパチンとウインクされれば、何も見ない、知らない、聞こえないと言うように顔と言うより体そのものをそっぽに向けていた。


そんなアリシアの圧倒的戦力と深い愛情に沸くのだが


「これは一体どう言う事だ!

 ノヴァエス!裏切りとは一体なんだ!

 説明しろ!」


何故か軍が二手に分かれて後方から新しきレオンハルトの当主が今頃やって来た。

そのすぐ一歩後ろにはリズルラントと、さらに後ろにアレグローザ、イエンティが連なっていた。


「説明も何も、と言うか、お早い到着ですね」


さっきまでの興奮は一気に冷めて、アルトの凍えんばかりの空気がこの辺りを支配する。

まるで今から罰を与えられるような瞬間の様に怯える兵士たちはただただこの現実から目をそらすように地面を見つめ、反乱軍とされたランを始めとした一団は四公の内の3人がそろった現状を真っ青な顔で眺めてしまう。


「いくら家の事とはいえ、この非常時にのうのうと遠く離れたレオンハルトで戦争が終わるのを待っていられるわけないだろう」


さも当然と言うようにレオンハルトは言うが、弟でもあり、妖精騎士団の団長でもあるゼゼットはその背後ですまなさそうに握り拳を握りしめて悔しそうに唇を噛んでいた。

あまり兄弟仲は良くないとは聞いていたが、今まで手に入れる事が出来なかった権力を手に入れた新レオンハルト当主は我が物顔で騎士団まで掌握してしまったようだ。


「それに今アレグローザの息子達から話は聞いた。

 反乱軍としてノヴァエスはこのフリュゲールさえ敵に回したとな!

 オリヴィア、お前はあんなろくでもない連中と付き合ったばかりに……

 娘とは言え家に連れて帰り、学院もやめてアレグローザの家に嫁ぐんだ!」


あまりの展開に何をそんな事をと反論するべくオリヴィアだが、ノヴァエスに引き取られるまでに植えつけられた恐怖はその反論さえ封じてしまう。

怯えて震える手でランの服を握りしめる様にレオンハルトは忌々しそうな目でランを見下し


「反乱軍の指導者としてラン・セン、お前はこの場で極刑にしてやる。

 今更ウェルキィを差し出してももう遅いわ!

 誰かあのガキを捕まえろ!」


あまりに独善的な独りよがりな裁判にゼゼットでさえ「我が国の法はそれを許しません!」と叫ぶも


「何を言ってる。

 私は四公だぞ?

 その場の権限は私にある。

 何の問題もないだろう、のうアレグローザ、、リズルラント?」


聞けばアレグローザは視線を反らし、リズルラントはそうだと力強く頷く。

そんな様子にレオンハルトは機嫌を良く声を高らかにして


「ああ、そう言えば向こうにヴィブレッドがいたか。

 いや、ブレッド・アクセルと名を変えていたか。

 妾に産ませた子供とは言え優秀だとは聞いていたが、アレグローザの名を名乗らすには少々問題があったのではないのかな?」


その真実を知ってる者も、初耳の者も驚きにどう言う事だと声が出そうになるもジルがやんわりと「わりと有名な話ですよ」の一言で片づけたのを面白くなさそうにリズルラントは鼻を鳴らす。


「子の父ならば、それなりに『責任』をおとりになる必要があるのでは?」


レオンハルトの狙いがそこかと思わず呻くブレッドだったが、今までその事実を口にした事のない真実にランは目を見開いてどう言う事だとブレッドに無言で訴える。

だけど無言を貫くだけで、その光景を睨みつけている代わりと言わんばかりにジルが小さな声で説明をする。

聞いた通りアレグロ―ザ公の息子で、父君とはあまり仲が良くなくブレッドは一度も血縁を認めた事はないのですよ。正真正銘の父子関係という事を。

それでこの状況にランも顔を青くするも


「これはアレグローザの問題だ。

 レオンハルトやリズルラントが口を出す問題ではない」

「父上、そうは言っても周囲が納得しません。

 周りをよく見てください」

 そして……

「どうぞ、家督を私にお譲り下さい。

 貴方とて私の父。

 私とあのヴィブレッドを同様に我が子と見ようとした結果なのは理解しています」


慇懃に首を垂れて、公衆の面前で宣言しろと迫る息子二人にどうするべきか、そして黙ったまま握り拳を震わせているブレッドを心配げに見上げるも、ランは息を呑みこみ小さく頷く。


「シュネル来て!」


小さな声とは言え静まり返った森の中ではその声は大きく響く。

たとえ川向うが阿鼻叫喚の地獄と化してても、川を挟めば風の音と大して変わらない。

そんな対岸を無視して


「アリシア!

 アレグローザをこっちに連れてきて!」


ランが叫べばブレッドも叫ぶ。


「イエンティもだ!」


思わず叫ぶように声を荒げたブレッドだったが、一瞬だけブレッドを見たアリシアは仕方ないと言うように苦笑を浮かべ、風の如く素早い動きでアレグローザとイエンティを両腕に二人を抱えて戻って来た。

あまりの早さにレオンハルトは何もできずに茫然と眺め、さらわれた二人も抵抗する前に連れ去られた事もあり呆然としていた。


「これでお二方も私と一緒に立派な反乱軍です」


どうしたものかと眉間に皺を寄せながらも笑みを浮かべて手を差し伸べると器用な真似をするアルトの手を真っ先に取ったのはイエンティで


「ですがよろしいのでしょうか?

 戦争はイエンティが代々苦手とする分野。私を引き入れて得をするだろうか」


苦笑するイエンティに


「貴方をないがしろにしたら、私にとってこの世で一番恐ろしい方が時間も場所も問わずやって来そうなのでどうかお付き合いください」


そんな人が居るのだろうかと思うもブレッドもジルも心当たりあるのか視線を反らして溜息を吐く。

あの人に勝てるわけないだろうと呟くブレッドに誰もが不安を覚える中、ピルル、ピーピルル……と、すっかり今では耳に残る鳴き声に誰もが空を見上げ、その赤い小さな体がパタパタと懸命に羽をはためかす姿を現すのを待つ。

はずだった。

だけど姿を現したのは見覚えのない赤い鳥で、その体も小鳥と言うには大きすぎるサイズで。


「シュネルよく来てくれた」


一陣の風のようにやって来た鳥は横にまっすぐ伸ばした手の上に、片翼でランをスッポリと影に入れる事が出来るのではないかと言う翼をもつ深紅の炎を纏う鳥がいた。

躍動するその炎の美しさに誰もが目を奪われる中


「改めて宣言する!

 このフリューゲルの地を荒らすと言うのなら僕は僕の持つ総ての力を使って総ての敵を殲滅する。

 例えそれで国が滅ぶ事になっても僕はこの地に災厄をもたらす元凶を総て叩き斬る!」


さっきはガーランドに、そして今はフリュゲールに宣言した傲慢な言葉に誰もが一瞬言葉を失うも


「くっくっく……

 子供が何を言うかと思えば。

 一体貴様は何様のつもりで物を言ってるんだ?

 我々はこのフリュゲールを支える四公八家、中でも最も始祖の血を持つ四公の尊さ、お前は理解しているのか」


面白いと声高らかに笑い声をあげるも微動だにしないランの前に一歩だけでたアリシアは


「黙れ簒奪者ども」


地を這う声はまるで先ほどのドラゴンの姿が声を出したようなもの。

ましてや簒奪者呼ばわりされたレオンハルトは面白くないと笑い声を止め


「この地はお前らの物ではない。

 この地の真なる王はレッセラートただ一人。

 忘れたとは言わせん。

 レッセラートの子を人質にレッセラートを追放したレオンハルト、リズルラント、エンダース、アレグローザよ、ひと時でも我らに許されたと思ったか」


アリシアの言葉にブレッドは何の事だと首をかしげる。

当然ブレッドが知らないのに周囲も誰も知るわけもなく静かにざわつく中


「ヴィブレッド、お前は幼い時にアレグローザから去ったから知らないだろうが、彼の言う事は本当だ。

 我々四公八家とは罪を背負う者の名だ」


アレグローザが言えばこの世の憎しみを総てぶつけるようにアリシアは睨みつける。


「レッセラートの子を盗んだレオンハルト、レッセラートを船に乗せて海に追放したリズルラント、それを見ていて止める事も反対する事もしなかったエンダース、そして、拙い知識で地図に精霊フリューゲルの名を間違えて記した為にその力を封印してしまったもっとも罪深きアレグローザ!

 フリューゲルの最後の力で我ら四公とその子供達ノヴァエス、イエンティ、キュプロクス、マーダーを巻き込んで生に埋め込まれた呪われし四公八家。

 その血が途絶えた瞬間精霊フリューゲルの加護を失い魔物と自然災害に包まれるこの地を守る為にただ繋ぎ、生きながらえなくてはいけない真綿で首を絞める呪い。

 平和の日々に魔法を失い、そして加護と言う籠の中で戦う事を忘れた人はその瞬間ただ蹂躙されるだけの無力な存在」

「そう、それはまたこの地にレッセラートが再び立つ日まで怯え苦しみ、その血を絶やす事が許されない自由無き安寧。

 お前達はそれさえ忘れてしまったのか?」


満足そうにアリシアは笑みをアレグローザに向ける。


「ああ、昔からアレグローザは勉強熱心だったわね。

 よくレッセラートに物を教えてもらってたの。

 だけど、まさか地図に名を残す時にレオンハルトに騙されて名を間違えるなんてほんと愚かな子」

「アレグローザは二度とそんな過ちを犯さない為に、この国の見本となるべき姿を示す一族」

「本当に忌々しい。

 だけど喜べ。

 私達のレッセラートの愛がアレグローザの封印を解いた。

 さあ、裁きの時間だ」


レッセラートと言われて誰ともなくアリシアが差し示したランを見る。


「ランセン・レッセラート・フリューゲル。

 我々が守りし我々の子。

 長い時間の間に姿をくらましてしまったけど運命が彼をこの地へと導いた。

 そして我々の敬愛すべし精霊フリューゲルの精霊騎士

 さあ、見せておくれ。その精霊騎士の力を、そして正義を」

「フリューゲルの地を荒らすと言うのなら、僕は精霊騎士の剣を取る」


うっとりとアリシアがそう呟き、覚悟を決めたかのようなランの言葉が響いた瞬間シュネルのその炎を纏う体がさらに燃え盛る。

目映い炎の輝きに一瞬視界を奪われるも、すぐに落ち着いた炎の中に古めかしい意匠の深紅の衣装を身に纏う一人の少年が立っていた。

いつもを知る彼と比べると髪は脈打つ命の躍動の様に赤く、そして頭からは地につかんばかりの大きな翼が生えていた。

どういう仕組なのか、背中の半分ほどまで伸びた髪の一筋の様にあの小さな鳥の飾り羽が背中をするりとすべり落ちるように飾られ、地に着く事はないが羽根は意志でもあるのかふよふよと宙を薙いでいる。

そしてその瞳は命よりも深くそしてどこまでも澄んでいて、この世の真理さえ見透かす異形の姿。


『四公八家とは……』


耳慣れた声ともう一つ違う声が混ざる。


『心のままに人を裁くための物ではない。

 ましてや人を隷属し、ましてや得る為に奪う為の名前でもない』


大人びたような、それでいて老齢とした口調に誰もが息を殺して耳を傾ける。


「真なる四公八家とは古に盟約を交わせし森を守る守人」

『我が森を再び戦渦に巻き込むと言うのなら、新たな守人を選ぶだけ』

「森の恩恵だけを貪る者はたとえ森の民と言えど許さない」

『森の守人ならその覚悟を』

「その血に刻みし盟約に証明しろ」


シュネルとランが一つの口から二人分の声で次々と言葉を紡ぐ。

不思議な光景と圧倒する気迫に誰もが瞬きも息も止めてこの光景を見守る中、シュネルと姿が混ざったランの目の前に小さく爆ぜる炎の中から一本の剣が具現化した。

ボッ、ボッ……と、炎をまき散らし、その熱に誰もが足を下げる中、ランはその剣を掴みゆるりとした動作で剣を構える。


森の民よ、覚悟を決めろ……


小さな声で呟いた声はどちらの物か。

何をするのか見守るしか出来ない俺達は剣を構えて大きく横に薙ぐ姿勢にこれから起きる事を忘れないように目を見開いていれば


「「焔の断罪」」


空を剣で切る。

剣にまとわりつく炎が溢れだし、まるでこの森総てを包むのではないかと言う途方もない炎がレオンハルト達に襲い掛かる。

勿論、周囲に居た軍も、こちらに来る事を拒んだ学生も、バックファイアではないがランの背後でその状況総てを見守っていた俺達も、そして当のランもその炎に焼かれる。

誰もが一瞬でパニックになるも、すぐに一陣の風が吹いたかと思えば、それがまるで幻だったかのように炎は草木一本、何も焼き尽くしていなかった……


「な、何があったんだ……」


アルトゥールが周囲を見回して俺達の安全を確認する中、少し離れた所でばたり、ばたりと倒れる音が聞こえた。

次々に倒れる音に騒然とし始めたのはレオンハルト側で。

レオンハルトを始めリズルラント達がたおれていた。

その中にはブレッドの義理の兄弟がいて、理解が追いつかない。

総てが総てではない。

ただ、その顔触れを見れば、反乱したノヴァエスやアレグローザ、イエンティを少なからず憎む物だったり、騎士団や軍を私欲で私物化して居た者だったりと、シュネルの意見にそぐわぬ者達だろうと判断する。

所々なんでこいつがと思うも、裏側に詳しいジルがやはりあなたもですかと小さな声で呟く当たり、そう言う事だったのだろう。


「僕は言ったよ。

 僕と敵対する総てを殲滅すると。

 まさか戦場で死ぬ事はないとでも思ったの?」


歩みを進めて、地面に横たわる亡骸を見下ろす。

周囲に居たゼゼットを始め、その人ならざる姿を警戒するかのように距離を取る方へと視線を移し


「命を奪ったんだ。

 貴方達には僕に報復に出る権利がある。

 判っていると思うけど僕も全力で自分の正義を貫く」

「こ、これが、正義って言うのか?」


冷や汗を流しながらも言葉を返したゼゼットは、ゆっくりと顔を上げたその人ならぬ視線の恐怖に息が上がる中


「戦争はただの暴力だ。

 弱者だけが被害を被る身勝手な暴力だ。

 ただあるのは僕達には僕達の正義と、貴方には貴方の正義だけで。

 決裂した今、このまま僕達との戦いを続けるか、潔く負けを認め忠誠を誓え。

 フリューゲルの炎に焼かれなかった者達の身柄は保証する」

「勝った気でいるのか?」

「ここはフリューゲルの森。

 ラン一人で不満のなら我に従いし総ての力でお相手いたそう」


老齢な声が言えばどこからか妖精が現れた。

一体二体ではなく群れを成して。

圧倒する数に鎧に身を纏っても怯えて隊列を乱して小さな集合体として集まる。

そんな中不意に落ちた影に誰もが空を見上げれば、フェルスを始めとした対翼のウェルキィが群れを成して地上を見下ろしていた。

当然その後方には片翼のウェルキィがいる。

一体を祀り上げていた事を思い出せば圧倒する光景だった。

地上も上空も妖精達に覆われる中ぐらりと地面が揺れた。

ひょっとして、まさか……

情けなくも誰もが歩く事を知らぬ幼子の様に両手両足で身体を支える。

揺れる地面の中では地中に住まう妖精達までに狙われてるとようやく気付いて、相対している相手がその異形の姿からただの人の子ではない存在だと気づかずにはいられない。

ゼゼットは剣を左手に持ち、膝を折って右胸に右手を添えて首を垂れる。


「我らが王よ、どうぞ命令を」


圧倒的な数の暴力についに負けを認めた。

その声に従うように、ゼゼット以下は総て武力を放棄し、忠誠を誓う。

ずらりと並ぶその下げられた頭を見下ろしながら


「ガーランド軍の捕縛を。

 ガーランド王と第一王子を連れてガーランドの王城へと向かえ。

 古の約束の許、その血を今度こそ総て消す」

「お言葉ですが、未成年を手にかけるのはこの大陸のどの国にも通ずる大綱に禁じられています」

「なら、それ以外すべてだ。

 ガーランドの血にも盟約は刻まれている。

 我の目の前で戦争を挑んだ対価、安くはない。

 クヴェル、お前も着いて行きその結果を見守れ」

「承知」


そう言ってもう一度大きなドラゴンブレスを放てば大地を揺るがす地響きに


「王都までの道は出来た。すぐに報告が出来るだろう」


ちろちろと魔力の炎を口元から零しながらガーランド王を足で掴んだまま崖下まで降りてきたドラゴンはまともな精神ではなくなっているガーランド王を解放する。


「戦争の終わりの証として貴方はここで死んでもらう。

 息子の貴方にはその首を持って国に帰る栄誉を与えよう。

 貴方達の最後の務めだ」


そう言ってランは手にしていた剣でガーランド王の首を息子の目の前で躊躇いもなく切り落とし、血があふれ出す頭を掴んでその息子に預けた。


「うわ、うわあああ!ああああああああああ!

 ちっ、ちち、ちちうっえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


絶叫する悲鳴にランは少しだけの間目を瞑るもその飾り羽はまだ宙をふよふよとそよいでいて


「ブレッドは我と共に一軍を持って着いて来い。選出を許す。

 騎士団、軍、そして元老院を捕縛、沙汰が出るまでその他は総て待機」

「承知」


どういえばいいかわからなくてとりあえずアウリールことクヴェルを見習って返答すればクスリと笑うのはランかシュネルか。

まあいいと、これからどうなるのかとこの場の後始末の指揮者としてジルと自分の部下、そしてゼゼットから一部隊を借りて遺体の処理をまかせる。

そしてイエンティ、アレグローザ、レオンハルト代理としてオリヴィアにノヴァエス、さらに妖精騎士団を集めれば、上空で待機していた対翼のウェルキィ達がそれらを背に乗せこの場を飛び去るのだった。

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