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精霊騎士である為に  作者: 雪那 由多
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友達は最終兵器にもなります?

「では、話がいろいろまとまった所で改めて自己紹介でもしましょうか」


今更ながらまともに自己紹介すらしていないことに気が付いて誰となく苦笑。

これから5年間一緒に暮らすというのに名前しか知らないのは実におかしな話だ。

もう少し知っててもいいのではないかと言えばランはにっこりと、それこそ魅力的な笑顔を浮かべていた。


「なら、まずはランを拾った俺からだな」


くすんだ金の髪をかき上げていつもは不機嫌な空色の瞳は今日はどこか楽しそうなのをアルトゥールは意外だと見つめていた。

こんなに機嫌がいいのはいつ以来だったかを思うも彼の紹介は始まる。

ブレッド・アクセル。

10歳の時に最年少王立学院主席卒業と言う記録を持つ今年17歳になるフリュゲール国一の天才だとアルトゥールの説明に一つ頷き


「妖精の生体種族能力の研究にフィールドワークをしている。目下の所妖精の上位種の精霊を探し中の妖精使いだ」


言ってヒューと二音を奏でる独特な口笛を鳴らせば4体の妖精。

言葉を語らない妖精は4体とも人を手のひらサイズにしてどれも透けた4枚の羽根が付いている。

淡やかな燐光を残して4体はブレッドの肩や頭の上と言った思い思いの場所に座りランを見る。


「4体も妖精が…」

「4体はもともと友達同士だからな。1体だけ連れて帰るのはかわいそうだったから」

「すごい」


ランの言葉を今でも心からそう思っている。

普通なら妖精はプライドも高いことから何体も妖精を操る妖精使いは信用しない。

それが仲良く1人の主の傍らに居るのだから今までの常識は一新された。

金髪の長い髪を高い位置で結わえたチェルニが唯一の女の子で、気持ちがっしりした体格のアウアー、さっきから僕が気になるのか頭の上をくるくると回っているルクス、そしてブレッドの頭に隠れて僕を眺めているどこか幼いプリム。

好奇心旺盛なルクスが僕の髪を引っ張ったりして遊び始めたりするのをくすぐったく笑っていれば


「四体ともこのノヴァエスの北側にあるシェムエルの森の妖精でこの国ではシェムブレイバーと呼んでいる」


言われて納得。


「羽が刃の形をしているからかな?」


一つ頷き


「この森、いやフリュゲール一の高速飛行能力があるんだ」


言えば僕の頭で遊んでいたルクスはいつの間にかブレッドの組んだ腕の前に浮いていて、後から優雅に燐光がキラキラとその軌跡を追いかけていた。

余りのスピードに言葉もなく眺めていればくすくすと言ったようにわらうジルベールはじゃあ我々の番ですねと「ティルシャル」と呼ぶ。

今の今までそれが居た事なんて気付かず驚いて小さな悲鳴を上げてしまうもティルシャルと呼ばれた妖精はふんと軽く鼻を鳴らし、のそっと気配なくベットの下から現れたのは大型犬ほどの大きさのある灰色のオオカミにも似た妖精だった。

その証拠に右側だけに羽が生えている。

余りのアンバランスな姿に驚くも、わずかに開いていたドアの隙間から黒い鼻がちょこんと見えた後、今紹介を受けたティルシャルと同じ姿のオオカミにも似た妖精が現れた。

ただしこちらは左側だけに羽が付いていた。

巨体な姿に似合わず足音立てずに現れた妖精はそのままアルトゥールの横に並び、何か指示を待つように彼を見上げていた。

アルトゥールはいつくしむような優しげの瞳でその鼻面を撫でた後


「このノヴァエス地方と続く東のレオンハルト地方に続く森の主ウェルキィ種の左羽のヴィンシャーと」

「右羽のティルシャルだ」


二体は仲が良いのか座っていたヴィンシャーの隣にティルシャルが並んで座れば二体で一体のような錯覚さえ覚える。


「覚え方としてはノヴァエス領主のヴィンシャーとドクター・ジルベールのティルシャル。略してロード・ヴィンとドクター・ティルル。フリュゲール国内じゃ誰もが知る二体だが?」


ノヴァエス地方領主、アルトゥール・フォン・ノヴァエスと医師のジルベール・ヴァレンドルフとは学院での同級生だったと付け加える。


「これがあのウェルキィの…妖精のウェルキィ」

「国外の人間にも知ってもらえるとは光栄だな」

「知ってるも何もウェルキィって言ったら世界でも希少な妖精だもの」


輝く瞳に三人はくすくすと笑う。


「俺はウェルキィが住む森の半分にあたるノヴァエス地方の領主をしている。

 もし学院の実習で妖精を捕まえる事があるならヴィンとティルルの仲間を紹介してもいいぞ?」


思わず苦笑。


「紹介してもらっても僕をパートナーにしてくれるかな?」


膝をつけば視線は妖精と正面を向きあう。

決して媚びない二体を触らせてもらうも尻尾はピクリとも揺れない。

寧ろ触るなと言うように視線を反らすも、床を踏む力強い脚の爪は鋭く、時折ちらりとのぞく牙もなんだって噛み砕きそうだ。


「これが妖精ウェルキィ」


首周りの密になった毛皮も、背筋の鋼のような光沢を放つ毛並みもどれをとっても恐ろしいと思うはずなのに美しい姿だ。


「そうだ。この国指折りの強さを誇る誇り高き戦闘タイプの妖精だ」


誇らしげに耳の後ろを撫でれば、褒められたのを理解して先ほどまでの強面がうそのように目を細めて控えめだが喜びを表している。


「精霊のウェルキィはもっと迫力があるぜ?」


ブレッドがにやりと笑えばウェルキィのパートナーの二人は苦笑。


「精霊と妖精を同じように見てほしくはないな」


「ウェルキィはウェルキィの森の主と言うよりこの国フリューゲルを守る精霊の一体だ。ほかの妖精とも同等に見てほしくないな」


ウェルキィを誇るかのようにブレッドを言い詰める二人にさすがの彼も苦笑。


「悪かった。そういったつもりはない」


さすが分が悪いとみてブレッドはまた空のカップが置いてあるところまで後退する。


「で、君にも妖精はいるのだろ?」


アルトゥールはそういって切り出した。

もともと学院に入学できるのは妖精を扱える素質のある子供と言う絶対条件がある。

決して多くない素質だけにどの国でも妖精使いはのどから手が出るほどの素材だ。

卒業生はいずれも国の役職、もしくは重要な地位を約束される。

毎年両手足の数を集めるのも難しいのだから、国外からの来訪者とて国に帰りたくなくなるほどの手厚い歓迎を受けるはずだ。

最低限の年齢に達しずに入学と言う事は、すでに妖精持ちという事だからだろうと想像はたやすい。

もともとランがいたのを見つけたのはブレッドの妖精だ。

妖精同士匂いと言うか波長がわかるのか彼らに案内されるようにしてランと出会った。

それが証拠と言うように尋ねればランはまたどこか困ったような顔。


「僕の妖精は今ちょっと離れた所にいて…」


視線が宙をさまよう。


「まさか妖精に逃げられたんじゃないだろうな?」


アルトゥールが嫌な事を聞く。

妖精使いが一度妖精に逃げられると二度と妖精は寄り付かない不思議な習性がある。

それを危惧して聞いたものだがランは頭を横に振る。


「ええと、人見知りがすごくてあまり人前に出てこないんだ。気配は近くに感じるんだけど、知らない人や知らない妖精の気配があるからまず現れないんじゃないかな?」


よくあるパターンにホッとするも


「授業に妖精も参加する訓練もあるからそれまでには慣れさせておかないとな」

「学院の授業は卒業までに生涯一体だけの妖精と出会う事に費やされる。ここで何とかしないと卒業できないっていう目にあうぜ」

「ええ?!」

「ま、このフリュゲールはまだ精霊の居る国だからほとんどの森に妖精が住んでいる。マメに通えば大概は仲良くなれる。と言っても妖精持ちには関係ないか」


くつくつと笑うブレッドにランはにっこりと笑う。


「僕の友達はシュネル。僕が付けた名前なんだ」


誇らしげに姿のない妖精の紹介をする。


「僕が住んでた村の近くにある草原に棲んでたんだ。よく草原に薬草とか取りに行ってたからその時に友達になったんだよ」


その時の事を思い出すかのように話すのは俺達にも記憶がある。

出会って、友好関係を気づき、信頼を得て彼らは妖精使いと契約をする。

決して信頼を置かない相手とは契約しない彼らが持ちかける契約の意図は詳しくはまだ誰もわかっていない。

ただウェルキィの歴代の契約者たちは口をそろえて言う。

彼らはただ仲の良しこよしで契約をするわけではない。

契約することで妖精は新たな力を手に入れ能力の進化が展開する。

契約者はその妖精の理想の力を与えてくれる人物を本能でかぎ分け、信頼にあたるか時間をかけて吟味する、と。

まあ、彼らにとって運命と命をささげる事、一種の求婚にも似た行為だからな。

複数の相手と契約したがらないのはそういう意味もあるのだろう。

からからと笑って講釈を受けた後何故か俺へと視線を集めたのは苦い思い出だが、俺としては運命共同体。

すばらしいチームじゃないかと思っている。

なんせ恋愛対象にするには体格差がありすぎるのだから。


「ここには船に乗って東の大陸にある華燐国から来たんだ」


ふと落とされた言葉に思わずと言うように三人ともランを見る。


「華燐国って…」

「東の大陸、そんな遠くから…」

「だったら鸞って名前は納得だ。独自の文化があって確かそんな感じの名前が多いんだよな?」


古い記憶半分に訪ねれば彼はうんと頷く。


「名前は誰もが一文字で、それに家名が一文字。王様も誰もが合わせて二文字しかないんだ」


面白いでしょと言う彼に


「だが、華燐国は半年ほど前に隣国のクヴァート国に滅ぼされている」


そんなことを聞いた事があるなと思って訪ねれば彼は困ったかのように顔をゆがめ


「クヴァートとは僕が生まれる前からずっと戦争していて、華燐国はいつ滅んでもおかしくないくらいボロボロだったんだ」


背中を向ける領主でもアルトゥールの背中が緊張しているのが嫌でもわかる。


「華燐国は高山地帯の荒れた大地とわずかに流れる川だけの小さな国でね、そんな国なのに不釣り合いなくらい金が採れる国なんだ。

 唯一の資源の金を狙って周囲のクヴァート、ガラム、ボルネルの三国と睨み合ってて、一年前に華燐国の王女が広大な国土を持つボルネルに金鉱の一部の権利を持って嫁いだことに腹を立てたクヴァートが一気に攻めてきてあっという間に滅んだんだ」


しんと静まる室内に彼は苦い顔で笑う。


「クヴァートの王様が本当に欲しかったのが鉱脈じゃなくって王女だったなんて、鉱脈ごとクヴァートに奪われたあと嫁いだ王女様はボルネルの王様に切り捨てられなければもっと平和でいられたのにね」


さすがにそこまで情報は入ってこなかった。

なんて声を掛ければいいのか戸惑っていれば


「で、家族は?」


こわばったアルトゥールの声にランはなんてこともないように言う。


「両親は僕が小さいころからいなかったし、育ててくれた人たちはみんなどこに逃げたかわからないし。

 でも僕はこのフリュゲールに興味があったから僕はここに行くことだけはみんな知ってるからいいんだ」


これからの長い時間に誰か訪れに来てくれるかもしれないと笑う。


「とにかく僕は生き残ってフリュゲールに着たんだし、友達もシュネルが状況を教えてくれる」


へえ?とさっきまでのしんみりとした空気を打ち払うように声を出せば


「仲が良かった友達家族は国を出て南の海のあるヴァイトっていう国にいるって。

 華燐国とは違って気候がよくって食べ物が豊富で、早速仕事も見つけたって教えてくれたんだ」

「シュネルが?」


ジルベールが驚いたように聞く。

妖精は基本どの種も人とは会話ができない。

どうしてその情報を聞いたのだとランに聞くも


「それはシュネルの能力だから、詳しくはシュネルが見せてくれるまで待ってよ」


もっともな言葉に確かにと思うも気になってしょうがない。

どうやって妖精と意思の疎通をするのだと好奇心は止まらないが、肝心の妖精がいないのだ。どうしようもないとため息をこぼす。


「まだ友達全員がどこにいるかなんてわからないけどちゃんと逃げ切って新しい生活を始めている友達もいる。今はこれで十分だよ」


ニコリと笑った笑顔はどこか自分を納得させる感じもあったが、それでも笑っていられるのだ。強い子だなと感心しながら乱雑に切られた少し長い髪の頭を撫でる。


「そうだな。大陸を跨いでまで来たんだ。他人よりも自分の戦いをはじめないとな」


アルトゥールが珍しく真剣な目をしてランを見下ろす。

ラン同様その言い回しは何かおかしくないか?ぐらいは気づいたようだが、学生生活に何を戦うのだと思えば、それは数日後の入学式の式典で理解した。


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