⑤偵察へ
⑤偵察へ
〈斬衛門〉
「月次本拠地別所屋敷へ行くと?」
「あくまでも偵察。」
「風よ。見つかったらどうする?」
「殺すまで。」
「別所屋敷は城のようなもの。まずい。」
「見つかった時の為にお主に来て欲しいのであろう。」
「分かった。」
「兄者、ありがとう。」
急にふすまが開いた。
「おい、炎。」
「慎之介か。」
「俺も連れて行け。」
「自分の力量を考えろ。貴様が来ては足手まといだ。」
「風よ、相変わらずズケズケ言うな。一月くれ。」
「ほほう?」
「俺も自分がお主ら三人より劣っていることは自覚している。」
「風、待ってやろうぜ。こいつがどうなるか、楽しみだ。」
〈雷神〉
「爺や、俺に『雷神刹』を教えてくれ。」
「慎之介、『雷神刹』は一度に多くの敵と戦う為の高速技だ。何に使うかは知らんが、生半可な気持ちで習得できる技ではない。お前は才能がある。だから半年あれば大丈夫だろう。」
「半年?一月で覚えなければならない。」
「一月は無理だ。物理的に。」
「時間がない。『雷神刹』を教えてくれ。」
「分かった。やろう。だがお主ができるかできないかを握っている。」
「はい。」
「『雷神刹』は大勢の敵を一列に並ばせて拳を連続で叩き込む技。どうやって一列に並ばせるか。想像もつなんだろうな。」
「押す。」
「阿呆だな。」
「一人ずつ。」
「波だ。」
「は?」
「は。なみのことだ。」
「なみ。」
「波は気のことだ。大勢の敵に向かって二つの波を左右に出す。すると一列になる。始めるぞ。」
「はい」
〈斬衛門〉
慎之介が屋敷から出て行き、半右衛門も刀を持って屋敷を出た。
用事があるらしく、風と炎も着いて来た。
風も炎も百姓の格好。
武士が百姓を引き連れて歩いているように見えるに相違ない。
『カキーッン!』
『ビュッ!』
「ぐあー!」
「その程度か!金はやるぞ!いくらでも!俺に勝てばな!はははは」
「腕試しの百姓か。」
「俺が止めに入、」
「どうした兄者」
「おの男の横にいる商人。」
「百姓の腕試しだったら黒幕である商人。しかし。」
「桃から生まれた桃太郎。と言うことはあの百姓も腕が立つ刺客。」
「二人は桃太郎を殺れ。わしがあの百姓を殺る。」
「あゝ」
半右衛門は手を上げた。
「わしが相手になろう。」
「名は。」
「ん。戸田残衛門。」
「ふふふ。」
「おぬし、名をなんと申す。」
「俺は武蔵円天流の達人、宮本武蔵の生まれ変わり。武蔵丸。」
「いくぞ。」
「来い。」
半右衛門は抜刀し、斬鉄を地面と平行にし、駆けた。
「戸田奏電流片手平突・神竜!」
突く。
武蔵丸は抜刀し、斬鉄を上から刀で叩きつけた。
半右衛門はよろめく。そして刃を腿にかすらせてしまう。
「斬衛門の神速剣突きもこの兼重の前では無力!」
「うおぉ!」
半右衛門は地面を蹴って後退した。
そして斬鉄を納刀する。
「降参か。」
そして脇差を抜く。
「戸田奏電流・第二奥義・一文字猛虎」
脇差を勢い良く、速く斬りかける。
「だあ!」
ずっと、長く斬り続けているが一撃も当たらない。
「戸田奏電流は無敵の流派かあ?」
武蔵丸は兼重を納刀し、抜刀術できた。
半右衛門も同じように納刀し、抜刀術の打ち合いになった。
「ていやぁ!」
『カキーン!』
二人の刀が折れ、遠くへと飛んだ。
武蔵丸はその隙を見逃さず柄を捨て、半右衛門を大内刈りで倒し、関節技をかける。
「斬衛門よ。斬蔵という人斬りを知っておるか。」
「名前だけなら。」
「斬蔵は三河でなを馳せた人斬り。斬丈と言う者と2人組だった。斬衛門が戸田残衛門だと言うことは調べればわかるが、その二人はいくら調べても分からなかった。つい最近、斬蔵の名がわかった。」
「なんだ。」
「戸田晃衛門。」
「!」
「月次に力を貸せ。考えろ。」
武蔵丸は拳を半右衛門の頭に叩き込み、気絶させた。
〈紅蓮〉
「桃から生まれた桃太郎。武蔵丸の相棒で月次組最強の人斬りとはあ、私のことよ。」
「ふざけすぎだ。いくぞ。」
風は龍聖を抜く。
炎は龍朱を抜き、構えた。
風は龍聖を桃太郎に向かって突き出す。桃太郎は西洋刀を抜き、弾く。
そこで炎が渾身の突きを見せる。
桃太郎は素早く納刀し、体制を低く、柄を握る。
超速で抜刀し、炎の突きを弾く。
「去ねぇっ!」
桃太郎は沙琶嚠を突き出す。炎の胸を貫く。
「炎っ!」
「来い!」
桃太郎は納刀した。
「月次式ニ苦無流!龍無斬!」
龍聖と奏度を持って地面を蹴り、舞うように神速で傷つける。
「桃流抜刀術・式南ファイヤ!」
「ふぁ、ふいゃいあ?」
桃太郎は神速で抜刀し、風の腕を切り、そこから突き技を繰り出した。
風の肩に突き刺さる。
「和と洋を掛け合わせた剣術・・」
「それが桃流だ。ファイヤーとは火のことだ。」
「南蛮野郎が。」
風は倒れた。
〈雷神〉
「よくやった。雷神の子として、立派じゃ。」
「はい。」
「雷神刹を一月で習得するとは、うう、」
太成が倒れた。
「じいや。済まぬ。疲れたか。」
「ちょいと、休めば良いさ。」
「免許皆伝ですか。」
「まだじゃ。」
「何が残っておるのですか。」
「時が満ちれば。」
太成は起き上がった。
翌日、慎之介が支度をしていると、来客があった。太成はいないのでお達が門を開けた。
「慎之介ぇ!お客様よぉ!」
「わし?」
「早くぅ!」
「はい!」
慎之介は襖を開けた。
そこには役人らしき男がいた。
顔はよく見えない。
「某、名を・・・月梶と申しますぅ!」
あの嫌な笑みが慎之介の目に突き刺さる。
「死ねぇ!」
月梶が杖を慎之介に突き出した。
慎之介は難なくよける。
「わしが一月頑張ったのは雷神の為だけではない。戦闘数値は7まで上がった!」
「ふっ。」
月梶は杖から小刀を抜いた。
「やはり仕込み杖か!」
「ではなんだと思った!」
月梶は慎之介に後ろ蹴りを食らわせ、小刀を腿に突き刺す。
「ぐ、ていやぁ!」
慎之介は正拳を月梶の顔にのめり込ませることに成功した。
月梶が後退する。
その流れで手首を殴り小刀を落とさせ、回し蹴りを繰り出す。
月梶は倒れる。そして杖を持って構える。
「既に抜刀した仕込み杖一本で何ができよう!」
「がぁ!」
迂闊だった。
杖の逆側にも小刀が仕込んであった。
脛を刺される。
「ぐわっ!」
慎之介は倒れる。
「やはり雷神様もこの程度だったか。」
「まてい!」
襖が蹴られ、老人が出て来た。
「慎之介、まっとれい!このゴロツキはわしが退治して殺るわい!」
「来い爺い!」
「でえぃ!」
太成は正拳を突き出す。月梶は小刀で防ぎ、猛攻を仕掛けた。
「月次式忍び刀派創元裁!」
太成はよけた。
「慎之介!ようく見とけ!」
「さあ、何が来る!」
「雷神極拳!雷殺の九頭龍!」
瞬きしている間に、月梶が倒れていた。
〈斬衛門〉
武蔵丸に惨敗し、行く当てもないままフラフラしていた。
抜刀術では互角だったが、奴が抜刀術を使わなければ今頃半右衛門はこの世にいない。
折れた斬鉄を鞘にしまい歩いているが、今襲われたらひとたまりもない。
「おい!斬か?」
「ん?」何者かに呼ばれ振り返るとそこには老人が立っていた。
「芿山殿!」
芿山は名のある刀匠。
血刀は普通の名刀から妖刀になった剣だが、血刀の元になる芿輪戝を作ったのが芿山だ。
半右衛門とは古い付き合いになる。
「お主、商人になったと聞いておるが。」
なぜ知っているのか。この爺いは半右衛門が今まで知り合った人間の中で一番「怖い」。
「まあ色々と。」
「お主、まだそんな武器を持っておるのか。」
「え、人を守る為の帯刀です。」
「人を守る為だろうがなんだろうが、刀は凶器。剣術は殺人術。どんな信念を持ってもお前は人を殺している。ま、そんな折れた刀ではどうにもならぬだろうがな。」
「なぜそれを。」
「わしを誰だと思っておるのだ?」
鞘越しでも折れた刀が分かるとは。流石、名匠芿山。
「来い。」
「は、はあ。」
芿山に連れて行かれたのは芿山の屋敷だ。
「わしが作った拵えの中で一番出来のいい柄と鞘があるんだよ。名は獄。まあ、作ったのは十二年前だがな。」
芿山は柄紐が高級本革で、すごく滑らかな木を使った柄と鞘を出した。
「は、はあ。」
「んでもって抜刀しやすい木刀も出来た。名は獅子。」
最大限に滑らかさと抜きやすさを追求したような木刀を芿山は出した。
「合うように作っておる。この拵えと木刀を組み合わせる日が来た。」
「えっ?」
芿山は木刀の柄を切り、小さな刀で削り始めた。
少し削ると柄に繋げた。留め具をはめ、鞘に入れた。
「抜刀用木刀獅子獄。お主にやる。戸田奏電流は抜刀術も使うだろう。お前はお前で、非殺を貫け。この木は丈夫だ。案外普通の刃より丈夫かもしれんのう。」
そう言うと、芿山は奥に消えた。
半右衛門は深く頭を下げた。
「ありがとうございました。」