俺は疲れた
俺の名前は山海両隣。 高校二年生。家では妹と母親に遊ばれ、学校では夢に出てきたあいつらに遊ばれる始末。登校した俺は早速自分の席へと一直線。妹が起こしてくれる時間は余裕があるため結構早めに学校に着く。その点では有難いのだが起こし方を何とかして欲しい。
「遊ぼうぜ "どなりん" 」
男が俺の名前を呼ぶ。こいつの名前は王者真一。初めてその名前を聞いた時からなんとなく縁がありそうな気はしていた。なぜなら俺の名前も相当からかわれたからだ。誰だよこんな謎の意味含んだやつは。親なんだが親のセンスをまじで疑う。俺と同じようにからかわれてきたであろうこいつの名前に俺は親近感を抱かずにはいられなかった。
そして誰もが思ったであろう疑問を俺も浮かべた。
どう読めば"あしい"と読めるんだよ。こいつとは高一からの友達だが未だに漢字を見ると名前を忘れる。
中学までずっと俺は自分の名前で遊ばれ続けてきた。俺は海が好きとか。俺は山だとか。どうでもいいよそんなこと。どっちも別に興味ねえし。
どっちが好きなんだとか聞かれてどっちか答えるとお前はどっちも好きでいろよとか。どっちも好きだと言えば親に失礼だろとか意味分からん。
などなど、言い出せば切りがなく、高校に入った時も当然覚悟していた。しかし、入ってみて名前を聞くにどいつもこいつも変な名前しかいなかった。
半数近く変な名前でこの学校は構成されていた。親に勧められ入った学校。なんだよここは。
「なになに。何話してるの?」
俺がそんなことを考えていると女がきた。夢に登場した忌まわしき人物。夢と同じく会話への割り込みは決まってこの言葉からだ。
この女の名前は、空山風。まだ普通の名前だ。入学当初から毎日何故か絡んでいる人物でもある。
「何も話してないから解散」
こいつが話に入ってくると話の流れがややこしくなるから好きじゃない。なにより疲れる。朝からそんなトップギアを上げる行為はしたくない。
「え、何か話してたじゃん。面白いことでしょ。私にも教えなさいよ!」
「何にも話してねえよ。まだこいつ来たばっかだし」
「あしい君と何話すの。夢のこととか?」
俺は盛大に噴き出した。何言ってんだこいつ。知ってるのか。いや、そんな訳ないよな。
「え、なになに。なんかあるの? 夢のこと?」
知らないはずなのにやたらにやにやする顔がむかつく。
「夢なら俺も見たぞ」
あしいもにやにやする。こいつの感情スイッチがどこで入るのか未だに分からない。会話の途中で急にテンション上がったり、はたまた、初めから興奮していたりとにかく危ないやつ。俺はそう認識しながら付き合っている。
「実はな……」
声を低めてこそこそ話し出す。その口元が俺の耳元に向かう。
そして耳元に息が吹きかかり俺は椅子から飛び退いた。
「うわっ、おま、なにやってんだよ」
視界から消えたと思ったら何してんだこいつ。
「俺の話を聞いてくれよ」
「いや、俺の耳元じゃないとこで話せよ」
「今日は耳元気分」
頭おかしいだろ。なんだよ今日は耳元気分って。この前は、おねえ気分とか言って口調を変えたり毎回俺を使って遊んできやがる。俺は普通のが好きなんだよ。
何言ってんだ俺。いや、普通だよな。こいつのせいで俺の基準が狂い始めてることに泣けてきた。
「なるほど。分かるわその気持ち」
絶対嘘だ。この女とりあえず全部ノってくる。実際は何も分かってない。
「なあ、フウ」
「なに? どなりん」
この女を呼ぶときはフウと呼ばなければ猛烈にキレだすからめんどくさい。かぜって呼ぶのも変だけどな。親はどう呼んでんのか。フウって読み方で良かったんじゃねとか何回思ったことか。
「なにもない」
なんかめんどくさくなって俺は言葉を切った。脳内でツッコミすぎて何言おうか忘れた。
「ねぇ、どなりん」
「ん?」
「なにもない」
キャッとか言い出すフウ。俺はめんどくさくなって腕でフウの存在を抹消した。
もう疲れた。机に肘を置いてそのまま寝ようと思った。
視界からうにょうにょ現れるフウさん。ほんと何がしたいのか分からない。
なあなあと寄ってくる、真一。なんだ、とフウの姿を視界から消しながら俺は首だけを動かし話しかけた。
「めっちゃ見られてる。そろそろ告白していいかな」
こいつまだ言ってたんだ。入学時からずっとこいつはフウに告白しまくってる。
俺はまたかと思いながらも頑張れとだけ呟き寝た。
頭上で告白が始まる。もうこのやり取り何百回目だよ。
「なあフウ、聞いて欲しい」
そこでチャイムが鳴った。鳴った瞬間即解散していくフウの速さ。こいつはいったい何目的で来てんだかさっぱり分からない。
「今の照れ隠しだよな」
どんな思考回路すればそうなるんだか。ああ、疲れた。こうして何百回目か分からない告白にフラれた事実はなく勝ち誇った顔で去っていく俺の友達。