俺は断じて望んでない
「これから俺の言う言葉を書き留めて欲しい」
俺は目の前にいる友達に重く真剣なトーンで告げた。
「なになに。なんか始まるの?」
俺とのやり取りを見ていたじゃじゃ馬が寄ってきたがまぁいい。俺の言葉はこの後、後世に語り継がれる名言となるのだから。
じゃじゃ馬に状況を説明する前の男。こいつは俺の唯一の友達だ。たぶん。最近なんか棘がある気もするがもういい。
俺は気にせず口を開く。
「明日俺は神になる」
「解散」
前のやつが去っていく。じゃじゃ馬も消えていく。
「おい、ちょっとまて」
「待たない。じゃあな」
「待ってって」
俺は去っていく男の腕を掴む。
「もうネタ切れだろ。俺は察した」
「まだ終わってねえ。いいから聞けって」
俺が必死に抗弁しているとじゃじゃ馬が帰ってきた。
「なになに。なんかあるの?」
このじゃじゃ馬会話入ってくる時は絶対この言葉になる。機械かよ。
俺は気をとり直し一息つく。
その間に男が去っていく。
「ちょっ、おま、待てって」
なんだよこいつ。どんだけ逃げていくんだよ。まだ俺の渾身の言葉が言えてない。勝手に逃げんな。
「俺トイレ行きたいんだけど」
ここにきてそいつの発言が最高に笑えた。
行かせるわけねえだろ。
「ダメ」
「まじでトイレ行きたい」
「俺も行く」
「んじゃ、私も」
「お前はいいからもう帰れ」
「ちょっ、二人だけで何するつもりよ!」
「お前何考えてんだよ」
「なにって……あれでしょ……?」
「その考え完全に違うから帰れ」
「私今遊ばれてる?」
なんか照れ始めたぞ。どういう心境だよ。
と、男の方を見ると様子がおかしい。なんだよ。もうやばいのか。
「早く行くぞ」
俺がそう告げると途端に挙動がおかしくなる男。
「え、そういうこと? 俺まだ心の準備が」
「は? もうやばいんだろ。早くいくぞ」
「ちょっ、待てって。俺そんな趣味ねえし」
なんかおかしいぞ。何考えてんだこいつ。
「私応援してるからね」
「違うつってんだろ」
「しっかり記録しとけよ」
男が開き直った。いやまて。何に開き直ってんだよ。
「後で鑑賞会しよ」
女が携帯を掲げる。しねえから。
「自分の見られるなんて興奮するな」
こいつやばいわ。こんなやつだったっけか。
「大丈夫。私ちゃんと見てるから」
「見なくていい。てかいい加減このノリやめろ」
俺がそう言い放つと男の形相に変化が。
「お前そんな簡単に俺を捨てるのかよ!」
ちょっと何言ってんのか分かんない。
「俺はそんな価値しかないのかよ。やってみなきゃわかんないだろ」
「やらねえよ。ちょっと黙ってろ」
「エスとエムの役割重要だもんね」
女がおかしな事を言い出す。
「俺がエムか。よし分かった」
こいつ絶対分かってねえ。さらに追い討ちをかける男の言葉に俺は耳を疑った。
「俺、実は憧れてたんだ。毎晩練習してた」
ばかだこいつ。嘘か本当か分かんねえけどこいつもうやばい。
女がおおーとか言い出す始末。感心すんな。
「準備万端だね」
そう言い俺らの背中を押していく。
まじか。この流れはまずいぞ。嘘だよな。嘘って言ってくれ。こいつら目が本気なんだが。
俺は逃げようとした。しかし、何故か二人にがっしりと掴まれる。何この力。取り憑かれたように恐ろしく力が強いんだが。
そのまま俺は押されトイレへと到着。
「いこいこー」
女が男子トイレに自らも押し込んでいく。
「お前女だろ。なにしてんだよ」
「私女装だから」
「嘘つけ」
「なら大丈夫だな」
「どう見てもこいつ女だろ」
「女装だから」
相変わらずこの謎の言葉押しはなんなんだ。どこにそんな自信あんだよ。
めっちゃ見られてるんだけど。
こいつら一切気にせず俺を押していく。
この後どうすんだよ。変な噂絶対たつぞ。お前ら平気なのかよ。と言おうと二人の顔を見ると何か悍ましいものを感じた。まじで取り憑かれてるんじゃね。
そのまま引きづり込まれ個室部屋に三人。
まじ?! 嘘だよな。
俺そんなことしたことねえぞ。じゃねえ。何考えてんだ。
じわじわ寄ってくる男。女は録画しようとカメラを向ける。
やべえ。これはまじでやべえ。もう目が本気だ。このままいけば確実に俺はこいつのものになってしまう。こいつもう自我忘れてんだろ。何かに操られてる。女の方も。
男の掴む力で強すぎて身動きが取れない。
片手でどんだけ力強いんだよ。女がどこから取り出したのか俺の口をガムテで塞ぐ。
そして男の手が俺の衣服に触れる。
嘘だろ。やめろやめろ。
必死にもがくがビクともしない。
じわじわと脱がされる俺の衣服。
手が忍び寄り肌に触れる。
恐怖でしかねえ。なんでだよ。なんでこんなことに。嫌だ嫌だ嫌だ――
「やめろおおおおおおおおおお」
「お兄ちゃん何叫んでんの?」
気がつくと俺はベッドにいた。目の前に妹が乗っかってる。重い。こいつまた体重増えたか。
「お兄ちゃん遅い。早く起きてよ」
「夢か……」
「めっちゃうなされてたね。私が乗った時からもう必死だったよ。面白くてずっと乗ってたけど」
「さっさと降りろよ」
「面白いからいいじゃん」
「俺には分かんねえだろ」
「私には分かったよ。めっちゃ暴れるんだもん。楽しかった」
そう言って俺に向けてピースしてくる。
「いや。早く降りろよ」
「はーい」
「もう絶対するな。わかったな」
「やだ」
「鍵かける」
「鍵開ける」
「鍵ねえだろ」
「鍵作ったからあるよ」
「まじか」
「うん」
「何で作ったの」
「侵入するため」
「最低だわ」
「最高の間違いじゃない?」
「んなわけあるか」
「明日もぐっすり寝てね」
「乗る気だろ」
「当たり前じゃん。あ、もうこんな時間」
「お兄ちゃん朝ご飯食べて学校いくよ」
「最悪の朝だ」
俺は重い体を起こし、背伸びする。
すると、部屋のドアが開いた。
「おい。早くこい」
母親だ。なんて野蛮なやつだ。
「今行く」
「今行きますだろ」
「今行きます」
「はよ」
「はい」
母親には逆らえない。妹には遊ばれる。もうさんざんだ。