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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-13.Justice/復讐鬼との邂逅
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13-(3) 対面

「こりゃまた、随分スッパリとやられたなあ」

 司令室コンソールより出動し、睦月や國子、仁達を含めたリアナイザ隊の面々は件のポイントである

西区の繁華街へとやって来ていた。

 帰り道を行き始める人々の流れとは相反して、横切って、路地裏へと進む。

 そこには他の市内各地と同じように、密かに設置されていた監視カメラが一台、ものの見

事に切断されていた。仁があまりの切れ味っぷりにぼうっと呟いている。金属・機械の塊で

ある筈のこのカメラは勿論、軌道上に入ったからなのか、周囲のコンクリ壁の一部も同じよ

うに綺麗に切り落とされている。

「これって、やっぱり……」

「ええ。可能性は高いですね。常人の技でこのような切れ味と破壊力を発揮するのは不可能

でしょうから」

「でも、それを一瞬でやった訳ですよね?」

「どんな化け物だよ……」

 同じく切断されたカメラを見上げて、睦月がちらと問うてみる。國子らも同じことを考え

ていたようで、そう首肯するように答えていた。

「パンドラ。どう?」

『うーん、ちょっと厳しいですねえ。エネルギーの残留は確認できますが、質量が小さ過ぎ

てアウターの仕業かどうかまでは断定できません。せめて本人を目視できれば、互いを参照

した上で確認も取れるのですが……』

「……そっか」

 路地を一歩出た表通りでは、今日も何ら変わらない日暮れの日常が続いている。

 睦月達は誰からともなく、更に路地裏の向こう、狭い道を一本隔てたもう一ブロック先に

広がる風景を見ていた。職員の話にあった殺人事件の現場である。もう大方調べられた後な

のか、今は巡回する警官数名と立入禁止の非常線が張られている以外はガランとしてしまっ

ている。点々とアスファルトの地面や壁に掛けられたブルーシートが事件の痕跡か。やはり

発生から一晩が経っていることで、得られる情報は大分失われてしまったようだ。

(……うん?)

 そうして何となく、所在無く皆と共に立ち尽くしている時だった。

 睦月はふと、こちらと向こう側の間にある物陰から、こっそりと現場を覗いている人影が

あるの気付いた。國子達も程なくして気付いたらしい。制服姿の男子学生だ。おずおずと、

随分と怯えていながらも覗くを止めない。だがこちらには気付いておらず、ただ後ろ姿だけ

を見せている。

「誰だろう? わざわざこんな所にまで」

学園うちの制服とは違うな。余所の生徒か……』

 仁の時の例がある。あまり突っ走って問い詰めるのもどうかと少し考えた。通信の向こう

で皆人も、口元に手を当てて思案している。

「──ッ!? ……!」

 するとどうだろう。一応警官が向こうにいる手前、接触せずにいた所、突然この男子学生

は全身を強張らせ、転がるように慌てて間道の中へと走り去ってしまったのだ。

 ……様子がおかしい。だが覗かれていた警官達はそれにも気付いていなかったようだ。

 睦月達はにわかに緊張した面持ちになり、互いの顔を見合わせた。「皆人」インカム越し

に呼び掛けられ、司令室コンソール親友ともも頷く。

『追ってみよう。ともあれ先ずは手掛かりが欲しい』


 そうして睦月達は、狭い路地の更に奥へと進んでいく。

 しかし辺り一帯が入り組んでいることもあってか、肝心の男子学生の姿を見つけることは

できなかった。暫く手分けしてあちこちの路地裏を覗いてみたものの、元より人らしい他人

の姿は見当たらない。

「いないな……。見失ったか……」

「うーん。迷わずにもっと早く声を掛ければよかったかなぁ」

「……仕方ないでしょう。情報はまた集めるとして、一旦現場に──」

 だがその時だったのである。突如として辺りに甲高く、しかし確かに睦月達の耳に少年ら

しき者の悲鳴──断末魔の叫びが響いたのだ。

 言いかけて、ハッと一同が顔を上げる。嫌な予感が脳裏を過ぎる。

『マスター、現れました! アウターです! 北北西に二百七十メートル!』

 パンドラからの、國子達のデバイスにインストールされていた探知アプリからの警報が鳴

り始めていた。半ば反射的に、訓練された睦月達の身体が一斉にその方向へ走り出す。

 まさか本当に。間に合わなかったのか……。過ぎる思考よりも速く、ただ速く、戦闘体勢

になりながら路地裏を駆け抜ける。

「──ッ!?」

 そしてその先で、睦月達は目撃したみた。先刻の男子学生が首を刎ねられて真っ赤に絶命し、

くてんと崩れ落ちたその首から下の身体を、二人の人影が見下ろしている。

「……ほらみろ。気付かれてしまったではないか。やはり夜まで待つべきだったんだ」

「いや、そう悠長にはしていられない。どのみち俺達を追う人間は増える。時間の問題だ」

 短く刈り上げた髪の大男と、フードを目深に被った薄手のパーカーの少年。

 うっぷ……! 突然視界に焼きついたその惨状に、思わず仁や元電脳研の仲間、睦月まで

もが猛烈な吐き気を催して胸を、喉を抱えた。國子らリアナイザ隊の面々も、少なからず深

く眉間に皺を寄せながら身構えている。

 酷く冷静なように見えた。目の前の二人組は、十中八九今さっきこの少年を殺したという

のに、淡々とした眼でこちらに振り返り互いに呟き合っていた。しれっとフードの少年が反

論するのもそこそこに、大男の方が「まぁな」と言いつつ前に出る。

「ともかく……口封じをしなくては」

 はたして彼は、睦月達の前で変身してみせた。

 光るデジタル記号の群れがその身を包み、現した正体は牡牛を象った怪人。緑の鉄色を基

調にし、隆々とした体躯に部分鎧を着ている。

 ガチリ。そして身の丈もある戦斧を握り締め、大男は宣言通りゆっくりとこちらへ向かっ

て進み始めた。

「やっぱり……越境種アウター!」

「皆、奴を取り囲んで。数はこっちの方が上。一気に攻めます」

「おっしゃあ!」

「か、掛かって来いやぁぁ!!」

 國子の合図でリアナイザ隊、及び仁らがそれぞれの調律リアナイザをセットし、コンシェ

ル達を召喚する。

『TRACE』『READY』

「変身!」

『OPERATE THE PANDORA』

 睦月もそんな皆の中心でEXリアナイザを掲げた。デジタル記号の光輪と白い光球に包ま

れ、その身を電脳の騎士へと変貌させる。

「何……?」

「ほう? そうか。お前が噂の守護騎士ヴァンガードか」

『睦月、気を付けろ。そのアウター、リアナイザ無しに現出している。完全体だ』

 手ぶらで、パーカーのポケットに突っ込んだ中にはそれらしい物は見当たらない。

 一方で牡牛のアウターは、すぐに相手が何者かを理解したらしい。その赤い両目を静かに

光らせて、ぐぐっと戦斧を持ち上げる。

 インカム越しに皆人の鋭く警戒する声音が聞こえた。ほぼ無策の状態で敵にぶち当たって

しまったのは不安だが、ここでおいそれと見逃す訳にもいかない。

 暫く両者は睨み合っていた。いつもならリアナイザ隊に召喚主の確保を頼む所だが、今回

はもう既に意味を成さない。

「……ゆくぞ!」

 ぐっと踏み込む、牡牛のアウターの一言が合図となった。

 おぉぉッ!! 國子や仁、リアナイザ隊の面々が四方八方から襲い掛かる。睦月も真正面

から地面を蹴り、スラッシュモードの刃を振りかぶる。

 しかし……このアウターは、繰り出された幾つもの攻撃を瞬く間に捌くと、ことごとく反

撃の一発を与え続けたのだ。先陣を切った睦月の剣も斧の刃先で軽くいなし、次いで襲い掛

かってくるリアナイザ達の面々を次々に迎撃。その巨体に似合わぬ反応の速さと身のこなし

で戦斧を振り回し、斬り伏せて叩き飛ばす。

「あぎゃっ!?」「ぐひゃっ!?」

 仁たち元電脳研の隊士達も同じだった。千切っては投げ、千切っては投げ。彼らの操るコ

ンシェル達はどうどうっと路地の片隅に吹き飛ばされ、ダメージで震えている。睦月が彼ら

を助ける意味でも再三攻撃を仕掛けたが、これも同じく軽くいなされ、強烈な反撃を貰って

しまう。

「こ、こいつ……強い!」

 更にだ。フラフラになりながらも構える睦月達を目の前にして、この牡牛のアウターの身

にある変化が起こっていた。

 塞がっていったのである。ことごとく手痛く反撃されつつも、何とか数発を入れたその傷

が全て、ひとりでに治っていくではないか。

「嘘……だろ?」

「まさか、自己再生能力……?」

 驚愕する。そして相手もそれを否定しない。

 牡牛のアウターはガチリと、再び戦斧を握り締めて立っていた。周りを取り囲んで攻撃を

仕掛けた筈なのに、実際にはそのこちら側がダメージを受けて息を荒げている。

「大丈夫か?」

「問題ない。この程度なら直接の脅威ではないだろう。情報を漏らされれば別だが」

 ぶんと斧を振り上げる。つまりこの場から逃がすつもりはないという事だ。

「だったら……。パワーにはパワーだ!」

『ARMS』

『DRILL THE RHINO』

 仲間の一人に振り下ろされようとする刃。それを睦月は、咄嗟に呼び出した武装を纏いな

がら、庇うようにして割って入った。高速回転する左腕のドリル。戦斧の巨大な刃と、激し

く火花を散らしながら鍔迫り合いをする。ようやく押し止め、対抗することができる。

「ぬうっ……」

「一旦体勢を! 闇雲にぶつかったんじゃ駄目だ!」

 しかしその時間稼ぎは、長くは続かなかった。

 慌てて互いの肩を貸してやりながら退き、間合いを取り直す仲間達。一方で睦月は、徐々

に押し返され始めているように見えた。

 激しく軋み、散る火花。すると次の瞬間、とうとうアウターの斧が回転するドリルの溝を

捉え、そこからこの武装を真っ二つに叩き切ってしまったのである。

「ッ!? しまっ──」

 ぐらりとその反動で大きく体勢を崩す睦月。

 視界の寸前に、再び握る手を返し、振り上げられた戦斧が迫る。

「ぬ、あぁぁぁぁーッ!!」

 だがその一撃を、仁は半分ヤケクソになりながらもグレートデュークに割って入らせ、ギ

リギリの所で構えた大盾で防いでいた。

 されど威力までは殺し切れず、当の盾は横に真っ二つにされながら、彼は睦月と一緒にな

って吹き飛ばされた。ガラン。使い物にならなくなった盾が落ちる。傷んだアスファルトの

上に転がった睦月を抱え起こし、仁は言う。

「佐原、一旦逃げるぞ!」

「えっ? でも……」

「駄目だ。あんなチート野郎、まともにやって勝てる訳ねえ。このままじゃジリ貧だぞ!」

 この友に支えられながら、睦月は思わず周りを見た。彼ら元電脳研のメンバー達だけでは

ない。國子も、今や見知った顔の隊士達も、大打撃を受けたそれぞれのコンシェル達を従え

つつ、明らかに劣勢を強いられた苦痛のさまをみせている。

『俺も同感だ。不安材料はあるが、退け! 撤退するんだ!』

 インカム越しからも皆人が切迫した様子で叫んでいる。睦月はぐらぐらと立ち上がりつつ

身構えた。牡牛のアウターはじりじりと、得物を握り締めながら迫って来ている。

「……おいそれと逃がすと思うか?」

「逃がすんじゃねえ、逃げるんだよ……。伊達!」

 そして仁がフッと苦し紛れに不敵に笑い、仲間の一人を呼んだ。するとどうだろう。この

元電脳研のメンバーだった隊士は、眼鏡をキラリと光らせると、まだ余力を残していた自身

のコンシェル──蛸を思わせるコンシェルに口から大量の黒煙を吐き出させたのだ。

 即ち煙幕であった。入り組んでこそいるが、空間としては狭い辺り一帯にたちまちこの黒

煙は行き渡る。む……? 牡牛のアウターはその場に留まり、得物を庇に目を細めた。同じ

く後ろのフードの少年も小さく顔を上げ、しかし直後吐き出された黒煙の勢いかぜに煽られてそ

の面貌を露わにしてしまう。

「……。逃げられたか」

 やがて晴れていった一面。

 だがその時にはもう、そこにはこのアウターと召喚主の少年を除き、誰もいなくなってい

たのである。

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