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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-13.Justice/復讐鬼との邂逅
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13-(0) 路地裏の断罪

 事件は既に起きていた。

 夜の飛鳥崎、沈んだ日の代わりに煌々と街のあちこちで輝くネオン。

 だがそんな人工の光達から零れ落ちるように、薄暗い路地裏の一角をふらふらとした足取

りで歩いている少年がいた。

 ……いや、歩いているのではない。必死に逃げようとしていたのだ。しかし胴や腕、頬、

あちこちに走った決して浅くない裂傷をいくつも負い、彼は朦朧とする意識の中、思うよう

に走ることさえできなくなっている。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

『……』

 荒くつく息。もつれて暗くて、あたかも永遠に続きそうに感じられる夜闇の路地裏。

 そんな彼の後ろを、静かに着実に追い掛けて歩いている者達がいた。

 一人はフードを目深に被った、同年代と思しき少年。もう一人はこの少年に付き従うよう

に歩を進める、見上げるほどの体躯をした大男だ。

 轍が出来ていた。二人の後ろには点々と、惨殺された何人かの別の少年達の亡骸がそのま

まの形で転がっている。胸を斬り裂かれ、或いは首を刎ねられ。夜闇色を背景にした彼らの

鮮血は不気味に静かに赤黒く映る。

「っ……!?」

 そうして、逃げ惑う少年の正面が行き止まりになった。慌ててブレーキをかけ、引き攣っ

表情かおで背後に振り返り、しかし淡々と迫る二人にもう逃げ場がないと悟る。

「た、助けてくれ! なぁ、もう充分だろ? もうあんだけ殺せば充分だろ? なぁ!?」

 だから矢継ぎ早に口にしたのは、命乞いだった。

 プライド、命──優先順位プライオリティが彼の中で激しく入れ替わり、必死にそれでも体裁を整えな

がら、何としてでも自分だけは助かりたいという本性。

「……」

 しかし程なくして追いつき、このすぐ対面に立ったフードの少年は黙していた。

 殺されてもう戻って来ないとはいえ、友人達を見捨ててでも助かろうとするその性根を侮

蔑しているのか、或いはそんな変わらぬ心根に怒りすら覚えているのか。

 ギロリ。どうやら真相は、後者のようだった。

 小さく顔を上げ、フードの下から微かに片目だけが覗く。……酷く冷たくて、静かな怒り

を湛えている眼だった。

 そんな反応を見て、話が通じないと悟ったのだろう。すると次の瞬間、追い詰められた少

年はギリッと歯を食い縛り、それまでの態度から一変して罵声を張り上げる。

「畜生! ふざけんな! 何で俺達が、こんな目に……!」

 フードの少年の後ろ、大男が動こうとしたが、他ならぬ彼がまだ動かない。そんな二人の

図るタイミングすら見据えられぬほど、冷静さを欠き始めたこの最後の少年は、言う。

「俺のせいじゃねえ! あいつは……自分でヤったんだろう? 俺のせいじゃねえよ。結局

弱ェ奴だったんだ。なら要らねぇだろ? 今は……そういう時代じゃねえか」

『……』

 逆ギレ、責任転嫁。少なくとも彼がその誰かを貶しているのは分かった。

 フードの少年が気持ち、一層の殺気を漂わせたように感じられた。暗い裏路地にフゥッと

冷たい夜風が吹く。後ろの大男は何も言わず、ただ大きな影の塊として佇んでいる。

「そうかもな。だが、問題はそこじゃない」

 はたして、フードの少年は言う。

 数拍置いた間。とうに予想はしていて、だけどその直情を呑み込む為に、一度は静かにな

らなくてはいけなかった数拍。

 サッと小さく片手を上げる。その合図で後ろの大男がガチャリと巨大な刃をこの少年に向

けて持ち上げた。ひっ……?! もう逃げられない行き止まりに背中をぐいと押し当て、彼

はまた恐怖でチビりそうな表情かおになる。

 屁理屈だ。最期の興奮だ。

 もう何度も何度も言い聞かせたこと。フードの少年はその片手をついっと下げ、まるで単

純作業のようにゴーサインを出す。

「──お前は、俺のてきだ」

 直後、一閃。

 背後頭上より放たれた大男の一撃が、この少年の首を鮮血と共に跳ね飛ばした。

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