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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-12.Emotion/持たざる者の矜持
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12-(7) 後始末と仲間達

 後日、國子が収めた写真が決め手となり、八代直也は警察へ連行された。

 勿論アウター云々の情報は明かしていない。明かした所で作り話だと哂うだろうし、何よ

りもあの時点で既に誘拐と暴行未遂──立派な犯罪だ。

「ねぇ、皆人」

「うん?」

「結局筧さん達は、僕達のこと黙っててくれるのかな?」

「……いいや、黙らせた。彼が拒否したからな。仕方なかった」

 えっ? 学園の屋上で二人、ただぼうっと風に吹かれていた際に聞いた言葉。

 そうか、失敗だったか。任せておけとは言われたから自分は戦いに集中したけれど……。

「黙らせたって、どういう事? 何か弱みを?」

「……そんな手で折れてくれるような弱い人間なら幾分楽だったかもな。睦月。お前が青野

にやったのと同じ方法だよ」

 カメレオン・アウター撃破後、問題となったのは海沙だった。

 仁には相応の口止めをする。だが実際にアウターに襲われ、囮とはいえ取り返しのつかな

い事態寸前まで追い詰められた彼女だ。何もなかった、などという説明は通じまい。今回の

事件は彼女から相談を持ちかけてきたのだ。その性格からも、有耶無耶なまま区切りとはし

難いものと考える。

『睦月。ビートル・コンシェルを使って。こういう時の為の子よ。……あまり、乱用させた

くはないんだけどね』

 司令室コンソールの通信からそう、香月が指示を飛ばしてきた。

 オレンジカテゴリ、昆虫系コンシェルの一つ。その能力は──精神操作。

 睦月は無言で眉間に皺を寄せたが、他に方法がある筈もなかった。

 海沙の記憶を……。思わずEXリアナイザを握る手が躊躇ったが、これも彼女の為だと自

分に言い聞かせ、ホログラム画面の中のパンドラが頷くのに背中を押されつつ、コンシェル

を召喚する。

『ARMS』

『REMOTE THE BEETLE』

 それは掌の中に収まるほどの、小さな拳銃だった。

 但しその中に装填されているのは弾丸ではない。微小な蟲型の、打ち込んだ相手の体内に

付着する小さなチップだ。記憶操作はこれらチップを受信器のようにして行う。打ち込まれ

た瞬間さえ見ていなければ、先ず気付かれる可能性はない。

「……ごめんね。海沙」

 そっと地面に寝かされた彼女へと、銃口を向ける。

 目立たせぬなら頭、髪の中がいい。皆が見守る中、躊躇いながらも、睦月はぴたりとその

照準を合わせた。

 刹那、引き金。

 パンッと小さな音がし、彼女の頭部へとチップが打ち込まれた。


「──スラッシュ!」

『PUT ON THE HOLDER』

 大分ボロボロになったカエル型のアウターが、でっぷりとその身体を揺らして最後の抵抗

をせんと襲い掛かってくる。守護騎士ヴァンガードのパワードスーツに身を包んだ睦月は、これに真正面

から対峙し、腰のホルダーにEXリアナイザを収めて必殺の体勢を取ろうとしていた。

「そうは」

「させねぇぜっ!」

 そのチャージの隙を狙ってくるカエル型──フロッグ・アウター。

 しかし次の瞬間、睦月を庇うようにして幾体ものコンシェル達が間に割って入った。

 内一体は仁のコンシェル、グレートデューク。更にこの甲冑騎士の大盾にフロッグの攻撃

が防がれたのと同時、残りの剣や斧、ナイフなどを握った他のコンシェル達が右から左から

と次々にこの怪物へとすれ違いざまに攻撃をしかける。

 何度も火花が散った。フロッグは小刻みに声を上げ、よろよろと大きく仰け反った。

「──っ、これでッ!!」

 同時、睦月が駆け出す。エネルギーに包まれた剣状の銃口は唸りを上げ、待ってましたと

言わんばかりにひょいと左右に退いたデューク達の前を過ぎていく。

 一撃、二撃、三撃。

 左右の横撫でからすくい上げるようにフィニッシュ。

 茜色の軌跡が中空に残留しては消え、気持ち浮き上がったフロッグの身体を急激にひび割

らせた後、爆発四散させた。

 ふぅ……。スラッシュモードを解いて肩の力を抜く睦月。

 そこへ「イェーイ!」とハイテンションでやって来るのは、仁とその仲間達──電脳文化

研究会もといM.M.Tのメンバー達だった。

「……」

 他にも数名、リアナイザ隊はいる。

 だが本職(?)でこの任に就いているからか、或いは年齢の問題か、これまでもそうだっ

たように彼らはそんな個々の感情を露わにした事はない。

「やったな、佐原!」

「流石はチーフ。また今回もばっさりアウターを倒しちまった」

「……。ねぇ大江君、皆。本当に、いいの?」

「うん?」

「いや、その、対策チームの一員として戦うってこと」

 ああ……。睦月が仁達に振り返り、改めてそう控え目に問い返したこと。

 だがそんな問いなど無粋であったかのようだ。彼らはちらと互いに顔を見合わせ、それぞ

れの調律リアナイザとコンシェルを掲げ、ニカッと快活に笑う。

「ああ。勿論さ」

「一人より二人、二人より三人ってね」

「微力ながら、これからもお手伝いしますぜ? ……俺達の、けじめでさあ」

 睦月は言葉なき苦笑いを禁じえない。

 けじめ。そう、彼らは八代の一件──自分たちM.M.Tからストーカー犯を出してしま

ったことから電脳研を解散してしまったのだ。そして一連への償いとして、睦月達と共に戦

ってくれると誓ってくれた。


『ふぁ、ファンとかそういうのは、やっぱり恥ずかしいけど……』

『お友達、なら……』


 そんな彼らなりの自浄に、当初海沙は随分気を揉んだようである。

 しかしビートルチップによって攫われた前後の記憶が消され、且つ犯人が捕まったとだけ

聞かされていた彼女は、結局彼らへ敵意よりも憐憫を覚えたらしい。

 うぉぉぉぉーッ!? 故にその時のM.M.T一同の喜びっぷりったら。

 中には恥も外聞もなく男泣きする者まで現れた。「……現金ねえ」宙はそうジト目を向け

ては彼らを見、親友ともの優し過ぎさに呆れたものだが。


『ま……何気にVRやネットには詳しい連中だからな。味方にしておいて損はないだろう』

『青野や天ヶ洲、街の人々を守る為には、どうしたって人手が要る』


 皆人曰く、事件を通じてアウターの存在を知ってしまった以上、自分達の取るべき処置は

記憶を消すか仲間に引き入れるかのどちらかだったという。

 そして今回、彼は後者を選んだ。本人はこの人数の記憶をこの先追加で操作し続けるのは

骨が折れるしリスキーだと弁明していたが、睦月は内心、おそらくそれが彼なりの仁達への

“お詫び”だったのだろうと考えている。


「大丈夫だ。任せてくれ」

「俺達も、海沙さんを守ります!」

「……。あはは……」

 どんと胸を張ってみせる仁達。パワードスーツの面の下から、睦月は苦笑いを零す。

 だが不思議なことに、睦月は内心、決して悪い気分にはなれなかったのである。

                                  -Episode END-

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