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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-2.Prologue/超越者の誕生
9/518

2-(1) 初陣

「……え? ええぇぇぇーッ?!」

 周りの面々は勿論の事、当の睦月本人も驚愕していた。

 自身を包むのはフルフェイスな白亜のパワードスーツ。胸元のコアには茜色の輝きが宿り、

指先や二の腕などの稼動部はあたかも予め自分のために設えられたかのような黒いラバー

素材がぴっちりと覆っている。

「変身、した……」

「信じられん。あれだけ実験段階では失敗続きだったというのに」

「お、おい。すぐに計測を! 彼のデータを収集するんだ!」

「……」

 睦月がまじまじと“変身”した自身をためつすがめつ見渡している中、白衣の皆が慌しく

荷物からノートPCや接続式の計器を取り出し始めた。その中で唯一、昏倒した冴島の傍に

駆け寄っていた母・香月だけは、この息子の姿を複雑な表情で見つめている。

「適合値出ました! に、二七〇〇」

「二千ん!? 冴島君の三倍じゃないか!」

「彼は、一体……」

 故に暫く、睦月は彼らと、彼らに襲い掛かろうとした怪物達との間に唖然と立ちぼうけの

ようになっていた。

 蛇腹の配管をぐるぐるに巻きつけたボディに、鉄板をぎゅっと押し当てたかのような異質

な顔面。ギチギチと両の五指から伸ばした鋭い爪を構えながら、この三体は鉄板顔から空く

赤い瞳をぎらつかせながらゆっくりと近付いて来る。

「ど、どど、どうしよう。つい無我夢中で冴島さんのリアナイザを取っちゃったけど……」

『大丈夫です。まさかこれほどの適合者が現れるとは想定外でしたが、今はもう手段を選ん

でいる暇はないです。戦ってください! 私がサポートします!』

 でも……。パワードスーツに身を包みながらも身じろぎする睦月。だが状況が状況だけに

意を決したのか、銀のリアナイザの中からそうパンドラからの声がする。

『──今の貴方は、次元の壁すら越えられる存在です!』

 そうして、次の瞬間怪物達が襲い掛かってきた。両手の五指を引っ下げて、その装甲ごと

睦月を切り裂こうとする。

『リアナイザを口元に近づけてシュート、スラッシュ、ナックルの何れかをコールしてくだ

さい。基本武装を切り替える事が出来ます』

「う? うん」

 先ずパンドラからそんな指示が出た。されどこの姿は何で、何の為にあるのかがいまいち

判らないままだ。睦月は言われるがまま、この銀のリアナイザを持ち上げて頬近くに持って

いき、叫ぶ。

「シュート!」

『WEAPON CHANGE』

 するとまたもや鳴る機械音のコール。怪物達がすぐ近くまで迫ろうとして来ていた。

 睦月は叫んだ単語と、このリアナイザの形状から、半ば反射的にその銃口を彼らに向けて

思いっきり引き金をひく。

「ガギャッ!?」「ンギャハッ?!」

 するとどうだろう。銃口からは予想に違わず、エネルギーの弾丸が次々と発射されたでは

ないか。纏まって迫ってくる怪物達は次々に撃たれていった。激しい火花を放ち、明らかに

ダメージを受けたように吹っ飛んで転び、硝煙を上げながら床に倒れ込む。

『よしっ!』

「当たった……。コンシェルに、攻撃が……?」

『ぼさっとしないでください! 来ますよ!』

 背後でガッツポーズを取る白衣の皆と、自身の為した事に驚く睦月。

 しかしパンドラの言う通り、怪物三体の内、一体は他の二体の被弾を身代わりにするよう

に少し迂回しながら迫って来ていた。

 大きく鉤爪の手が振り上げられる。睦月は咄嗟に、次の武装をリアナイザにコールした。

「っ、スラッシュ!」

『WEAPON CHANGE』

 身を守るように両手を構え、引き金を握る。

 するとどうだろう。今度は銃口から弾丸ではなく、エネルギーの刀身がブゥンと現れたで

はないか。直後、怪物の鉤爪がこれとぶつかり激しく火花を放つ。とんでもない力だ。睦月

は一瞬その尋常ではない筋力に驚きつつも、同時に自分が──このパワードスーツを纏って

いる自分が、その威力に充分に耐え切っている事に気付く。

「ぬぅぅ……。どっ……せいッ!」

 全身に力を込めてこれを弾き、一閃二閃とリアナイザの剣でこの怪物の内一体を斬りつけ

てみせる。彼(?)は思わずよろめいた。そこへ先ほど撃たれて地面に転がっていた残りの

二体が合流し、今度は三対一で睦月に襲い掛かる。

「だわっ!? 痛だっ! 痛い痛い! くそっ、こん……にゃろうッ!」

 パワードスーツに一撃二撃、鉤爪を叩き込まれ、睦月は火花を散らしながら左右にふらつ

いた。口にはする。が、存外身体の芯にというよりは衝撃でそう感じるようだ。すぐに両脚

を踏ん張り、必死になってこの怪物達三体と立ち回って取っ組み合う。

「猪口才、ナ」

「なっ……。や、止めろ離せ!」

 すると怪物達は、一体が背後に回って睦月を羽交い絞めにし始めた。当然睦月もこれにじ

たばたともがいて抵抗する。だがその間に残り一体が鉤爪を、もう一体が五指を筒状にして

弾丸を放ち、パワードスーツ姿の彼を攻め立てる。

「あだだだだ!? 止めろ、止めろって!」

『睦月さん、ナックル・モードです! 拳の力場で後ろの奴をぶっ飛ばして!』

「ぐ……。な、ナックル!」

『WEAPON CHANGE』

 所詮は素人。劣勢になったとみるや否や、パンドラが続いてそう指示を出してくれた。羽

交い絞めで苦しみながら、それでも睦月はリアナイザを頬の傍まで引き寄せると、残り一つ

の武装形態に切り替える。

「ギャッ!?」

 直後、引き金をひいた瞬間、銃口を中心にエネルギーの球が形成され、ちょうど顔の側面

にそれが触れた背後の怪物が吹っ飛んだ。慌てて睦月はこれから離れて身構え、球系のエネ

ルギーを纏うリアナイザを拳具よろしく握る。

「おかえし、だっ!」

 半身を返して飛び退いた背後から迫ってきた他の二体を、裏拳で先ず叩き落し、放ってく

るエネルギー弾をこの光球に弾かせて防ぐ。どうやらこの武装は単に殴るだけではなく盾と

しても使えるようだ。

 一体目の方に蹴りを入れてもう一体の方へ跳ね飛ばし、駆けながらこの纏まった二体に思

いっきり右ストレートを叩き込んで吹き飛ばす。

「……化け物相手とはいえ、あんまり気持ちのいいものじゃないな」

『言ってる場合ですか。次はこの子達──サポートコンシェルを使ってみてください。ホロ

グラムから選択して、引き出したいタイプのボタンを押して引き金をひくだけです』

 香月や、白衣の皆の応援を背に受けつつ、ぽつりとフルフェイスの茜色のランプ眼を気持

ち点滅させながら睦月はごちた。だがそれを、他ならぬパンドラが制してそう次なる指示を

出してくる。

『先ずは……この獅子ライオンの子を。アームズ、武装追加は右のボタンです。最初に押したトレース、

装甲追加の下の段ですよ』

 ふるふると首を横に振って気を持ち直しながら、さっき発動と同時に吹き飛ばした怪物が

のそりと起き上がり始めていた。

 睦月の背後。彼はフーッ!と息を荒げ、五指の爪を振りかぶりながら飛び掛かってくる。

『ARMS』

『FIRE THE LION』

「せいっ!」

 ホログラム上の画面からコンシェルを選択し、銃底の右のボタンを。

 引き金をひいて銃口から飛び出た赤い光球が左腕に纏いつくのもそこそこに、睦月は振り

向きざまにこの襲い掛かってくる怪物を真正面から殴りつけた。

「ンギャァァ!!」

 轟。睦月の左アッパーは文字通り火を噴いていた。

 獅子を象った拳具。その目が赤く光り、メラメラと真っ赤な炎を纏っている。

「熱、イ……。熱イィッ!?」

『ふふん? なら冷やしてあげましょうか。睦月さん、この子の属性エレメント──左のボタンを!』

「オッケー」

 火に巻かれて地面を転がる怪物に吐き捨てて、パンドラが言った。睦月はホログラムの画

面上でアクティブになる別のコンシェルを確認すると、そのまま銃底の左ボタンを押して引

き金をひく。

『ELEMENT』

『ICE THE WOLF』

 今度は青い光球が飛び出し、胸元のコアと吸い込まれていった。

 クゥゥン……。力が満ちたように唸るそれを見てもう一度この怪物に向けて掌を開くと、

次の瞬間大量の冷気が吹き出し、みるみる内にその身体は氷漬けになる。

「だっ、しゃあッ!!」

 それを、睦月は再び獅子の拳具で叩いた。炎を纏い、氷を融かしながら砕いて殴り飛ばす

一撃。そしてそのまま、この怪物の内の一体はバラバラに四散してひび割れ、次々に宙で破

裂しては消滅していく。

「よしっ!」

「一体やっつけたぞ!」

 だが……その隙を突かれたのだ。自分達の開発したパワードスーツ──睦月が怪物の一体

を撃破したさまに喜んでいると、残る二体が彼らの姿を認め、にわかにその標的を切り替え

て来たのだ。

「ひっ……!?」

「や、止めろォ! 来るなぁ!」

「──ッ! 母さん、皆!」

『待って、睦月さん。こんな時こそサモンタイプの出番です。この子を真ん中のボタンで。

一対一の戦いに持ち込みましょう』

 咄嗟に割って入ろうとした睦月に、パンドラが言った。再び更に別のコンシェルがホログ

ラムの画面上でアクティブになり、睦月は駆け出しながらボタンを押し、引き金をひく。

『SUMMON』

『THUNDER THE DEER』

 するとどうだろう。今度は引き金から、黄色の光球を纏いつつ、鹿をモチーフにしたよう

な二足歩行の怪物が現れたのだ。

 思わず一瞬、睦月は足を止めかける。だがパンドラが『博士達を守って!』と言った瞬間

この鹿のコンシェルが肩越しに振り向いて頷いたのを見て、睦月も彼は敵じゃないと直感的

に理解する。

「ガッ!?」

「新、手……?」

 香月達に迫ろうとしていた怪物達を、睦月と鹿のコンシェルはほぼ同時に飛び込んで食い

止めた。それぞれに一体ずつを受け持ち、殴り合い防ぎ合いの戦いを繰り広げる。身を割り

込ませて皆から怪物達を引き離し、半ばヤケクソになってその身体に連撃を叩き込む。

「こん、のっ! 母さん達から、離れろ……ッ!!」

「フ、シャアァァァァーッ!!」

 じわりじわりと殴って後退させる横で、鹿のコンシェルが雄叫びを上げながら対する怪物

を猛烈に押し出していた。

 思わず睦月が通り過ぎて行った先を見遣る。どうやらその大きな角で挟み込み、体当たり

をかましたようだ。

 しかもである。壁際に追い込んだこの怪物を、彼は角から発生させた電撃で以って怒涛の

攻め。あっという間にこれにオーバーキルのダメージを与え、ヒビ割らせたのち爆発四散さ

せてしまう。

「……僕、要らなくない?」

『呼び出す本人がいなければ出て来れませんから。ささ、私達もフィニッシュですよ!』

 五指の鉤爪をしのぎ、その隙を突いて拳や蹴りを入れながら、一旦睦月は大きく残る一体

を蹴り飛ばして距離を取った。ふらふら。仲間達を次々に倒された怪物はさも怒りに震えて

いるかのようにみえる。

『いずれかの武装を起動させた状態でチャージをコールしてください。エネルギーの充填が

始まりますから、腰のホルダーのどちらかにリアナイザを挿入、完了音が出るまでしっかり

狙いを定めておいてください』

「……了解。シュート、チャージ!」

『WEAPON CHANGE』

『PUT ON THE HOLDER』

 基本武装を射撃に切り替え、とどめの一撃に入る。

 リアナイザからは例の如く機械音のコールが鳴り響き、一旦出していた他の追加武装も解

除して銃口を腰に下がっている一対の金属ホルダーへと収める。

 オォン……。全身に力が満ちていくのが感覚で分かった。そしてそのエネルギーの流れが

胸元のコアから全身を伝い、腰のベルトからホルダーに注がれていく。

『今です!』

 キィン──。甲高い完了音が鳴り、パンドラが叫んだ。睦月はくぐもりながらも雄叫びを

上げて突っ込んでくるこの怪物と真っ向から対峙しながら、こちらも半ば必死になって叫び

つつ、ホルダーからリアナイザを抜いて銃口を向け、一気に引き金をひく。

 轟。両手で支えていないとこちらが吹き飛ばされそうな衝撃だった。

 銃口から放たれた極太のエネルギー砲。それは真っ直ぐにこの最後の一体に直撃し、これ

を消し炭にしながら瞬く間に消滅させる。

「……はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 暫し、しんと辺りが急に静かになった錯覚がした。だがそれでも館内の警報は相変わらず

何処か遠い所で鳴り続けている。

「睦月……」

「睦月君……」

 ゆっくりと振り返る。香月以下、研究室ラボの皆が驚きと安堵の様子でこちらを見ていた。

睦月も笑う。最初と同じようにデジタルの光輪が彼をぐるりと回り、その姿はいつもの心優

しい少年のものに戻った。

「……よかった。皆、無事、で──」

 睦月!? 彼らが血相を変え駆け出してくるのが見える。

 だが睦月は、次の瞬間、もう意識を手放す強烈な眩暈に抗う術を持てなかった。

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