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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-11.Emotion/結社M.M.T
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11-(6) 見つめる先は

『詳しく調べてみたけど、大江君が所持していたリアナイザは正規品よ。間違いないわ』

 そして更に日没後、司令室コンソールにて対策チームの皆が集まった中で。

 香月はデスクの上に件のリアナイザを置き、研究部門の代表としてそう結論を述べた。睦

月はただ言葉にならず、そっと隣にいる筈の親友みなとを見た。……ただじっと目を細めて、何度

も細かく咀嚼するように聞いていたように思う。

 改造リアナイザではない。つまり仁は犯人ではなかったという事だ。

『……ひどいこと、しちゃったね』

『ああ。俺のミスだ。すぐにでも口封じしないてをうたないとな』

 だから一見して変わらず淡々と呟き、思案していた彼に、睦月はどうにも居た堪れない感

じを抱く。

 ぼんやりとで証拠もないが、もしかしてと思っていた。自分が海沙達を大切に思っている

のと同じくらい、彼も自分たち仲間を大切に思ってくれているのだろうかと。その思いが、

一度は宙が狙われたことも相まって、この冷静沈着な司令官を急かしたのだろうかと。

 ごめん、皆人……。

 何故だろう。だが睦月は心の中でそう謝らずにはいられなかった。同じ気持ち、仲間意識

や絆を感じてくれていることが嬉しい一方で、事実今回のように彼自身や他の誰かを傷付け

る原動力になってしまったのであれば、それはそんな気持ちをいつの間にか強いてしまった

自分にも非があるのではないかと思ったのだ。

 ……僕だけでいい。

 多分これは凄く我が侭な願いなんだとは解っている。でも、もし君がその所為で正気を失

ってしまうのなら、この想いは自分だけが抱いて背負っていけばいいんだと思った。

『ですが、そうなると一体召喚主は誰なのでしょう?』

『うーん……。一応パンドラとクルーエル・ブルーのログから声は拾ったがなぁ』

『流石に声だけではなぁ』

『しかし仮に大江仁がシロだとしても、昨夜司令達の前に姿を見せた説明がつきませんよ?

ただの偶然にしては出来過ぎているように思いますが』

『実際、司令達を見た瞬間に逃げてますしねぇ……』

 ざわざわ。國子やリアナイザ隊、職員達が互いに顔を見合わせて難しい顔をしていた。確

かに目の前の代物が仁の容疑を限りなく晴らしているにせよ、自分達が解くべき謎はむしろ

増えてしまったのだから。

『……とにかく。俺達は明日もう一度、大江に会ってみようと思う』

 それでも皆人は言葉にした。ちらと睦月を見て、その首肯も取りつける。

『そうだね。どちらにせよこのままじゃいけないよ。会って誤解を解いて、謝らなくちゃ』


(──とは言ったものの……)

 夜が更けていく。司令室コンソールでの全体会議を終えた睦月は、いつものように地下迷路から地上

に出、一人自宅に続く夜道を歩いていた。

 方針は決まった。尤もそれは作戦というよりは、通すべき筋と言うべきだけれど。

 しかし苦境である事には変わりない。おそらくアウターと無関係と判った仁をどのように

誤魔化すか。いや、それ以前にまともに話を聞いてくれるにはどうすればいいかを考えなけ

ればならないだろう。

 深く大きくため息をつき、そっと胸元──懐にしまったEXリアナイザに触れる。

 今回の敵はカメレオンをモチーフにした、姿を見えなくする能力のアウターだ。皆人もあ

の時同じようなことを言っていたが、同じ系統の力でも使い方次第では犯罪の片棒を担ぐ事

だって不可能じゃない。

(……僕は、本当に正しくこの力を使えているんだろうか……?)

 正義の味方? ストーカー?

 睦月は頭の中がぼんやりぐるぐるとして、分からなくなる。


(──大江が犯人じゃない? だったら誰が海沙を付け狙ってるのよ……?)

 時を前後して、宙は風呂上りのパジャマ姿でベッドに転がり込み、むすっとした表情でう

つ伏せの身体を預けていた。

 放課後、皆人からあった連絡。

 何でも問い質しに行った仁とは喧嘩別れに終わってしまい、更によくよく調べてみると彼

が犯人ではないらしいというのだ。そもそも海沙の背後から迫っていたのにその前方でこち

らを見ていた矛盾とか、色々小難しい事を説明されたが……大事なのはストーカーに怯える

親友をどう助けるかである。その意味では、事件は大して前に進んでいないのではないか。

「む~……」

 悶々。自分の無力さと、浅薄さを思い知る。

 何てざまだい。大見得を切って囮作戦までやったのに、結局自分は親友にトラウマをまた

一つ植えつけただけではないか。……最悪だ。まぁあの子の事だから、今頃きっと自分が相

談を持ちかけた事自体を悔やんでめそめそしているのだろうけど、それを含めてあの子を苦

しめてしまった自分が情けない。

(睦月。あんたはどう思う? っていうか、こんな時に何処ほっつき歩いてんのよ……)

 ごろごろとベッドの上を行ったり来たり。

 宙の部屋からは、明かりが一切点いていない佐原家が見える。


(──はあ。どうしよう。私のせいだ。私のせいで皆に迷惑を掛けちゃった……)

 その一方で案の定、海沙は一人自室でしょんぼりとしていた。

 くてんと机に突っ伏して後悔また後悔。彼女にとって心に圧し掛かり、責め立てるのは、

自分がストーカーの恐怖に曝されたことよりも、何より大切な仲間達をこの一件に巻き込ん

でしまったという点であった。

 睦月からの電話では、容疑者として挙がったクラスメートの大江君とは上手く話が出来な

かったらしい。……そりゃそうだ。よくよく考えてみれば、いきなりやって来てお前あの子

のストーカーだな? などと言われて感情的にならない方がおかしい。加えてあの時の状況

から、彼が自分を背後から襲うのは不可能だったのではないかというのだ。確かに彼を二人

が見つけた時、ちょうど彼は自分達の前方遠くに立っていたが。

(……M.M.T、かぁ)

 それにしてもである。まさか自分の(非公式)ファンクラブが存在しているなんて思いも

しなかった。ソラちゃんは在っても不思議ではないとは苦笑わらっていたけれど、普通に考えて

恥ずかしいのなんのって。……彼らの中にいるのだろうか? 一先ず大江君が犯人じゃない

と判ったものの、その中に。

(気持ちはありがたいけど、私は……)

 と、心の中で言いかけてまた一人ぼんっと顔が赤くなる。

 やだ。私ったら何を。こ、心に決めてるなんて、そんな……。

「……」

 ぺたん。火照った頬を改めて冷やっこい机の表面に押し当てる。

 ファンクラブ。

 その、むー君は、私を──私達を、そういう風に見てくれているのかな……??


 夜が更けていく。不安と不確定を含んだ時間が過ぎていく。

 だが睦月達は気付く事はなかった。

 そんな自分たち三家を、じっと物陰から観察している人影があることを。

「──」

 静かに夜闇に溶ける黒いコート。

 それは油断のない刑事デカの眼を光らせる、退院した筧と由良の姿だった。

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