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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-11.Emotion/結社M.M.T
77/526

11-(0) 見ているよ

 日が落ちて、今日も街に夜がやって来る。

 とある商店街だった。昼間あった明るさはなりを潜め、立ち並ぶ店先から漏れる照明や道

端にぽつぽつと立つ街灯がこれに代わっているが、正直心許ないのは否定できない。行き交

う人の数も明らかに少なく、漂う物寂しさに拍車を掛けている。

「……」

 そこに、一人の少女がいた。

 やや薄めの鹿射ち帽と黒縁の眼鏡、ベージュの薄手のコート。そして肩には大きめのショ

ルダーバッグを引っ掛けており、その手を彼女は随分と大事そうに、この鞄を庇うように隠

すようにして添えていた。

 はっきり言ってしまって、挙動不審である。

 彼女は先程から何度もきょろきょろと辺りを見渡し、あたかも他人の眼を気にしているよ

うだった。もしこの場に彼女の知人がいたならば「そんなんじゃ余計に目立つよ?」と苦笑

いを向けたに違いない。

 ──知人がいたならば。

 そう、彼女は他ならぬ海沙だった。どうやら普段はあまり着ない中性的なファッションに

身を包み、変装をしている心算のようだ。

 だがどれだけそんな努力をしても、こうもあくせく何度も周りを警戒しているようでは逆

効果というものだ。事実、既に行き交う人々の何人かは時折ちらっと彼女を見ると、不思議

そうな表情かおをしたまま立ち去っていく。

 日没後の、人気も疎らな小さな商店街。

 そんな時分に海沙が向かっていたのは、道端の一角に立っているポストだった。

 ガサゴソ。最後に改めて自分を見ている眼がないのを確認すると、彼女は鞄の中から大き

めの茶封筒を取り出した。

 暗くて見え辛いが……赤ペンで何処ぞやの宛先が書かれているようだ。そしてこれをえい

やと投函し、手元が空になって初めて、海沙はホッと深く静かに安堵の息をつく。

「──っ!?」

 しかしその時だったのである。海沙は直後、背後から何者かの視線を感じると慌てて後ろ

を振り返った。

 なのに誰もいない。見遣った先は街灯の光も届き切らない暗がりで、代わりに彼女の視界

をぽつ、ぽつとおよそ無関係な通行人らが通り過ぎていく。

 海沙はぼうっと立っていた。暫く目を瞬かせてゆっくりとこの方向に目を凝らし、しかし

やはり誰もそこにいるようには認められず、ごくりと喉を鳴らす。

 薄ら寒かった。確かに今、自分は誰かに見られていた。

 だが振り向いた瞬間にはその姿はなく。ただそんな自分を、時折疎らな通行人が怪訝な眼

を遣りながら通り過ぎていくだけだ。

「……。また?」

 ようやく、僅かにだが言葉が出た。

 海沙はぎゅっと、胸元に遣っていた鞄を一人握り締める。


 日の落ちた街の片隅で。

 ややもすれば気のせいかと忘れ去ってしまいそうな出来事だったが、少なくとも彼女にと

っては、得体の知れぬ恐怖を与えられるには充分だった。

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