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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-10.Gaps/君が私を許さぬのなら
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10-(5) 水際決戦

「改造リアナイザの反応──アウターです! 南西に四百メートル!」

 公営プールに到着した睦月は、早速晶の姿を探すべく歩き回っていた。

 しかしなまじ人数が多く、広い。

 泳ぎに来た訳でもなく一体何をしているんだと次第に利用客達から怪しむ視線も向けられ

出し、気持ちが萎えかけていたその時……パンドラがはたと標的ターゲットの出現を察知したのだった。

 人目を気にしている暇もなく、駆け出す。

 また誰かの記憶を奪おうとしているのだろうか? 或いは、もっと別の……?

 幾つかの疑問は過ぎったが、結局この時の睦月には程なくして瑣末な事になる。

 見つけたのだ。晶と、輝く鎧騎士のアウターを。そして何時ぞやに見た神父風の男を。

 デバイスを片手に睦月は慌てて近くの物陰に隠れていた。目を凝らすと、どうやら男は懐

に何やら手を伸ばしている。

『どうした?』

「法川先輩とあの時のアウターがいたよ。それと……厄介な奴が」

『はい。H&Dの工場に潜入した時、私達をボコボコにしてくれやがった奴の一人です!』

 インカム越しに問うて、返ってきた二人の言葉。

 皆人以下司令室コンソールの面々はにわかに身を強張らせた。あの時の記憶が蘇る。

 しかし何故? 何故おそらく幹部クラスと思われる彼が、こんな所に……?

『TRACE』

『READY』

 しかしそんな戸惑いも束の間、皆人達の沈黙を余所に睦月はEXリアナイザにデバイスを

挿入、変身を始めようとしていた。

『? おい、睦月──』

「今出なきゃ駄目だ。二人があいつに会ってるって事は、下手したらもう僕らのこと、喋っ

てるかもしれない」

 気付いて通信越しに皆人が止めに入る。だがにわかに殺気だった親友ともの言葉に、司令室コンソール

面々は総毛立った。

 冷静でいて、直情。

 それは即ち自分達にとって、大切な人達が危険に晒されるかもしれないリスク。

 誰もが少しでも時既に遅しを想像していた。認証の電子音と同時、睦月はEXリアナイザ

を握った右手を大きく正面にかざす。

「変身!」

『OPERATE THE PANDORA』

 うおォォォーッ!! そして直後、睦月は雄叫びを上げながら飛び出した。白亜の鎧を纏

ったその闖入者に、晶とクリスタル・アウター、そしてこの神父風の男が驚いて振り返る。

 彼女らと彼に割って入るように、睦月は拳を振った。

 だが神父風の男はこれをひらりと跳んでかわし、再び彼を庇うように割り込んでくるクリ

スタルの、動揺を隠せないファイティングポースを見遣る。

「追って来ましたか……。クリスタル、倒してみせなさい。見ていますよ?」

 一歩二歩、ゆっくりと後退する神父風の男と、またなの!? と悪態をつきながらそれで

もそそくさと逃げ始める事しかできない晶。

 睦月もとい守護騎士ヴァンガードとクリスタル・アウター。両者が向かい合った。彼の右手には既にナッ

クルモードが起動されており、握ったEXリアナイザの銃口を中心に球体状のエネルギー

が形成されていく。

「……っ!」

 先手はクリスタルだった。両手にそれぞれ力を込め、矢継ぎ早に結晶弾を放っていく。

 睦月はこれをナックルで捌きながら横断、辺りの木々や人気の少ない建屋を巻き込みなが

ら左に右に距離を詰めようとする。

『ARMS』

『SHIELD THE TURTLE』

 そして一直線上に並ぶタイミングの少し手前で武装を呼び出し、自分を隠すように楕円形

の盾を引っ下げると一気にこれへと突進、組み付きにかかる。

「せ……法川さん、もう止めてください! こんなやり方で作ったチームなんて本当のチー

ムなんかじゃない!」

 ガツンッ。盾ごとクリスタルを押し戻しながら、睦月は叫んだ。

 すぐには解らなかったのだろう。だがややあって、それが自分に対しての言葉だと悟った

晶がハッとなり、神父風の男の横で大きく目を見開く。

「私は──」

「耳を貸すな、アキラ! 何処の誰とも知らぬ人間に!」

 しかしクリスタルがこれを遮った。

 かのじょが願ったものと、それに依り立って存在する自身の維持。大盾に正面至近距離を封じら

れながらも、彼女もまた必死である。

 この召喚主がまたもやハッとなり、据わった眼でぶつぶつと呟き出すのを視界に映すと、

クリスタルはぐっと踏ん張った上で睦月に蹴りを放ち、一旦押し返した。

 ぐらりと数歩空く間合い。そこへクリスタルは両手から放った結晶弾を、放物線を描くよ

うにして空中へ投げ、左右前後から睦月を追い込むように攻撃する。

「──ッ!?」

 轟。着弾した無数の結晶弾が辺りの地面を穿ちながら分厚い破砕音を立てた。

 土埃が濛々と上がる。神父風の男が、晶が淡々とはらはらとしてその場に立ち、当のクリ

スタル自身もじっと目を凝らして撃退の如何を確認しようとする。

「……」

「なっ!?」

 だが結果から言えば、無傷だったのだ。土埃が晴れてきて全容が見えた瞬間、彼がいた筈

のそこには、網目状の表面をした分厚い巨大な金属球が鎮座していたのである。

「ふぃ~……。危なかった」

『でもへっちゃらでしたでしょ? ディフェンド・ザ・アルマジロ。動けなくなるのが弱点

ですけど、ああいう攻撃ならこれでばっちりです』

 ガション。金属球はどうやらスライド式に展開された全方位型の防御壁だったようだ。

 いつの間にか守護騎士ヴァンガードに備わった円筒状の背部パーツに左右から巻き上げられて収納され

る。故に中の睦月は全くの無傷で、そうパンドラと軽く話をするくらいには余裕がある。

「な、何なの……? あいつ」

「くっ。次から次へと珍妙な装備を……。これでは埒が明かない」

『だったら諦めて倒されてよ~』

「そういう言い方は……。でもこうするしかないんだ。法川さん、目を覚まして! 貴女は

そいつらに利用されているだけなんだ!」

「う、五月蝿い! あんたに何が分かるっていうの!? そもそもあの時あんたが途中で邪

魔さえして来なければ、今頃天ヶ洲だってうちの戦力になっていたっていうのに……!」

 一歩進み出る。睦月はパンドラを窘めながら再度説得を試みた。

 身バレはもう遅かったかもしれない。だけど彼女自身は、まだ何とかなる筈だ。

『……手遅れ、か。リアナイザへの依存が相当強くなってきている』

 しかし訴えも虚しく、かのじょから返ってきたのは逆恨みと言ってもいい憤りの弁であった。

通信越しに皆人が静かに首を横に振っている。こちらも遅かったというのか。

 駄目なのか……? 睦月はパワードスーツの中できゅっと唇を噛む。

「どうしました、クリスタル。貴女の力はその程度ですか?」

「……っ!」

 そこへ更に神父風の男の静かなプレッシャーが拍車を掛ける。クリスタルは身を震わせ、

両手から生み出す結晶をそれぞれ手矛型に変えた。りゃあァァァッ!! 半ば自棄クソじみ

た声を上げながら、今度はそのまま睦月と白兵戦を演じようとする。

「ぬわっ!? くっ……!」

「……そうだ、お前さえ。お前さえいなければ。何故我々の邪魔をする!? 人間ッ!」

 背中のパーツもあり、睦月はこれを両手の装甲を噛ませながらいなすので精一杯だった。

数手耐えしのぎ、慌ててこの武装を解除する。ずしりと、身体にそれまでに使った体力が持

っていかれたような気がした。

「うぅ。やっぱ重い」

『仕方ないですよ。ブラックカテゴリはパワーに特化している分、機動力が犠牲になってい

るんです』

 パンドラが事もなげに言った。クリスタルが引き続き双矛を引っ下げて突っ込んでくる。

 睦月は再びホログラム画面を操作していた。あの鎧、結晶のような硬さ。並の攻撃ではお

そらく決定的なダメージは与えられないだろう。そう相棒は言うが、やはりそのカテゴリの

特性を借りる他にはない。

『ARMS』

『HAMMER THE ELEPHANT』

 黒い光球が銃口から飛び出し、慌ててスピードを落とすクリスタルの眼前を折り返して睦

月の右腕に収まった。リアナイザを左手に持ち替え、腰のホルダーに収め、巻き上げ機と化

したその右腕からはずしりと重い鎖鉄球がぶら下がっている。

「せい……のっ!」

 ゆっくりと、段々加速をつけて振り回す。

 これがエレファント・コンシェル──ブラックカテゴリの武装の一つだった。

 破砕の一撃。半ば反射的にスピードを緩めてしまったクリスタルは、その中途半端な間合

いが故にこのぶん回しの殴打をもろに受けた。げはッ!? 蒼白く輝く装甲がたったの一撃

でひび割れて砕け散り、彼女をどうっと地面に吹き飛ばして立ち上がれなくする。

「う、嘘でしょ……?」

「う~ん……。流石にえぐいな、これ」

 大ダメージに悶えて酷く息を荒げている自身の使い魔に、晶は絶句していた。当の攻撃を

放った睦月は睦月で、想像以上に破壊力抜群のこの武装に若干引いている。

「……ここまでのようですね」

 だが、その直後だったのである。勝負ありとみて神父風の男がおもむろに動きした。一度

は懐に伸ばした手を再び弄り、そこから一枚のチップを──黒光りするPCパーツを思わせ

るそれを取り出し、晶の改造リアナイザに挿入させた。

「えっ? 何……?」

「シンからのプレゼントです。もとい、実験ですが」

 故に次の瞬間、睦月や通信越しの皆人達、当の晶本人までが驚愕した。黒光りするチップ

は瞬く間にこの改造リアナイザを黒いデジタル記号の光に包み、そして地面に転がっていた

クリスタルを苦しめ始めたのである。

「う……が、アァァァァーッ!!」

 光が絶叫する彼女を巻き込んで膨れ上がり、巨大化していった。突然の異変に狼狽する晶

も、まるでその手が固着されたかのように改造リアナイザから離れない。

『──ッ』

「これは……」

 変貌。圧倒的睥睨。

 そこにはかつての原型を留める事なく、巨大な蒼白い蜘蛛の化け物と化したクリスタルの

姿があったのだった。

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