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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-10.Gaps/君が私を許さぬのなら
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10-(4) 待ち人は哂う

 一旦更衣室に戻ってざっと濡れた身体を拭い、焦りと緊張を抱えながら着替えると、晶は

公営プールの敷地内のとある建物裏へと向かった。

 指定された時間、都合を合わせて知らせておいた場所。

 やや息を切らして来てみれば、そこには大よそ場違いの、神父風の黒服に身を包んだ男性

が待っていた。

 睦月達がH&D社へ潜入を試みた際、その追っ手として現れた四人の内の一人である。

「……。お待ちしていましたよ」

 クリスタルの話していた“蝕卓ファミリー”。

 晶はごくりと、肩越しに向けてくるその抜け目のない眼光に息を呑みながらもポケットに

突っ込んでいたリアナイザを取り出した。デバイスを入れ、引き金をひいて起動させる。

 ホログラムの光から飛び出すように、蒼白い鎧の女騎士──クリスタル・アウターが姿を

現した。フルフェイスの兜の奥で紅い眼が光り、そしてサッと片手を胸元に当てて流れるよ

うな所作で彼の前に跪く。

「わざわざ私達を呼び出すとは、大きく出たものですね」

「無礼は重々承知の上でございます。ですがどうしても、至急そちらにお伝えすべき情報が

ありまして……」

 晶はいつものように引き金を握ったまま、このやり取りを見ていた。

 何だか、面白くない。

 主は自分だというのに、彼女は真っ先に彼に向かって服従のポースを取ってみせた。

 彼女からざっくりと聞いたから知らない訳ではない。それだけこの神父服の男が自分達よ

りも遥かに強い力の持ち主である──彼女を上回る怪人だということの表れなのだが、それ

でもやはり面白くはない。

「分かっていますよ。守護騎士ヴァンガードでしょう? 貴女達が彼の正体を目撃したと言ってきたから

こそ、こうしてわざわざ出向いて来たのではないですか」

 こうして時間を取ってこそこそと彼と落ち合ったのは、他ならぬ先日のあの白い鎧戦士に

ついてだった。

 守護騎士ヴァンガード。巷で噂になっているという他称・飛鳥崎の守護者。

 その正体、変身の瞬間を自分達は見たからこそ、相棒かのじょが先ずはその情報を伝えておくべき

だと主張したからこそ、自分は今こうしてこの得体の知れない男と相対しているのだから。

「それで……? 一体守護騎士ヴァンガードを名乗る者の正体とは誰なのです?」

 神父風の男はあくまで冷静に、しかし何処か急かすようにして眼鏡のブリッジを触り、瞳

の奥を光らせていた。

 クリスタルは畏まっている。晶はただその様子を見ているしかない。

 ははっ。胸に当てていた手をさっと晶──改造リアナイザに向け、彼女は言う。

「同年代の少年でした。誰かまでは分かりませんが。私の端末ほんたいのログをご覧になっていただ

ければ、いずれその身元も判るものかと。ですのでどうか……」

「……」

 しかし神父風の男は、眼鏡のブリッジに指を当てたまま、すぐに反応する事はなかった。

 じっと。どうやら何かを考え、見定めているらしい。

 不安になって顔を上げたクリスタル。そんな同胞かのじょに、彼はやはり相変わらず淡々とした口

調でもって言う。

「しかし貴女は一度彼に負けているのでしょう? 情報提供は感謝します。ですが弱き個体

の安堵を一々保証しておくほど、我々も暇ではないのですよ」

「そ、そんな……!」

 故にそう助力を拒絶された時、クリスタルは絶望と──焦燥すら覚えた。

 交渉は脆くも崩れ去ったのだった。……いや、態度こそ服従しているようでもその実、手

にした有力情報を梃子に自らの生き残りを企んでいると見透かされたからこそ、彼もまた切

り捨てようと判断したのかもしれない。

「私はあくまで、貴女達の持つ情報を受け取りに来たまでです」

 クリスタルは項垂れ、それを神父風の男は見下ろしていた。

 晶はリアナイザを握ったまま、この二人を交互に見比べ、不安に顔を曇らすしかない。

「……ですがまぁ、もう一度くらいはチャンスをあげましょう。ちょうどシンからも、使っ

てやれと預かっている物がありますし」

 遠くにプールを楽しむ人々の声と、水音が聞こえた。

 たっぷりと彼女達を見つめ、されど彼は、ゴソゴソとやがて自身の懐を探り始める。

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