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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-10.Gaps/君が私を許さぬのなら
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10-(0) 晶の部屋

「何なの!? 一体何なのよあいつは!? どいつもこいつも、私の邪魔ばっかりして!」

 その夜、晶は自宅の部屋で拭い切れない苛立ちを露わにしていた。

 月明かりの中喚き散らし、握った枕をベッドの上に叩き付ける。

 据わった眼をした彼女の脳裏には、今日の放課後に起こった“理不尽”が繰り返し繰り返

し再生されていた。

 ……これまでのように、部長じぶんに従わぬ部員らを“教育”する。

 自分にはその資格があると思った。責任があると思った。だから彼女がこのリアナイザか

ら現れた時、迷わず自分は願ったのだ。

「大体、何で貴女に通用する人間がいる訳? 話が違うじゃない!」

 故に彼女の苛立ちはややあって、これでもう何度目か、先程から傍らに控えている蒼白く

輝く鎧の女騎士に向けられる。

「そう言われてもな……。あの時も言ったろう。私も混乱していたんだ。しかし──」

 この鎧騎士──クリスタル・アウターは最初、そんな癇癪を起こす召喚主を何処か距離を

置くようにして眺め、そしてあくまで冷静に声色を落とすとそっと口元に手を当てる。

 晶はむっとしたその表情かおをこちらに向け、覗き込んできた。

 まさかとは思うんだが……。クリスタルはそう一度予防線を引きながら、言う。

「あれは、守護騎士ヴァンガードかもしれない」

「ヴァン……ガード?」

「アキラも聞いた事はないか? ここ最近、飛鳥崎に現れる怪人を片っ端から倒して回って

いるという人物の噂を」

「……それが、あの駆けつけてきた子だというの?」

 水晶のように光沢を放っているフルフェイスの兜。

 クリスタルは、その隙間から辛うじて見える紅い両目の光を湛えていた。兜の後頭部、後

ろ髪に相当する一房の金髪をふぁさりと揺らし、戸惑う晶に言葉なき首肯を返す。

 自分の手で彼女を召喚した時から、いわゆる常識など放り投げたつもりだったが……どう

やら世の中の不思議というのは思った以上に深いらしい。

 まさか、その正体が学園うちの生徒だったとは。世間は狭いというか、何とも運が悪いという

か。

「……とにかく、明日は学園を休むんだ。敵は私達を必死になって探している筈。策もなく

出向いては今日と同じ轍を踏む」

 だから次の瞬間、クリスタルの発した言葉に晶は思わず眉を顰めた。

 逃げだと直感したおもったからだ。正しいのは自分なのに、被害を被ったのは自分なのに、何故そ

守護騎士ヴァンガードとやらに怯えなければならないのか。

「駄目よ! 大会だってそう遠くはないのよ? 部は、練習はどうするのよ!?」

「どのみち学園は騒ぎになっているぞ? いきなりの事とはいえ交戦してしまったんだ。大

人達が何もしない訳がない。そもそも、事件だという理由で部活自体、休止させられる可能

性だってある」

「それはっ……! それは、貴女があいつに一方的にやられたからでしょう? 何とかしな

さいよ。それでも願いを叶える怪人なの?」

「……無茶をいうな。そもそもにアキラ、お前の願いに合わせて私はこの姿形と能力を得た

んだぞ? 注いだリソースが違う。……正直言って、あれには勝てる気がしない」

 くわっとその不機嫌に拍車が掛かり、噛み付く晶。

 だが当のクリスタルはあくまで冷静で、自身の持つ力について客観的だった。

 睨み付けて眉間に皺が寄る晶。しかし彼女にとってはそんな言葉などただの言い訳で、怠

慢でしかなかった。

 その仰々しい姿は何の為?

 不満げに苛立つ彼女だったが、そんな直情とそこから湧く契約ねがいの独善ぶりを、対するクリ

スタルが内心淡々と見透かしていた事などはつゆも知らない。

「ここは一度“彼ら”に知らせるべきだろう。その上で助力を仰ぐ。いいか、アキラ? 私

がいなければ、お前の望みは叶わないんだ」

「……。分かってるわよ……」

 最後は一つの案と、滔々とした説得に押し負け、渋々ながらも頷くしかなかった。

 自分の望み。そのフレーズを唇を結んだ口の中で、抑え宥めるようにしながら反復する。

「……はぁ」

 深く嘆息を吐き出し、晶はゆらりと部屋の中を見た。

 今日という日の終わり。月明かりが静かに照らす自室の明暗。クリスタルもまた、自身の

依り代たるリアナイザ──改造リアナイザを片手にしたままの彼女に倣い、じっと黙してこ

の部屋の中を眺めている。


 壁際の戸棚。

 そこには彼女と同じ、蒼白い輝きを放つ結晶片が、幾つも収められていたのだった。

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