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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-9.Gaps/潔癖症の怪物
65/526

9-(4) 結晶事件(前編)

「じゅ、十三」

「ダウト!」

 それはその日の放課後。ホームルームも済み、解放感に包まれていた睦月達のクラス教室

で起こった。

 何時ものようにクラスメート達は帰宅し、部活に向かい、或いは未だだるだると教室に残

って雑談やゲームなどに興じている。

 睦月もそうだった。海沙、皆人に國子、他何名かのクラスメート達と机を囲んでトランプ

をしていた最中、はたと数名の女子生徒が教室の扉を開け放ったのである。

 手に札を握ったまま、場の一同が何の気なしに彼女らを見る。

 どうやら別のクラスの女子達らしかった。何だろうと眺めていると、彼女らはきょろきょ

ろと室内を見渡し、そしてこちらを──海沙を認めたかと思うと近付いて来る。

「青野さん。ちょっといい?」

「? はい。何でしょう?」

「私達ソラりん──天ヶ洲さんを捜してるんだけど、何処に行ったか知らない? 親友でク

ラスメートなら心当たりがあると思って」

「ソラちゃんを……? 何処にって何も、部活に行った筈ですけど……」

「あの。宙、また何かやらかしたんですか?」

「うーん……」

「やらかしたっていうか、何というか……」

 きょとんした海沙に続き睦月が問い、この女子生徒達は困った表情かおをしていた。

 一同は互いに顔を見合わせる。海沙の言う通り、宙がホームルーム後部活に向かった姿は

皆が確かに見ている。

「私達、ソラと同じ水泳部員なんだけど、あの子まだ来てないんだ。多分何処かで道草を食

ってるんだと思うんだけど、急ぎの用で……」

「部員か。なら水泳部のグループチャットなどがあるだろう? 呼び掛けてはみたか?」

「は、はい」

「一応最初に『ちょっとTAヤってから行く』って返事は来たんですけど、それから発言が

なくて。電話しても全然出ないんです」

「それに、あまり部のグルチャは使わない方がいいから……」

「? それってどういう……」

 あくまで平静とした皆人の助言に、彼女達水泳部員らは一度はコクと小さく頷いた。

 しかしそれだけである。曰く連絡は途絶え、更にそんな含んだ呟きが漏れる。睦月が小首

を傾げて訊ねると、彼女達は互いに顔を見合わせ少々躊躇っていたようだが、一方で誰かに

相談したかったようでぽつりぽつりとその口を開き始めたのだった。

「最近、うちの部がおかしいんです。皆、急に真面目になって……」

「? それってむしろいい事なんじゃ?」

「その原因がよく分からないからおかしいんですよ。何ていうか、誰も部長に逆らえなくな

って来てて。私達みたいな、中等部からの繰り上がり組は──競技とかそういうのをあまり

熱心にやってこなかった子達は、どんどん居辛くなってしまって……」

 曰く、そんな部内の急変に、彼女達は一抹の不気味さを拭えないのだという。

 スタンスの違い。水泳一筋ではなく、恋にお洒落に、色々な青春を楽しみたい──。

 最初の内は睦月達も、話半分で聞いていた。本人達も途中ごちていたように、それは進級

した事で部というものの位置付けが変わったためかもしれないからだ。

「……それで、ソラもそんな“ゆるい”方の子なんですけど、まだプールに来てなくて」

「今部長がカンカンなんですよ。だから一刻も早く捜し出して、機嫌を直さないと」

「うぅ。もう嫌だあ。何でこんなに睨まれなきゃいけないの……??」

『……』

 トランプをしていた手は、完全に止まっていた。

 睦月達は机の上に札の山を置いたままにし、そして片付けながら仕方ないと、互いに顔を

見合わせて立ち上がる。

「仕方ないな。睦月」

「うん。じゃあ僕達も捜してみるよ。何かあったら連絡して?」


「──ぶっ放せ! カノンと天ヶ洲を追い詰めろ!」

 VRの廃墟街フィールド。対戦開始直後から、藤崎達はその作戦を実行に移していた。

 陣形は三つ。藤崎の大型コンシェルが放つ大砲と、その周りで守りを固める盾持ち二人。

更に機動タイプの三人が入り組んだ街中に手分けして進入し、三方から宙の操作するMr.

カノンを追い詰める。

 轟。次々と、藤崎の砲撃がフィールドの家屋を破壊していた。

 宙はじっと廃墟の一角に隠れ、二丁拳銃を握り締めている。時折こちらにまで伝わってく

る振動が辺りにパラパラと小さな粉塵を舞わせる。

(なるほど。始めっからそういう狙いだった訳か……)

 狙いはカノンではなく、この遮蔽物の多いフィールドそのものだったのである。

 妙だとは思っていた。始めからこちらに選ばせず、何もない平原を舞台にしていれば銃撃

戦に持ち込めない筈なのに、藤崎達は敢えて自分にフィールドを選ばせた。その油断で開始

直後、カノンの早撃ちで自分達が全滅してしまう過去のパターンを回避したのだ。

 加えて、こうして虱潰しに逃げ場を無くしていけば、より確実に自分を包囲できる。後は

数の力で一気に叩くつもりだ。

 考えたじゃない。爆音響くフィールドの中で宙は尚も嗤っていた。

 そっと目を瞑る。砲撃と砲撃の間、そのタイムラグと破壊された方向の推移を、大よそつ

けて物陰から飛び出す。

「いたぞ、あそこだ!」

 そして程なくしてこちらを捉え、向かってくる機動タイプ三体の内一体。生身の人間同士

だからこそ、常時情報を伝達し合って柔軟に包囲網を形作る事ができる。

 自軍のCPUには──特段カスタマイズされた訳でもない数合わせの味方では、中々ああ

いう真似はできないだろう。故に始めから、あの五体は時間稼ぎの駒だ。プログラム通り自

分をフォローするように立ちはだかり、彼らと交戦して一体一体と散っていく。カノンはこ

まめに物陰に入り、近付いて来る彼らに銃撃を加えると、そこで出来た隙を最大限に活かし

ながら何度となく迫る包囲網を縫うように抜けていく。

「ぬりゃあ!」

「おっと……!」

 鉤爪の殴打がカノンの頬を掠め、しかし宙はこれを回避する。

 だがその近接を逆手に、ゼロ距離からの射撃を行おうとした直後、この機動タイプの個体

はこれまでに見せた事のなかった反応速度で両手甲をかざし、これを防ぎ切ったのである。

「チッ」

「っと! ……ふぅん。あんた達も“同期”使いこなせるようになったんだ?」

「ああ。やっと気付いたか。もうお前に一方的にやられるだけのプレイヤーじゃねぇぜ」

「みたいだね。でも、それであたしに勝てるとは限らないよ」

 手甲を前面に引っ下げて突撃してくるこのコンシェルとその主に、されど宙はまだ余裕を

もって応じていた。

 放つ銃撃が弾かれる。だがその彼の突進がこちらの間合いに入り、鉤爪が一閃されるその

タイミングを見計らって、カノンは跳んだ。彼の腕を手甲を踏み台にして高く跳び上がり、

廃屋の壁を蹴って更に部屋へ、そこから裏手へと流れるように移動したのだ。

「ふふ。これだからTAも止められないんだよね。このリアリティがさ……」

 彼らと同じく、いやずっと以前から見出し、身につけた“同期”でカノンと意識を一体化

させ、廃墟の路地を駆ける。

 公式にはこの同期の技は明言されていない。だが巷の知る人ぞ知るプレイヤーには今や常

識であり、上位プレイヤーとなるには必須の技術だとされている。

 しかし宙自身は、そういう御託云々にはあまり拘っていない。ただこの技術、ゲームが演

出してくれる強烈な臨場感を心から楽しんでいるだけだ。

 ただ画面に張り付いてボタンを弄るばかりのFPSとは訳が違う。よりリアルで、ハード

な刺激がそこにはある。

 宙は嗤っていた。カノンも鬚の下の口元に弧を描いていた。

 機動タイプ三体がそれぞれの方向から走って来る。宙はちらと周囲を、システム内のマッ

ピングを見、再び大きく跳躍した。

「逃げたぞ!」

「追──んぎゃあァァ!?」

 直後、宙を追うように放たれた藤崎の砲撃が、この三体らを爆風に巻き込んだのだ。

 中空を跳び、嗤いながら着地するカノンを遠隔で目視しながら藤崎は唖然とする。

 硝煙くすぶる大砲。

 まさか、こっちの追い込みを逆手に取って……?

「おい藤崎! 俺達を巻き込むな!」

「くっそ、ライフ大分削られたぞ。ちゃんと仕事しろ!」

「あ、ああ。分かってる。引き続き作戦を続けるぞ!」

 だがこの時、既に藤崎達のプランは崩れ始めていたのだ。

 宙は看破していた。自分に向かう射線上に、原則相手のコンシェル達は移動しない点を。

 先程のように同士討ちになってしまうからだ。砲撃の爆風と破壊で道を塞ぎ、動けなくな

ったそこを別方向からの三体が狙う。ならばその壁を、彼らの側へと誘導してやればよい。

 相変わらず砲撃はフィールドの遮蔽物を破壊し続けていた。

 正直、時間との勝負である。宙とカノンは残された廃墟街の中を走り、追って来る三体を

少しずつバラして誘き寄せ、各個撃破する事にした。彼らの動線をマップ上で把握、その向

きをぐるりと隠れながら迂回して横に入り、隙を突いて一体を蜂の巣にしたらまた物陰へと

隠れてヒットアンドアウェイ。

 一人、また一人と機動タイプのコンシェル達は減っていった。物陰から突然現れての奇襲

から狙撃まで、銃撃のプロフェッショナルたるMr.カノンなら何でもござれ。

「ぎゃあッ!!」

「拙いぞ、藤崎。横田もやられた!」

「前衛が……全滅した? くそっ、どれだけすばしっこいんだ!」

 三人目、機動タイプのコンシェルのライフが尽きてフィールドからアウトする。無数の光

の粒になって消えていくそれを見送り、カノンはまた踵を返して駆け出した。先に倒されて

応援サポートに回った仲間達にせっつかれ、藤崎は再度その大砲を大きく構える。

「だ、だが壁は確実に減ってるんだ。次の一撃でオブジェクトごと吹っ飛ばしてやる!」

 しかしそんな焦りと思考は、宙という熟練ゲーマーにはとうに看破されていた。

 藤崎が構えたその時、彼女もまた、既に狙撃ライフルを装備させたカノンで彼らに照準を

定めていたのである。

 大砲の引き金がひかれたその直後だった。真っ直ぐに飛んでいき、残りの廃墟街もろとも

カノンを消し飛ばす筈だった砲弾は、射出されたそのほぼ至近距離で撃ち抜かれ、藤崎と盾

役の残り二人を逆に爆風に巻き込んだのである。

『んぎゃぁァァァァーッ?!』

 目の前が真っ赤に、爆ぜる茜色になる。

 藤崎達はその時何をされたのかすぐには理解出来なかった。ただ爆風に揉まれ、盾や分厚

い装甲もあまり意味を成さずにそれぞれのライフがごりごりと削れていったのをシステム画

面の左上に見ただけである。

「……。う、ぁぁ……」

 はたして盾役の仲間二人はそのまま消滅。藤崎のコンシェル自身も、大砲や装甲などの主

だった装備はことごとく破壊判定を受け、その身が大型だった事が辛うじてライフをゼロ寸

前にまで押し留めていた。

 ざり、ざり。そうしてぐったり地面に転がっていると、やがて宙と同期したカノンがこち

らに歩いて来た。手には拳銃。向けられたその銃口はぴったりと藤崎の眉間に合わせられて

いる。

「残念だったね。これで、チェックメイト」


「──うあぁぁ……。また負けた……」

 VR空間も綺麗さっぱり消え去り、かくして対戦は終了して。

 そこには学園の校舎裏で、リアナイザを片手にがっくりと膝を折って項垂れる藤崎達の姿

があった。

 呵々。勝者たる宙は嗤いながら、それでも接戦を演じた相手を無碍にはしない。

「な~に、ナイスファイト。作戦は割と良かったよ? これであと倍人数がいたらあたしも

危なかったかなぁ?」

 それはもう、いや今回の時点で、数の暴力でしかないんですが……。

 ははは。藤崎達は苦笑いをしていた。負け越しなリベンジは果たせなかったが、それでも

こうしてゲーム仲間を続けているのは、彼女のこうしたさっぱりとした性格に起因する部分

が大きい。

「よく言うぜ。ま、俺達もまだまだ修行が足りないって事だな」

「つーか天ヶ洲。それ、水着だよな? 良かったのか? もしかして部活に行く途中じゃな

かったのかよ」

「うん? まぁそうなんだけど……。いいのいいの、気にしないで。大会が近いから基本的

にレギュラー優先だし、あたしらなんかは後回しだしねぇ」

 それに……。藤崎達にふと気付かれ、問われ、宙はフッと何か小さく自嘲わらうよう

にごちた。

「最近はどーにも、居心地悪いし」

「? 今なんて──」

「ああ、何でもないよ。ありがとね。久しぶりに楽しかった。今度もまた面白い作戦、立て

て来てよ」

 無茶振りするなぁ……。

 藤崎達は思わず苦笑わらっていた。宙はそうしてややあって彼らと別れ、軽く手を挙げて帰っ

ていくこの友人達を独り見送る。

「──ここに居たのね。天ヶ洲さん」

 ちょうど、そんな時だったのだ。

 まるで彼女が一人になるのを待っていたかのように、ざりっと背後から近付く者がいた。

 宙は半ば反射的に振り返る。そこには上下のジャージを着、深く深く眉間に皺を寄せたま

まこちらを睨んでいる女子生徒が一人。

「あ……。ぶ、部長。どうしたんです? こんな所で」

「貴女を捜していたのよ。プールに来ないからどうしたのかと思って来てみれば、遊んでい

たのね」

「え、いえ。まぁ。はは……。で、でも今回は藤崎達──向こうからヤろうぜって言ってき

た訳で……。別にサボろうというつもりでは……」

 部長。そう呼ばれた女子生徒は無言のまま一層眉間の皺を深くし、彼女を睨み付けた。

 うぅっ! 宙は繕った苦笑えみを強張らせ、たらたらと脂汗を流している。

「……知っているのよ。貴女は優れた運動能力を持っている。それだけの素質があれば、う

ちのレギュラーになる事だって不可能じゃない。……そうやってふいにする。貴女のような

部員が、チームとしての団結を乱すのよ」

 しかし既に、彼女の意識・怒りは別のベクトルへと向いていた。

 ぶつぶつ。そう呟き始め、声音は重低の説教へと変わろうとしている。宙は逃げ出したく

なったが、そうした所で事態が好転するでもない。ただしくじったなと頭の片隅に過ぎり、

とにかく彼女の機嫌が直るまでやり過ごす事ばかりを考える。

 するとどうだろう。次の瞬間、はたと彼女は懐から意外なものを──リアナイザを取り出

した。宙は小さく目を見開き、ちらと一瞬、肩の鞄にしまい直した自身のそれを一瞥する。

「ぶ、部長もTAやってたんですね。ちょっと意外だなぁ」

「……これは遊びではないわ。貴女の、その性根を叩き直す為の……力よ!」

 だから直後、宙は驚愕する事になる。

『──』

 デバイスを挿入され、ひかれたその引き金。

 そこから現れたのはVRではなく、間違いなく現実リアルに現れた──全身が青白く輝く彼女の

コンシェルだったのだから。

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