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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-8.Seven/家族達(かれら)の肖像
53/526

8-(0) 緊急事態(エマージェンシー)

「……な、何なんだ? あいつは……?」

 目の前で変身した肥満の大男は、見上げるほど巨大なアウターになっていた。

 巨大で分厚い顎。大樽のようなその身体。

 だが何よりも睦月達の視線を捉えて離さなかったのは、唾液をぼたぼたと垂らしながら開

かれた、その奥底すら見えぬ口である。顔面の半分以上を占めるそれは、ずらり上下に恐ろ

しく分厚く頑丈そうな歯を並べて自分達を“喰う”気満々でいた。

『全員今すぐ逃げろ! 作戦は中止だ!』

 この敵の出現──潜入に気付かれてしまった事態に、司令室コンソールで作戦の成否を待っていた皆

人らが叫ぶ。慌てて“同期”を解き、意識を倉庫群に戻した隊員の一人から

飛んできた報告に、一同の表情がにわかに緊張と焦燥で歪み始める。

『……やはり、H&D社あそこが敵の──』

『第二班と三班はすぐにポートランドへ! 睦月と國子達を回収する!』

 再び“同期”し、戻って来たこの隊員から撤退命令を聞く。

 勿論、これを受けて睦月達は慌てて逃げ出そうとした。まさかサーモグラフでもなく匂い

でこちらの存在がバレるとは予想もしていなかった。こうなった以上、最早ダズルや朧丸の

ステルス能力は意味を成さない。

「くっ……! こんな……」

「ど、同期を? しかし、それでは睦月さんが──」

 しかし巨漢のアウターはこの見えぬ睦月達しんにゅうしゃを逃がさなかった。

 次の瞬間、迫ってきたのは、その巨体には似合わぬ猛烈な速さの突進。

 視界一杯に大きく開かれた口と大顎が見えた。一瞬、体感時間がぐんとスローになる。

 轟。巨漢の大顎がそれまで睦月達の立っていた床に突き刺さった。吹き飛ばされて方々に

一同は転がり、負ったダメージで迷彩効果が解けてしまう。

「あっ、ぐぅ……!」

「……嘘だろ? 床に、穴が……」

「皆さん。無事……ですか?」

 舞い上がる大量の粉塵と煙。睦月達はボロボロになりながらも互いによろめき、立ち上が

り、仲間の無事を確認しようとする。

 起き上がったこの巨漢のアウターを中心に、硬いコンクリ敷きである筈の地面がざっくり

と抉られたように無くなっていた。

「ひー、ふー、みー……ホントだ。何時の間にやら団体さんのお出ましだ」

 そしてそんな様子を、もう一人の荒くれ風の男がステルスの解けた睦月達を視認し、フッ

と邪悪にほくそ笑みながら眺めている。

「……くっ」

 転がった地面に、ぐぐっと手をつく睦月。

 H&D社への潜入調査は、今まさに最大のピンチを迎えた。

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