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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-68.Rebellion/なら我々は、叩き潰そう
524/526

68-(5) 親株を捜せ

『ACTIVATED』

『CAUCASUS』

「こっちは睦月君がいる、大丈夫だ! 兵力を一部残して、他は各所の市民を救出・保護に

回れ!」

『了解!』

 睦月と黒斗、及びリアナイザ隊士の数小隊は、藤城邸を前に迫る“蚊人間”達の群れを相

手に防衛戦を展開していた。先に周辺を警備・巡回していた隊士らとも合流し、彼らを屋敷

の中に避難させて生身から同期を。少なくとも、この得体の知れない寄生型アウターと直接

相対するのは危険だった。“感染”者をこれ以上、特にチームの面々の中から増やす訳には

いかない。司令室コンソールの皆人の指示もあり、多くは睦月・黒斗の到着と入れ替えで市中へと散っ

てゆく。

『睦月、なるべく人体の部分を傷付けないように。今回の敵はこれまでとは違う。先ずは無

力化することに専念しろ。藤城邸の防御は牧野黒斗に任せる』

「うん!」

 初手、睦月が敢えて鹵獲特化の強化換装、コーカサス・フォームに変身していたのはその

為だった。屋敷に押し寄せる“蚊人間”達をスパイダー・コンシェルの粘着網で捕らえて身

動きを封じ、マンティス・コンシェルの逆手二刀流の刃で蟲の肉塊部分を次々に切除。必要

に応じてスタッグ・コンシェルの鋏型アームも併用し、緩慢な四方八方からの反撃も防御し

て処理する。

「……寄るな。成り損ないが」

 一方で藤城邸は、黒斗が自身の力場を屋敷全体を包むように展開してくれているため、殆

ど完璧に“蚊人間”達の侵入を許さない。操作能力の応用で、境界を潜ろうとする者を即座

に弾き出し、疑似的な結界としている。

「牧野さん……。佐原君……」

 屋敷内では淡雪が、扇弁護士や安斎医師と共に生身な方の隊士達に守られてじっと息を殺

していた。部屋の中からは表の彼らの姿は見えないが、それでも自分の為に戦ってくれてい

ることは判る。自身の記憶喪失とほぼ同時期に現れ出したという、感染性の電脳生命体達の

群れ。彼は、牧野さんはそれでも尚、私を守ろうとしてくれている……。あんなに酷い言葉

や態度をぶつけてしまったのに。

「う~ん、キリがないな……。一応蟲っぽいところを削ぎ落してやれば、大分大人しくはな

るみたいだけど」

『根治ではなく、対症療法みたいなものですからねえ。あまり騒動が長引くと、それも段々

厳しくなってしまいそうです』

 暫く無心で足止めと切除を繰り返してから、パワードスーツの面貌の下で睦月は言った。

EXリアナイザ内のパンドラも、あちこちで粘糸塗れで転がっている“蚊人間”もとい感染

させられた人々を見、どうしたものかと視界を揺らしている。忙しなく大量の計算式と数値

がスクロールされている。

「やっぱ、大元になった個体を倒さなきゃですかね?」

「と言っても、何処にいるのか分からんぞ?」

「そもそも、仮に倒せたとしても皆が治る保証はない。それこそ、ウィルス的なものだって

言うんなら……」

 防衛に残ってくれた側の隊士らも、同じく粘着弾やエネルギーワイヤー、蟲肉や余剰な器

官を切除するのに有効な斬撃武装を振るいつつぼやいた。実質の選択肢が限られているとは

いえ、対処法が決まったのなら繰り返すだけだ。それでも皆、このままではいずれジリ貧に

なるのは目に見えている。

『パンドラ。無力化した人から幾つか、サンプルデータを採取して送って? 時間は掛かる

でしょうけど、分析を進めれば治療ワクチンプログラムを組むことは出来る筈……』

『了解です。マスター、肉塊を』

「うん」

 通信越しに、香月ら研究部門がそんな指示を出してくる。相手がウィルス感染にも似た能

力を持っているのなら、コンシェルのプログラムとしてこれを無力化するものが作れるかも

しれないというのだ。促されて、守護騎士ヴァンガード姿の睦月が敵の攻勢を縫いながら、一度は転がし

た“蚊人間”の体表に残る蟲肉片を刃先で掬い上げる。

「黒斗さんは、親玉の正体に心当たりは?」

「いや。おそらくは海外組の一人か、手の者なのだろうが……そこまでは知らないな」

 そんな彼を横目に、黒斗は隊士達からの問いに答えていたが、その実内心は静かな焦りと

怪訝が多くを占めていた。現状対処が可能であるとしても、全体的に楽観視するのは危うい

だろうと考えていたからだ。

(少なくとも今回の一件、海外組の立案・指揮下にあることは間違いないだろう。首都での

クーデター然り、淡雪の記憶を奪って時間稼ぎひとじちにしたこと然り。どれもが明らかに“計算さ

れ過ぎ”ている)

 何よりこれだけの規模、強能力を把握して活用しているということは、海外組でも上位の

者が糸を引いている可能性が高い……。

『──睦月、パンドラ、聞こえる? こちら宙。それっぽい奴見つけたよ!』

 ちょうどそんな最中だった。ふと面々の通信に聞き慣れた明るい声、Mr.カノンに同期

して別働中の宙からの報せが入ってきた。ぴくんと、睦月達はそれぞれ一瞬動きを止めてそ

の言葉に耳を傾ける。

 海沙と宙、及び國子。ビブリオとMr.カノン、朧丸の同期したコンシェル三体は、街を

見下ろすとあるビルの屋上に居た。前者二人が長銃ライフルを構えつつ広域の索敵を行っている中で、

後者朧丸のステルス能力で全員がその姿を隠している状態だ。

『ビブリオの検知でも、地上の他の個体達より明らかに抜きん出ています。姿形も他の“蚊

人間”の特徴と酷似してますし、他の一般個体もどうやら怖がって隠れてるみたいで……』

 海沙が付け加え言う。Mr.カノンのスコープに捉えた件の個体は、こちらに背を向けて

じっと、別のビルの屋上から眼下を見下ろしていた。今のところはまだ気付かれていない。

朧丸のステルス能力と遠距離からの監視までは想定に無いのかもしれない。

『位置情報をそっちに送るよ。皆っち、みんなに共有お願い!』

『了解した。だがくれぐれも用心しろ。相手がどんな手を隠しているかも分からん』

 宙達から司令室コンソール経由で。件の親玉個体の位置が、視界のホログラム地図上に反映されて点

滅し始める。インカムと連動した耳掛け式の小型装置。睦月達が普段から支給され、使用し

ている情報共有のツールだ。黒斗も出撃前に、同じ物を受け取っている。

「……把握した。守護騎士ヴァンガード、ここは私達に任せて叩きに行け! 大元を倒せば、感染させら

れた者達が助かるかもしれない!」

「! はい、お願いします!」

 視界の片側に同じ地図を映し、黒斗は叫んだ。位置さえ分かれば、彼の能力で一気に転送

してもらうことが可能だ。通信越しの皆人達も、一瞬驚いた風だが同意した。根治になるか

どうかは微妙でも、一度確かめる必要はある。

 気を付けろ。皆人ともに改めて釘を刺されながら、睦月は地図にあった方向を見上げた。黒斗

が力場をスライドさせ、彼を刹那転送の要領で瞬間移動テレポートさせる。


「──そっちはどうだ? おおそうか、見つけたか」

 件の屋上、地上の“蚊人間”達の完全体のような姿をしたアウターが、デバイスを片手に

誰かと話していた。眼下では混乱を収めようと、各所で隊士達や当局の警官などが奔走して

いる。その集中と分散、人員の流れというものは、こうして高所に陣取って観察していれば

良く分かるものだ。

「よし。じゃあ引き続き、手筈通りに頼まあ」

 蚊を彷彿とさせる錐状の口から、そう紡がれたのは如何にも柄の悪そうな声色だった。健

臣とガネットが以前、首都東京で相対し、焼き殺した筈のそれと酷似している。

「──」

 そこへ次の瞬間、黒斗の転送によってコーカサス・フォーム状態の睦月が現れた。

 ヴォンッ! と、僅かに鈍い振動音だけを残し、背後中空から一対の逆手持ち刃を振り下

ろし──。

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