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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-65.Because/選別への前奏曲(プレリュード)
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65-(2) 極細のアウター

 異変の正体、それはセントラルヤード管理棟屋上への敵襲だった。即ち各々のコンシェル

に同期したままの冴島達の肉体ほんたい、及び真弥ら今宵の作戦に協力していた政府側の面々に迫る

危機である。

「ひ、怯むな! 隊長達を守れ!」

「大臣、お嬢様! 我々の後ろへ!」

「隊長達の意識が戻ってくるまで耐えるんだ! 向こうも異変には気付いた筈……!」

「畜生! 俺達やガネットちゃんもいるってのに、どうして気付けなかった!? こいつは

一体何なんだよ?!」

 セントラルヤードに残っていた面々を襲ったのは、女王蜂と表現すればいいのだろうか?

蜂を彷彿とさせる、女性型のアウターだった。

 厄介だったのは、彼女の“自らを極小に分解”する能力。最初姿も気配も感じ取れなかっ

た相手が、突如として無数の黒い粒子の集合体として現れ、面々に襲い掛かってきたのだ。

 本来の姿に合体し直し、高い機動力のまま毒針と思しき尻や両手人差し指の爪を振るう。

冴島達の身体や真弥、健臣及び梅津らの警護に残っていた隊士、政府側エージェントらが慌

てて応戦するものの、こちら側の攻撃は縦横無尽に飛び回る速さと再分解によってことごと

くかわされ、逆に隊列へ割り込むように反撃されてしまう。

「っ……! すまない、遅れた!」

「向こうが空っぽだと思ったら、こっちだった訳ね。やるじゃない……!」

「陣形を組み直します! 両大臣や真弥さん達を囲むように! 相手は実質私達よりも数の

利があります!」

『了解!』

 肉体ほんたいが危険に晒されたことで、程なくして冴島達も戻ってきた──同期状態を一旦解除し、

コンシェルを呼び戻さざるを得なかった。司令室コンソールからこの強襲を目の当たりにした皆人も、

流石にギリッと歯噛みする表情を隠せない。

『……限りなく細かなパーツに分離することで、こちらの探知を掻い潜ったのか。盲点だっ

たな』

「感心してる場合じゃねえぞ。まあそもそもの相手が、ある意味能力次第なんでもありっちゃあありなん

だけどよ」

 蜂型の刺客、差し詰めワスプ・アウターといったところか。

 通信の向こう、現場から梅津がそう周囲に警戒の目を怠らぬまま突っ込んでくるが、事態

そのものはかなり手厳しいと言ってしまっていい。

 やろうと思えば、街のほぼ全域をカバーできるこちらの走査網を、その実割と力技で抜け

てくる能力持ちの個体。適宜細かな粒子の群れとなって攪乱し、立ち回り次第では人数の差

すらも克服可能な厄介さ。

『お嬢様達に……近付くな!』

 真弥らを守ろうと、ガネットが浄化の炎撃を放つ。だが横薙ぎの軍刀本体も弧を描くその

炎も、直前で粒子化されてしまえば避けられてしまう。当たったとしても点であり、有効的

なダメージにはならない。

 何より彼女自身、他の面々と同様に召喚主まやを守らなければならないため、勢いのまま追え

ないという点も大きかった。状況が防戦一方な以上、突出のタイミングを誤れば、皆が一気

に全滅というシナリオも大いにあり得る。

『睦月、今何処だ? 急いでセントラルヤードに戻って来てくれ!』

『今向かってるよ! さっきから皆の悲鳴が聞こえてる!』

 通信越しに襲撃の報を聞き、別行動中だった守護騎士ヴァンガード姿の睦月及びパンドラも、猛スピー

ドで本陣へのみちを引き返していた。背を向けて逃げるボックスを倒した、その感傷的な余韻

に浸る暇もない。纏っていたホーク・コンシェルの飛行能力を全開にして、睦月は夜の飛鳥

崎上空を最短距離で突っ切ってゆく。

(こっちは……睦月が戻るまでの持久戦、か)

 現地の映像を睨みながら、皆人は考える。背後で司令室コンソールの職員達が、香月や萬波らが、忙

しなく連絡や制御卓の操作をしている。

 ……奇襲せんてを取られたことで、生身の本体、隊士達自身も少なからず負傷してしまった。こ

ちらが策を講じていたつもりが、相手の策略に嵌まっていたのだ。黒斗や自分達の追跡を織

り込んだ上で、この個体へいを伏せていたとしか考えられない。

(いや。真弥嬢はともかく、そもそも何故此処に小松・梅津両大臣がいると分かった? 襲

ってみれば偶然に、か? セントラルヤードに、飛鳥崎に居ると知っていた……?)

 皆人の内心の憂心。

 だが、現場の面々が必死に時間を稼いでくれていたお陰で、程なくして睦月が間に合う。

 轟と風を切る猛スピードで、白い守護騎士ヴァンガード姿の彼がこちらの状況を捕捉すると、そのまま

大きく叫びながら空中での強化換装に移ったのだった。

「!? 睦月!」「むー君!」

『マスター!』

「ああ。一気に畳みかける! 調整任せたよ!」

『LIZARD』『CROCODILE』『TURTLE』

『SNAKE』『BAT』『FROG』『CHAMELEON』

『TRACE』

『ACTIVATED』

「変身ッ!」

『DRAGOON』

 見上げる仲間達、或いは本来の姿に合体中だったワスプ。

 空中で撃ち出した、紫の光球達に包まれた睦月は、直後ドラグーンフォームに姿を変えて

こちらへと落下し始めた。「おぉぉぉぉぉぉぉッ!!」大きく振り被った大剣、その刀身に

込められる濃紫の重力エネルギー。着地のタイミングと同時、或いは気持ち早めに振り下ろ

されたそれは、瞬く間に周囲を巻き込んで発動。地面をヒビ割らす重力圧となってワスプの

動きを封じたのである。

「グエッ──?!」

「睦月君!」「サンキュー、助かった!」

『まだ油断はできませんよ。というか、急いでそいつから離れてください! ドラグーンの

重力波が皆さんに当たらないよう、出力を絞っているんですから!』

 文字通りの豪快な合流。防戦一方で苦しめられていた冴島や仁、國子、真弥など屋上の仲

間達は安堵の表情を浮かべたが、当の睦月もパンドラも警戒は解いていない。

 各自のコンシェルに抱きかかえられて、或いは掴まって。面々は一旦ワスプから大きく距

離を取り直した。真弥や健臣、梅津などは、ガネットと残る隊士やエージェント達の操るコ

ンシェルによって回収。同じく救助される。

「グ、ァ……アァァァァァァァーッ!!」

『!?』

 しかしである。そのほぼ直後のこと、ワスプは苦しみながらも再び自身の身体を無数の粒

子へ分離。ドラグーンフォームの重力圧から逃れると、一目散に夜闇の彼方まで消えてしま

ったのだった。

「あっ!? くそっ、逃げられた!」

「なるほど……。また細かくなることで、一個当たりに掛かる圧力を軽減したのか……」

 慌てて相手の後を追おうとする、仲間達の少なからず。ただ防戦中のダメージ、一旦距離

を取り直したばかりなのも手伝って、結局その逃走を止めることはできなかった。しんと再

び静まり返る、セントラルヤードの管理棟屋上。夜闇と僅かばかりの外灯が照らしている変

化は、先程の睦月の着地で大きくひび割れた石畳ぐらいであった。

「……」

 暫く面々は、半ばやり逃げされたままの結果に呆然と立ち尽くしていた。そんな仲間達の

中に交じって、睦月もドラグーンフォームからの変身解除──生身の姿に戻ってカチャリと

EXリアナイザを保持。静かに肩を上下させながら、深く長い息を吐き漏らす。

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