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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-63.Parents/生みの親に思うこと
488/526

63-(7) 封殺布陣

「ひっ──?!」

「で、出たあああ~っ!? 電脳生命体ぃぃぃ~!」

「逃げろォォーッ!!」

 突如として現れた怪人、二体の越境種アウターに、イベント会場は瞬く間にパニックへと陥った。

あちこちで鳴り響く悲鳴、我先にと敷地外へ逃げ出そうとする人々の群れ。睦月達もその逆

方向な人波の圧に押し戻され、目指していた円形ステージから遠ざけられてしまう。当のキャ

ロライン、社の幹部メンバーや来賓達も、警備要員らに囲まれるように守られながら退避。

これでは当初の目的も果たせない。

「うわわっ!?」

「くそっ、周りの奴らが邪魔……!」

「どうする、皆人!? このままじゃあ……!」

『ああ、解ってる。彼らを巻き込む訳にはいかない。一旦退くぞ! 最寄りの緩衝地帯に誘

導する!』

 睦月達は一旦、退却せざるを得なかった。皆人ら司令室コンソールから送られてくる地図データ上の

ルートに従い、会場から少し離れた区画に広がる工場跡へと移動。追っ手の二体を迎え撃つ

態勢を取る。

「よし、ここなら人気も無い……。いくよ、パンドラ!」

『はいっ! マスター!』

「さて……。随分と都合良く現れたものだけど、これは偶然かな? 支社長と関係があるの

かどうか」

「偶々な訳ないじゃないですか。やっぱり奴ら、会社ぐるみでクロなんですよ。どう考えて

も、あたし達がやって来るのを見越して待ってた感じでしたよ?」

「ま、その辺も全部、こいつらをぶちのめせば判るこった。さっさと片付けて、キャロライ

ン達を追うぞ!」

「うんっ!」「そう上手く……ゆくと良いですが」

 睦月達六人と隊士達。数の上では、追っ手二体に対して優勢ではあった。睦月がパンドラ

を装填したEXリアナイザを操作する。他の仲間達も、それぞれの相棒コンシェルを調律リアナイザを

通じて召喚する。

『TRACE』『READY』

「変身!」

『OPERATE THE PANDORA』

「来い、ジークフリート!」

「総員、横列に展開! 睦月さんを援護します!」

 背後には生身の海沙達が立っている──例に漏れず睦月は、皆を守る為に、半ば無意識で

即座に先行していた。ゆらり、ゆらりと何処か様子をしつつ追って来ていた二体のアウター

に初撃を加えるべく、スラッシュモードに指定した武装で迫らんとする。

「──」

 だがそんな突出が、結果的には睦月達に大きな痛手を与えることになる。即ち睦月とそれ

以外の仲間達との距離が開いた状態を、追っ手の内の一体、立体カートゥンのアウターに突

かれてしまったのだ。

 ニヤリと口元に笑みを浮かべ、スッと後方の冴島以下リアナイザ隊に向け、かざした掌。

 するとどうだろう。次の瞬間ボックス型の結界が彼らを包み、更にその姿をぐちゃぐちゃに崩さ

れた“戯画”調──まるでこのアウターの姿形のようなでたらめさに変えられてしまったの

である。

『ッ……!?』「はあっ!?」

 大きく違うのは、この立体カートゥンとは異なり、一旦変えられてしまうとまともに立つ

ことすら困難になること。突然の出来事で大きくバランスを崩し、また調律リアナイザごと

弄られてしまったがために、それぞれのコンシェル達ももろに影響を受け無力化。大きくノ

イズを来たして消滅しかかっていた。更にそこへもう一体の追っ手、傍らのDJ風アウター

が、全身の機材パーツを激しく掻き鳴らし絶叫。大音量による音波攻撃を撃ち込んでくる。

『んぎゃああああああああッ!!』

「ぐぅっ……!? あぐっ……!!」

「皆!」

『だっ、大丈夫ですかっ!?』

「ぐお……あ……。何とか、な……」「み、耳が痛い……」

「むー君達こそ大丈夫? 今、物凄い距離吹き飛ばされてきたけど……?」

「い、今俺達、何か変な姿になってたよな?」

「ああ……。何か、下手糞な子供の絵みたいにぺらぺらにされてきた気がするんだが……。

すぐ爆音に巻き込まれて、ぶっ飛ばされて……」

 睦月もDJ風のアウターから至近距離で音波攻撃を貰い、ゴロゴロと仲間達の下まで転が

されてかぶりを。“戯画”風に変えられてしまった仲間達だったが、音波攻撃を受けた後には元

の姿に戻っていた。ただダメージ自体はしっかり貰ってしまったようで、めいめいの身体が

未だ、ビリビリと痺れている感覚がある。

「……先程の効果はダメージ受けるか、時間切れなどになれば解除されるということでしょ

うか? それにしても」

『ええ。こいつは──厄介だ』

 調律リアナイザを握り直し、復帰したジークフリートと共にふらふらと立ち上がる冴島。

通信越しの皆人も、極めて険しい面持ちをしている。

 事実その後の第二派・三派以降の攻防も、睦月達はこの二体の“合成”アウターに終始押

されっ放しだった。反撃しようと地面を蹴っても、立体カートゥンの“戯画”化能力ですぐ

無力化され、コンシェル達も掻き消える。ならば射撃で、散開してと立ち回りを変えてみて

も、DJ風アウターの音撃の射程範囲に捉えられる。或いは密集を避けようとする動き、そ

れ自体をボックス型の結界に閉じ込められて止められ、続く音撃のコンボで盛大に吹き飛ばされる。

「だ、駄目だ……! どうやっても、奴らの連携に掛かっちまう!」

「能力自体は、割とふざけた部類なのに……」

「或いは、それすら戦略の内なのかもしれません。事実、油断を誘って私達を圧倒している

訳ですから」

 隊士達の吐き出す恨み節、悔しさ。それらを右から左に流しながら、國子は朧丸と共に何

度目かの立ち上がりの後に構えた。淡々とはしているが、静かに肩で息をしている。同じく

般若面の侍たる朧丸も、全身のあちこちにダメージによるほつれが目立つ。

「だったら、何とかして片方を潰す! こっちだって何時までも時間は掛けてらんねえ!」

 おおおおおッ! すると今度は、仁がグレートデュークの背後、死角に隠れるようにして

一人アウター達へと突っ込み始めた。「大江君!」『止せ、逸るな!』睦月や皆人が叫んだ

が、もう遅い。立体カートゥンが迎え撃とうとかざしてくる掌の動きを、同期越しに見て、

仁はグレートデュークの背に乗りつつ跳躍していた。ちょうどボックス型の結界を踏み台にするよ

うな格好だ。

 狙いはこの立体カートゥンの方、ではなく……DJ風の個体。これまでの攻防で実際にダ

メージを伴う攻撃を担当していたのは、こちら側のアウターだと認識していたからだ。

「死ねぇぇぇッ!」

『──』

 だが直後仁の、グレートデュークの攻撃が緩む。

 相方の結界を利用され、中空から襲い掛かられたDJ風のアウターは、次の瞬間己の姿を

海沙のそれに変化。反射的に動揺、打ち込む突撃槍ランスの手が止まりかけた隙を突いて、逆に近

距離からの音波攻撃でカウンターを放ってきたのだった。

「ぐぎゃあッ!?」

「大江君!」「大江っ!」

 相棒グレートデュークが庇いながら吹き飛ばされ、転がったとはいえ、同期の反動もあって決して無傷では

ない仁。睦月ら仲間達は慌てて駆け寄ったが、寧ろ当の本人は怒りの炎を瞳に灯していた。

 よりによって、俺の慕っているだいじな人を──! 面々、ひいては海沙当人に心配されるのもそ

こそこに、彼は全身に鞭を打って再び立ち上がる。

「あったま来た……! 海沙、あたし達もやるよ! 國っち、サポートお願い!」

「うん!」「了解した」

 ならばと、今度は宙のMr.カノンと海沙のビブリオ・ノーリッジ、國子の朧丸三人によ

る連携攻撃。前者二人が、大きくアウター達の周りをぐるぐる回るように駆けて攪乱しなが

ら、朧丸が途中でその輪に合流。接触したことでステルス能力の影響を受け、姿の消えた宙

とカノン、続き海沙とビブリオが放り投げられた。その不規則・不可視な軌道上から、この

敵らを撃ち抜こうと試みる。

 だが……相手は腐ってもAI。彼女らのやろうとしていることを即座に理解すると、次の

瞬間にはいとも容易くこれを破ってみせた。要するに、攻撃されることは判っているのだか

ら、防御は発砲音が聞こえたと同時で良い──立体カートゥンがDJ風の傍に寄り直すと、

ボックス型結界を自分達を包むように展開。怒涛の二丁連射と魔法陣のエネルギー砲を耐え切り、

ステルスの影響が消えた瞬間を見据えて音撃のお返しをお見舞いする。

「きゃあっ!?」

「ぐぅ……っ!!」

「海沙さん、天ヶ洲!」

「何だよ。あの結界、防御にも使えるのか?」

「外にも中にも、頑丈に出来ているタイプみたいですね……」

「面倒な……」

 被弾しながらも主を抱き止め、着地・飛び退くカノンとビブリオ。

 仁や同隊メンバーがずるいと言わんばかりに文句を垂れる中、睦月ら残る隊士達も更なる

矢継ぎ早な攻勢に転じていた。EXリアナイザの基本武装を射撃モードに切り替え、更にマ

ウス・コンシェルの電光石火の加速能力を付与。冴島及びジークフリートも、雷の流動化で

これに加わり、とにかく速さでこちらが狙い撃ちされないように立ち回る。

「──ほう?」「──ふむ?」

 しかし攻撃されると判っているのなら、これも同じ。ただ確実に相手を無力化出来るタイ

ミングが少なくなるだけのことだ。立体カートゥンのボックス型結界が、DJ風の相棒を守り、互

いに反撃の一発を撃つべき隙を窺っている。掌を動かし、ミキサーなどの全身の機材パーツ

に指先を掛け、一転持久戦の様相になる。

「っ……!」「らあッ!」

 ただこれを突き崩したのは、結果的には睦月達の側ではなく、彼ら追っ手コンビだった。

冴島のジークフリートが撃ち込む雷剣や、他の隊士ら・コンシェルによる肉薄の一閃。それ

らを、二体は突如として“自分達に戯画化”能力を使うことで軟体化。ぐにゃぐにゃの身体

で不意を突いた回避をし、至近距離に迫った彼らをまたしても渾身の音波攻撃で吹き飛ばし

たのである。

『ぎゃあああーッ!!』

「こいつら……こんなことも……!?」

「密集は駄目です! 散って!」

「こ、攻撃の手を止めたら、またあいつのぐしゃぐしゃが──」

 そこからは再び反転。入れ替わり立ち代わりの陣形が崩れた隊士達に、立体カートゥンの

“戯画”化能力、続く音撃のコンボが猛威を振るい始めた。吹き飛ばされ、或いは“戯画”

化で碌に動けない状態のまま、面々が次々に限界。戦闘不能に陥っていく。

『……拙い。明らかにこいつらは、俺達対策だ』

 司令室コンソールから通信越しにこの一部始終を目撃・指揮していた皆人が、非常に険しくなった表

情でもって言う。自分達、対策チーム対策──守護騎士ヴァンガードや召喚されたコンシェルの能力を封

殺することに力点を置かれたアウター達が用意され、配置されている。待ち伏せされていた

のだ。

 隊士ひとは急所だ。コンシェルで防御する、間合いをすっ飛ばしての干渉。何より力押しより

も、搦め手の扱い方と重要性を、この作戦主は熟知している……。

『このままでは──敗ける』

 しかしである。事態は更に悪化の報せを寄越してきた。完全に陣形は崩れてボロボロに、

睦月以下守護騎士ヴァンガードと残りの召喚されたコンシェル達も、既に大きく消耗して絶体絶命のピン

チを迎えていた。そんな中でもう一体、眼を赤く光らせた怪人態の黒斗ことユートピア・ア

ウターが、鬼気迫る様子で着地。立体カートゥンとDJ風の二体に加勢しに来たのである。

「ふえっ!?」

「黒斗さん……どうして……?」

『ままま、待ってください! 私達は、貴方とまで敵対する気はありませんよ!?』

 相手が相手だけに、余計の事慌てふためく睦月達。だが当の黒斗ことユートピアは鬼気迫

るまま、問答無用と言った様子で、この戦いへ割って入るかのようにその杖術で猛撃を加え

て始める。

『ぐぁぁぁぁーッ!!』

 避けようもなく、止めようもなく。

 刹那激しい火花が、白亜のパワードスーツやコンシェル達の体表から飛び散った。

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