63-(5) 終焉(おわ)る日々
ポートランド西第四倉庫からの退却と、スロースの死後、シンは私達残る六人にある命令
を下した。内容はいわゆるメッセンジャー。飛鳥崎市中の全個体の下へと赴き、その全てに
召集を掛けてくるというもの。
『ああ。従わなければ、その場で“始末”しちゃって良いよ? その為の、君達に与えてお
いた権限でもあるからね』
私以外の五人も、おそらく勘付いてはいた筈だ。グリードが命令を受けた際、もし召集を
拒むような者がいた場合、どうするのか? そう確認を兼ねて問われ、彼があっけらかんと
言い切ったあの瞬間に。
……おそらくは、市中に個体の“数”をばらまく段階から、その中で“質”の高い個体を
厳選する段階に入ったのだろう。
スロースが実質自ら命を絶ったからか? 小松真弥やネクロを失ったからか? いよいよ
自分達“七席”の立場も、危うくなってきたようだ。いや、元より彼らにとっては、私達な
ど目的達成の為の道具でしかない。駒でしかない。
私達は所詮、偽物──なのだから。
「──只今戻りました」
その日の召集タスクを済ませて帰宅した頃、辺りはすっかり暗くなっていた。季節が移る
につれて、日没時間もどんどん早まってきている。そんな時の流れと現状を重ねてか、私は
ぼんやりと遠ざけていた思考を繰り返した。淡雪にも、そろそろ別れを告げなければいけな
くなるだろう。きっと、その瞬間が来る。
「……?」
いつものように、預かっていた合鍵で玄関の扉を開け、ぽつりと帰宅の旨を。
だがこの日は何故か、一目散に駆けてくる彼女の足音がしなかった。ぱたぱたと、私の名
を呼んで微笑う姿が一向に現れなかった。
よく見れば、家の中の照明も点いていない。真っ暗だ。人の気配も感じられない。
私は眉間に皺を寄せて怪しんだ。妙だ。確か今日淡雪に、会食などの外出予定は無い筈。
急にそういった誘いがあっても、必ず私に連絡を寄越してくれていた。特に部活動にも入っ
ていない彼女が、ここまで帰りが遅いことなど……。
(まさか)
最悪の想定が脳裏に過ぎる。焦りや怒り、激しいエネルギーの揺らぎが自身の中で湧き上
がってくるのを、私は感じていた。私ではない何かが、私を短絡的・非合理的に衝き動かそ
うとしてくる。
一体誰だ? 淡雪は……何処だ?
「っ!?」
事実、そんな悪い予測は当たらずと言えども遠からずだったのだ。
玄関口に立ち尽くしていた私の下へ、刹那。暗がりの向こう、通路奥のリビングに備え付
けられている固定電話の音が、突如として鳴り響き──。




