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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-63.Parents/生みの親に思うこと
483/526

63-(2) 楔の真相

「──牧野黒斗に会っただと!?」

 時を前後して、裏町のコスプレショップ『オータムリーフ』の二階。

 秋葉夫妻の住居部分である和室の一つを、獅子騎士トリニティの拠点として間借りしている筧は、奪

還戦からの帰還後、そう思わず驚きの声を漏らした。同じく一緒にこの部屋へと戻って来た

二見と由香に、そもそも何故あの現場にタイミング良く辿り着けたのか? その真相につい

て聞かされたのである。

「ええ。突然俺達の前にワープしてきたので、多分例の倉庫に向かってる途中だったんだと

思います。偶々姿を見つけて、声を掛けに来たって感じでした」

「筧さんがブリッツ達を持って出て行ってしまった後、私達はネットの目撃情報を頼りに、

行き先を探し回っていたんですけど……。その途中で急に、ポンと現れて。『筧兵悟なら、

守護騎士ヴァンガード達と、ポートランド西第四倉庫にいる』って言われて……」

 曰く、正直半信半疑なままながらも現地へ急ぎ、身を潜めて様子を窺っていた以降の経過

については、筧も知っての通りとのこと。思いもよらぬ方向から出てきた情報の出所、点と

線が繋がりそうで繋がり切らない感じに、筧は思わず眉間に皺を寄せていた。一体どういう

ことだ? と、急ピッチで思考を回転させる。

「お前らを見つけたのに、別に攻撃するでもなく、寧ろ取引の場所を教えてきたのか……?

佐原達に庇われてこそいたが、あいつは“蝕卓ファミリー”側の幹部だろうに」

「ええ……」

「それは、そうなんッスけど……」

 話してくれた二見・由香自身も困惑しているようで、その何故には案の定答えられる材料

を持ち合わせてはいなかった。筧はなるべく私情は排除しつつ、事実ベースでこれらが一体

何を指し示すのかを考える。

 つまり奴は、二人があの場に来るであろうことを事前に把握していたことになる。自分や

佐原達と相対している時、二人を倉庫内に転送してみせた行動自体、そうなると“偶然”で

はなく“故意”だったと考えられる。

(分からんな。それで一体、奴に何のメリットが……?)

 加えてそもそも奴個人の独断だったのか、蝕卓ファミリーの指示があったのかも定かではない。実際

自分は二人を連れて来ず、リアナイザとカード達のみを持って来た訳だが、そうした反故を

採ってくることも見越していたというのか? なら指示の時点で、奴に見つかり次第連行さ

れた筈……。そうでなければメリットが無い。となると、やはり前者。牧野黒斗の独断と考

えるべきか。

『……』

 暫し考え込み、沈黙する筧。

 二見と由香もまた、あの時自分達に降りかかったそんな不自然を思い出し、困惑している

という点では同じなようだった。少なくとも彼の一連の行動は、秘密裏だった筈の取り引き

現場への誘導と情報漏洩──利敵行為と呼んでしまっても差し支えない。

「う~ん……。やっぱり訳分かんねえなあ」

「今も召喚主と一緒に暮らしているって話ですし、もしかしたら本当に佐原君達の言うよう

に、良い人なんでしょうか……?」

「絆されるな。越境種てきであることには変わりねえんだぞ?」

 故に迷い、ぽつりとそんな言葉を紡ぐ由香に、筧は改めてやや語気を強めて言う。今まで

の経緯からは否定したかったが、ただ一方で不可解なのは事実だった。

「まあ、本人に問い質しちまえば一番早いんだろうが……馬鹿正直に答えるとも思えねえし

なあ。しかし何かが起こってることは間違いない」

「ええ……」

「それに。関係しているかは分からんが、俺も一時単独ソロで市中のアウターどもを捜してて

な……。そっちも、どうも様子がおかしいんだ」

「様子?」

「ああ。まるで怯えて隠れてるみたいに、ここ何日かでぐっと奴らの犯行だったり、そもそ

もの目撃情報自体が減ってる。単純にH&D本社のリアナイザ回収が効いてるとも考えられ

るが、それにしちゃあ急過ぎる」

 二見と由香に、筧は語る。そんな所へ、今回の黒斗の不可解が加わったものだから、正直

今この場で原因を特定するのは無理なように思えた。火の無い所に煙は立たぬ。何らかの、

全ての点が一本の線に繋がる背景はある筈なのだが……。

「……リスクはあるが、今度はこっちが奴を探ってみるか」

『えっ?』

 じっとしていても仕方がない。堂々巡りで答えが出ないのなら、もっとパズルのピースと

なる情報を集めてくるまでだ。二見と由香が、そう切り出す筧に少し目を見開く。

「藤城淡雪──召喚主の方を当たろう。奴の行動には、少なからずあの令嬢の存在が関係し

ている」

 敵側の異変の一端? 或いは原因そのもの?

 どちらにせよ、突けば連中を大きく崩すことにも繋がる筈だ。『……了解!』二見と由香

も、チラッと互いの顔を見合わせた後、彼からの今後の方針にふんすと気合いを入れて同意

する。

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