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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-62.Madien/続・亡者の行進曲
479/526

62-(7) 奪還作戦(後編)

『SUMMON』

『DRILL THE RHINO』

 対策チーム側の作戦は、ラース達と相対する前から既に始まっていた。倉庫群に着く前、

敵の感知範囲から大きく離れた地点で、睦月はライノ・コンシェルを召喚──地中へと潜行

させていたのである。

 発案は、今回全体指揮を執った皆人。

 彼は予めリアナイザ一式と真弥が交換されること、敵が用心して黒斗の能力が使われるで

あろうことを見越して、これまでの戦闘データから彼の力場の最大円ギリギリにライノを待

機させるよう指示したのだった。そして一式が渡った時点でパンドラが合図。地中から一気

に距離を詰め、強襲させた……という訳だ。

(地下からの奇襲……! いや、本命はこの煙幕!)

 ラース達の足元から飛び出したライノ・コンシェルは、その射出された如き勢いのまま倉

庫の床を貫き、更には天井にすらも大穴を空けて着地していた。辺りに舞う大量の土煙。そ

の合間から覗く分厚い角は徐々に回転を止め、本体と共に一行の前に立ち塞がる。

 仰げば夜空が見えるほど“風通し”が良くなった場で、ラースは全神経を集中、研ぎ澄ま

せていた。この状況、奴らの目的。次に自分達が、どう動くのがベストか……。

「グリード、掌握を使いなさい! 娘を殺──」

 だが彼が睦月らの意図に気付いたのも、土煙に分断された仲間達に指示を飛ばしたのも、

数拍遅かった。「がっ……?!」既に喰らい付かれていたのだ。赤いカード、ブレイズはグ

リードを、ブラストは黒斗を、ブリッツはネクロをそれぞれ怪人態へと戻って襲い、その首

筋や咄嗟に防御しようとした腕に噛み付いていたのである。

 三人とも、流石に大ダメージは免れなかった。グリードはぶち切れながらこれを投げ飛ば

し、黒斗は膝蹴りを。ネクロは首筋の一部を齧り取られていたが、持ち前の再生能力と狂化

個体が相まって、そのままごり押しで殴り返す。

「痛ってえなあ! もう!」

「グリード、大丈夫ですか!?」

「問題ねえ! それより小娘は──」

 故にラース達は、この奇襲が二重構造になっていたことにさえも、気付くのが遅れた。反

応出来た際にはもう終わっていたのである。

 ライノが天井に空けた大穴は、只の勢い余った副産物ではなかったのだ。グリードがブレ

イズを投げ飛ばし、ラースに応じて土煙の中に目を凝らし出した直後、上空から猛スピード

で降下してくる影があった。もう一体、予め召喚されていた睦月のファルコン・コンシェル

である。ホワイトカテゴリ、手持ち最速の個体であるその飛行能力は、この混乱の中で狼狽

していた真弥の姿を容易に捕捉。彼女及びガネット入りの調律リアナイザを掴んだまま、ぐ

んっと再浮上して瞬く間に飛び去ってゆく。

『よしっ!』

 睦月とパンドラ、二人の短い歓声とガッツポーズが、徐々に霧散してゆく土煙の向こうか

ら見て取れた。隣の筧も内心溜飲は下がっているのか、静かに口角を吊り上げていた。唖然

とするラース達。更にこの混乱の中、零れ落ちたリアナイザとカード形態に戻った三体を回

収して、二見と由香が合流してくる。

「筧さん、佐原君。どうぞ」

「お、おう……」「あ、ありがと」

「これで形勢逆転。ははっ、ざまあ見ろってんだ!」

 二人からブレイズのカードとトリニティ・リアナイザを受け取る筧と、それを横目に一瞥した睦月。

戻って来たEXリアナイザを握り締め、怒り心頭のラース達を見据える。作戦は一応結果

オーライではあったものの、煽らないで欲しいのだが……。

『やりましたね、マスター。これで妹さんの奪還は成功です』

「そう、だね。色々想定外のトラブルはあったけど……」

 やいのやいの。視線の先には二見と由香。驚いたままの筧の様子を見るに、二人の乱入は

彼の隠し玉という訳ではないようだ。

「……いいのか? お前ら」

「何がです?」

「? ああ。アウターと戦うこと、ですか?」

「なら問題ないッスよ。少なくとも──あいつらは悪者、でしょう?」

 ネイチャーは良い奴だった。でもそれはそれ、これはこれ。寧ろ戦うべき時に戦えなかっ

たからこそ、自分達は守れなかった。

 もしかしたら、そんなことを言いたかったのかもしれない。どうやら彼らなりに以前の迷

いは吹っ切れたようだ。「ああ」筧も共に横並ぶ。人間もアウターも、全部が善良で全部が

極悪でなんてことはあり得ない。

「……調子に、乗りやがって」

「ヴォ、オォォォォォッ!」「──」

「結局こうなるんじゃねえかよ。ヤるぞ、ラース!」

「ええ。今回ばかりは、反論の余地もない……」

 ぶち切れて殺気立つグリードと、元より暴力の塊であるネクロ。負傷した左腕を庇いなが

ら沈黙している黒斗に、勇。ラースも眼鏡の奥の瞳を見せぬまま、短く応じていた。三人分

のデジタル記号の光と、黒いバブルボールのような力場が面々を包む。

『EXTENSION』

「変身!」

『TRINITY』『BLAZE』

「応戦するぞ!」

『TRINITY』『BLAST』

『TRINITY』『BLITZ』

「了解!」

『マスター、私達も!』

「ああ、解ってる!」

『LION』『TIGER』『CHEETAH』

『LEOPARD』『CAT』『JAGGER』『PUMA』

『TRACE』『ACTIVATED』

「変身ッ!」

『KERBEROS』

 睦月こと守護騎士ヴァンガード、筧達こと獅子騎士トリニティも応じて。

 真弥こむすめを追え! そうはさせない! 互いの意地とプライドを懸けた激突が、始まる。


 夜の飛鳥崎ポートランド、西第四倉庫内で繰り広げられていた真弥奪還戦は、現場を離脱

した彼女を追う“蝕卓ファミリー”側とこれを止めんとする睦月・筧達側の直接対決へとステージを移

した。ラースとグリード、ラスト、ネクロの怪人態四人とパワードスーツ姿の勇、龍咆騎士ヴァハムート

に、初手からケルベロスフォームで挑む睦月と筧・二見・由香の獅子騎士トリニティ三騎が加わる格好

となっている。

「? 何だ……?」

 一方その頃、倉庫外で皆人らリアナイザ隊士組の襲撃に応じていた怪人態のプライドは、

ふと背後で弾けた轟音と土煙、そして遥か上空へと昇ってゆく一筋の軌道を見上げていた。

 何かが倉庫内から飛び立った? ラースは一体何をしている?

 スロースやグラトニー、同じく怪人態に変身済みの二人も、既にボコボコにしつつある皆

人や冴島、仁ら隊士組のコンシェル達を踏みつけたまま、彼の様子と視線に倣っていた。眉

間に皺を寄せ、執行書片手に大よその状況を悟るプライド。

 まさかあれだけ警戒しておいて、まんまと大臣の娘を奪われたのか……?

『──』

 しかし倉庫内だけなく此方、倉庫外も、この僅かに出来た隙が致命的な事態を生むことに

なった。

 確かにボコボコに、クルーエル・ブルーからの反動ダメージで息を荒く倒れ込んでいる皆

人や冴島達。それでも彼らは、倉庫から上がった大量の土煙と飛び去った軌跡を見て、ニッ

と静かにほくそ笑んでいた。どうやら睦月達は……上手くやってくれたようだ。

(なら俺達も、そろそろ仕上げに掛からないとな)

 隊長! 既に悲鳴を上げている身体に鞭を打って、皆人は叫んだ。するとあたかもそれを

合図に、冴島が残る力を振り絞ってジークフリートを制御。氷の流動化と共に、足元からプ

ライド達を地面ごと凍て付かせたのだった。僅かな隙を突かれ、足が満足に動かなくなる幹

部級三人。量産型サーヴァント達は、彼らとの交戦で既にその大半が倒されている。残骸や突っ伏してい

る個体も含めて、氷漬けに巻き込まれる。

「んがあ~?」

「氷の拘束……爆発の風圧も計算に入れたか……。だがこの程度で、我々は──」

「いや、一時的に止められればそれで良い」

 直後の出来事だった。グラトニーが、プライドが何てことないとこの拘束をぶち破ろうと

した刹那、皆人は何故か不敵に呟く。嫌な予感が彼の全身を過ぎったが……その時にはもう

既に遅かったのだ。

「──ガァッ!?」

『!?』

 緋色のエネルギーを凝縮させ、纏わせた渾身の一突き。そう、國子の朧丸がそのステルス

能力をフルに活用して、動けないスロースの背後からその身体を深々と串刺しにしたのだっ

た。寸前その気配に気付きながらも、至近距離と足の拘束で回避も出来ない。「ス……!」

「スロース!」強い殺意をもって胴体のど真ん中から心臓部、首から頭へと斬り上げられた

時計仕掛けの身体は、文字通り途中から両断されながら大きく宙を舞う。

(……ああ、そうさ。お前達に正面から挑んで勝とうなどとは思っていない。今回、俺達

の目的はあくまで陽動。そして、こいつの時間停止の能力を、確実に潰すこと)

 こちらも、陽動は二重構造で行われていた。一つは倉庫内の睦月達に、援軍として彼らを

向かわせないこと。もう一つは、これまで何度も発動一発で事態をひっくり返されてきた、

スロースの時間停止能力を絶つ──始末すること。

 この先、蝕卓ファミリーとの決戦が間違いなく訪れる以上、彼女の能力はある意味で最も脅威であっ

た。しかし一方でその強力な効果ゆえ、やはり弱点もある。これまでの戦闘データから、即

座の発動や連発が出来ないことは判っていた。何より、何故奴の仲間達だけが能力の影響を

受けていないのかも。

 要するに発動する前、効果範囲や諸々を含め、予め“処理”を施す必要があるのだろう。

例外の対象として指定する。或いはそうした、防護用の物質を付与する等の──。


「調子に乗るなよ! てめぇらは一度俺に負けてんだ! そこを、退けッ!」

なこった!」

「貴方達に追わせは……しない!」

 激しい混戦は、初動から如何に勇や黒斗、プテラ・モジュールや力場を更新しながらの転

移を防ぐかが鍵となっていた。ブラストとブリッツ、ブレイズはとにかく攻撃の手を休めず

に追撃の体勢を取らせない。睦月もケルベロスフォームの身体能力で、ラースやグリード、

ネクロを炎撃と共に必死で繋ぎ止める。ラースの防御壁を警戒し、押し返そうとする射線上

に残り二人が位置するよう立ち回る。

 真弥を追わせる訳にはいかない。もう暫く、時間を稼がなければ……。

「パンドラ、こっちの数を増やす! サポートお願い!」

『了解です!』

 グリードが繰り出す大型ナイフの突きを、鉤爪でギリギリ受け流しながら、睦月はリアナ

イザ内のパンドラにそう呼び掛けた。腹に蹴りを入れ、操作の時間を作る。頭をフル回転さ

せて、この状況に適した手勢を、ライノ以外にも更に加える。

『SUMMON』

『GRAVITY THE CROCODILE』

『HAMMER THE ELEPHANT』

 先ずは大剣を担いだ二足歩行の鰐型と、チェーンハンマーを手にした象型を。共にその破

壊力を活かして、ラースの防御壁バリアに対抗して貰う為だ。更に自身はネクロを押さえるべく、

肉弾戦にシフト。その空きを更に三体のコンシェル達に補って貰う。

『SUMMON』

『DIFFUSE THE BLOSSOM』

『WATER THE OCTOPUS』

『BRITTLE THE QUARTZ』

 桜をモチーフとした、一見可憐な和服少女型のコンシェルは拡散弾。弧を描く無数の光弾

で周囲の空間を制圧するように攻撃をばら撒き、敵の散開を防ぐ。変幻自在な水の身体を持

つ蛸型は、本体と触手をフル活用し、攻撃をいなして庇うサポート役に。筧達だけでは不安

の残る勇のパワーや黒斗の正確な杖術も、受けるのではなく逸らし続ければより足を止め易

いだろう。水晶の頭部と茶褐色の四肢で立ち塞がるクオーツは、その能力で主にグリードの

対策に回る。彼も自身のナイフを握られ、直後石化したように脆く崩れ去ったのを見、慎重

になった。自らの能力──触れた相手を“掌握”する力も、下手に使おうとすればこの得物

の二の舞になりかねない。

「ちぃッ……! バカスカ駒ばかり増やしがやって……!」

「只の頭数ではないぞ、エンヴィー。部分的とはいえ、奴らは守護騎士ヴァンガードの力そのものだ。確

実に叩け」

 筧たち獅子騎士トリニティからの足止め攻勢も鬱陶しいながら、更に睦月が追加召喚したこのコンシ

ェル達も、三人をアシストするように攻撃を差し込んでくる。光弾をばら撒き、真弥を追い

に抜ける順路を塞いでくる。

 ティラノ・モジュールを大きく振るい、勇は苛立っていた。相手の目的が時間稼ぎだとい

うことぐらいはとうに解っている。黒斗も黒斗で、ライノの突進やオクトパスの水鞭、四方

八方から差し込まれる牽制に手を焼いていた。光弾、ブロッサムの弾幕をさっさとプレキオ

・モジュールで一掃することも考えたが、こんな混戦模様で鎖鉄球を振り回せば仲間にも当

たりかねない。何より天井こそ穴が空いても、此処は室内。本領を活かすには狭過ぎる。

「エンヴィー、ラスト! 追跡に向くのは貴方達だけです! 一旦、私達を置いてでも、先

に!」

 プライド達にもすぐ──。

 だがラースのそんな叫びも、直後一斉に肉薄してくるクロコダイルとエレファントを防ぐ

為に中断された。咄嗟の防御壁、からの押し出しで潰そうとするも、やはり的確にヒットア

ンドアウェイに徹されている。無骨な大剣と、鎖鉄球本体を握っての殴打も、圧し合いは出

来ても破り切れないと解っているようだ。何より怪人態のラースの六本腕という性質上、そ

能力バリアを一枚壊した所ですぐにカバーされる。操る掌の動きを注視し、足止めの役割さえ果

せれば良い。

(存外に厄介ですね。やはり守護騎士ヴァンガードの……リアナイザの統括用コンシェルが運用を牽引し

ていますか)

 おぉぉぉぉぉぉぉッ!! 一方で睦月は、今回真弥を奪われる切欠になった一体、ネクロ

を直接止めるべく戦っていた。炎撃を纏った鉤爪と拳で激しく撃ち合いを繰り広げ、着実に

その継ぎ接ぎだらけの肉体に傷を刻んでゆく。だがそれでもネクロは怯む様子はなく、寧ろ

同じく咆哮を上げながらスピードを上げてすらくるようだ。

 ……やはり前よりも、パワーもタフネスも大きく上がっている。

 始めから強化換装ぜんりょくでぶつからなければ、とうに押し負けていた。

「らあッ!!」

 自身も数発、侮れない拳打を頬や脇腹に掠めて貰いながらも、睦月は撃ち合いの僅かな隙

間に両鉤爪の斬り払いを差し込み、ネクロの両手を斬り飛ばした。更に大きく腰を落としな

がら、右脇腹へ両手の鉤爪を揃え、力を溜める。チーター・コンシェルの脚具から噴き出る

熱の勢いを利用し、全身を捻りながら跳躍した一撃が、遂にネクロの顔面や胴体を輪切りに

粉砕した。

「!? 継ぎ接ぎ!」

「いや、あいつの能力なら、あれぐらい……」

「……」

 しかし睦月とパンドラが真に狙っていたのは、ただ単にこれを“撃破”することではなか

ったのだ。グラリと輪切りにされて崩れてゆくネクロの身体。それらが再び地面に落ちつつ

も再生を始めようとする矢先、睦月はこの瞬間を待っていたとばかりにEXリアナイザを操

作する。ホログラム画面を素早くタップし、その銃撃に新たな攻撃特性を付与する。

『ELEMENT』

『CYCLONE THE PEACOCK』

『STICKY THE SPIDER』

『CHILLED THE RACCOON』

 複数のサポートコンシェル達の力を凝縮し、直後放たれた青白い光弾。ラースや勇、黒斗

やグリードは筧達と鍔迫り合いをしながら、その軌道を見ていた。睦月の放った攻撃は、真

っ直ぐ再生途中のネクロへと飛び、寸前で破裂し──。

「なっ!?」

 包み込んだのだった。まだボコボコと、人型にすら戻れていないネクロの全身を、ピンポ

イントにぶち撒かれた粘性の液体が侵食し、何より急速に凍らせて覆ってゆく。

 不死身の個体であった筈のネクロが、はたして身動き一つ出来ずに封じ込められてしまっ

たのである。

「……よしっ!」

『死なないのなら、動けなくすれば良いんですよ。とりあえず元の形状に戻れなければ、全

力も何も無いでしょう?』

 これが今回、皆人が示した対抗策。香月に頼んで再調整チューンして貰っていた、対ネクロの奥の

手だ。暴れ始めれば手が付けられず、倒しても倒しても強力になって復活するならば、そも

そも“倒す”という発想から一旦離れれば良い。

「おいおい……マジかよ」

 これには流石のラース達も驚きを隠せない様子だった。グリードが横目に、されどブリッ

ツの磁力弾を身軽にかわしながらも呟く。ライノ達の猛攻を捌く黒斗を盾にして、その隙間

を縫って勇が飛び出す。正面に冷気の棍を振り上げるブラストと、次いで追ってくる黒斗に

応じようとするブレイズが立ち塞がる。

「プライド達はどうしたのです!? これほどの騒ぎになって、気付かない筈がないでしょ

う!?」

「知らねえよ! 他の邪魔者が片付いてねえのか……」

「調子に乗るなよ! 三分の一ずつの力で、俺達が止められるとでも!?」

 勇は既に、装備をトリケラ・モジュールに着け替えていた。地面へ叩き付ける冷気の棍、

浴びた相手を暫くの間“ゆっくり”にする停滞波のモーションは、とうに見切っている。

「──思っちゃねえよ」

 だがまさに、次の瞬間だったのだ。ガゴンッ! と勇が突き掛かろうとした寸前、背後か

ら無視出来ないほど大きな金属音が聞こえてきた。無理やりにでも軋む音。思わず勇は、他

の面々は振り向いて仰ぎ、すぐ彼らの目的が何だったのかを悟る。……鉄骨だった。先程避

けた、ブリッツの放った複数の磁力弾は、外れたのではなくこの大穴でバランスを失いつつ

ある天井の縁パーツに命中していたのだった。

「てめぇに負けたのは、他でもない俺達自身だ。このまま足止めを続けていても、いずれ息

切れするのは目に見えてる」

 加えてもう一方、磁力を付与されていたのは……これを撃っていた筈のブリッツ自身。

 つまりはそういうことだ。ラース達は挟まれていた。鉄骨と彼女、両者が引き合う斜線上

に自分達。メギメギメギッ……!! 崩壊し、加速度的に取んでくる倉庫だったもの。

令嬢奪還もくてきは果たした。だったら後は、俺達が如何に此処を出るか、だろ?」

 だからこそ、始めから目的はとにかく時間稼ぎ。ファルコン・コンシェルが真弥を確保し

て飛び去り、確実に安全圏へと到達したであろう頃合いまで、可能な限りこいつらを押し留

めておく。乱入して加勢する格好になった二見と由香も、睦月達の奮闘ぶりから読み取るの

は難しくなかった。事情は大よそ、覗き見ていた時点で判ってもいる。


「──畜生! まんまと逃げられた!」

 無残に崩壊した元倉庫、瓦礫の山から抜け出し蹴飛ばして、ラース達はようやく別働に回

っていたプライド達とも合流することが出来た。だが程なくして、彼らは知る。倉庫の外で

は外で、大事件が起きていたことを。守護騎士ヴァンガードらに真弥を奪い返され、逃げられたことだけ

に留まらず、仲間の一人・スロースが重傷を負って倒されたことも。

「嘘……だろう?」

 胸元から真っ二つに斬り裂かれた彼女の身体と、広範囲の凍結と共に粉微塵になって散ら

ばる量産型サーヴァント。何とか自力で脱出こそせど、ラースのそんな言葉に応じる余裕すら無くなった

プライドとグラトニー。

 最悪の結果だった。

 敗北させられ、返された。

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