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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-62.Madien/続・亡者の行進曲
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62-(4) 四面楚歌

「ああああああああッ!!」

 首都集積都市・東京。内々の用と称し、念入りに人払いがされた総理官邸の執務室で。

 健臣と梅津、そして現首相たる竹市と僅かな政務官達は、飛鳥崎からもたらされたその報

告に顔面蒼白となっていた。

 護送直後の真弥が襲われ、攫われた──。

 用心に用心を重ね、秘密裏に進めていた筈の計画が、いざ蓋を開けてみれば蝕卓てきに既にバ

レていたという事実。何より実の娘の危機を知らされた健臣は、激しく頭を抱えて両目をか

っ開いていた。動揺、いやそれ以上に怒りで全身が震え、獣のような叫びが衝いて出る。

「落ち着け! 外に聞こえちまうだろうが!」

「……いや。仕方ないですよ、梅津さん。もし私も同じ立場なら、正直落ち着いていられる

自信がない」

 慌てて、思わず彼を押さえようとした梅津を、デスクに座っていた竹市が制する。当の健

臣自身もそれは解っていたのか、息を荒げながらも必死に理性を取り戻そうとしていた。肩

を取ろうとした梅津の手をそっと押し退け、青白くなった顔を上げる。動揺した気色それ自

体が消えた訳ではなかったが、それでも揺らぐ瞳は既に“次”を見据えつつある。

「一番、恐れていた事態が起きてしまった……。真由子に、父さんや母さんに、一体何て説

明したらいいか……」

飛鳥崎むこうに行っちまったことは、家族全員知ってるからなあ。まあ俺の方でも、雅臣に連絡

は取る。どっちにせよ、時間稼ぎは必要だろう」

『……誠に申し訳ない。我々が付いていながら、このような事態を招いてしまい……』

 通信越し、ホログラムのディスプレイからそう深々と頭を下げたのは、対策チームの総責

任者でもある皆継。本来なら、現場で指揮を執った息子も含めるべきかと考えたが、状況は

現在進行形で推移中。真弥奪還の為にも、取れるリソースは限界まで使わせてやりたい。

 代わりにと言っては何だが、通信には萬波や香月、他の上層メンバーの何人かが参加して

いた。今回わざわざ傍受のリスクを取ってまでコンタクトを取ったのは、ただ平謝りをする

為だけではない。このような状況を招いた、とある疑惑について伝える為だ。

「……いえ。元はと言えば、娘の暴走を止められなかった自分にも責任はあります。あの子

の為に出来ることなら、こちらも協力は惜しみません」

「おいおい、健臣。気持ちは分かるがな……。そう“誠実さ”を安売りするな。まあ、会長

さん達は大丈夫だろうが。お前も政治家の一人なんだぞ? 閣僚だろ? そういうのを、お

前の“弱み”と捉える輩ってのは……世の中にはごまんといる」

 たが本題の前、皆継らの謝罪に健臣が同じく謝罪で応えようとした際、再び梅津がそれを

傍らで窘めた。健臣がこちらを見上げる。竹市がじっと目を細めている。先程のように激し

い口調ではないものの、彼の投げ掛けた言葉は強い憂いを帯びているようだった。長年この

二人の父親──三巨頭めいゆうと共に国政を見てきただけに、その在り方は政治家はおろか、人とし

て“損”ばかりになるのだと知っているからなのだろう。

『……昔から、そういう人ですから。大丈夫です。それも含めて、私達は皆さんを信用して

います』

「ん。そっか」

 対してフッと苦笑わらうのは、香月だった。元恋人、今は対アウターで共闘する仲間として、

彼女は梅津をやんわりと押し留める。当の梅津自身も、話の腰を折ったという自覚はあった

ようで、若干周囲の空気──ばつが悪くなるのを感じながらも、コホンとわざとらしい咳払

いを一つ。彼女達からの発言をそれとなく促す。

 端的に言えば……今回の襲撃も含め、自分達の中に内通者がいる。死神デスの件も然り。明ら

かに睦月が、真弥が小松家の血筋だと知った上で、その命を狙っている者がいる。いや、厳

密にはその目的の為に、蝕卓ファミリーに近付いたと考えるべきか。少なくともそうでなければ、あれ

ほどピンポイントで真弥を乗せた車両を攻撃は出来ないし、一行が出発する日取りも分から

ない。

「……そちらの要求通り、身体検査はやった筈なんですがね」

「となると、前みたいな電脳生命体が直接うちに混ざってるってよりは、生身の人間がそも

そも連中と繋がってたってことか」

『或いは“身体検査”後を見計らい、内通者か蝕卓ファミリー側が接触したか、でしょうね』

 竹市はあくまで淡々と、じっと思案を続けるようにしながら言い、梅津が嘆息を吐く。通

信越しに萬波が、そう補足するように続けた。

「もしかしなくても、ただ怪人が混ざっているより厄介ですね」

「ああ。心当たりのある政敵そんなれんちゅうなんざ……多過ぎるぞ」

 健臣も、静かに奥歯を食い縛る。梅津が、頭をガシガシと搔きながらごちる。

 野党は勿論、与党内でも政治家同士に仲良しこよしなんてものはない。偶々ガワの上では

同じ集団に属していても、各々が抱える腹積もりなど揃う筈もない。分かる筈もない。

「再度“身体検査”を──身辺を洗うか。二人の関係を知っていそうな者を、絞って優先的

にマークした方が良いかもしれない」

「逃げる暇が出来ちまうからなあ。というか、ボウズの身バレの方から調べ出した奴も結構

いそうだが……」

『こちらも、改めてチーム傘下の関係者達の走査を実行する予定です』

『この度は、我々の不手際でお嬢様を危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳なく……』

「謝罪も何も、全ては彼女の身柄を確保出来てからだ。“蝕卓ファミリーは”必ず動くだろう。今後数

日は、情報戦に──」

「総理!!」

 改めてトップ同士の意思疎通と、目下の方針と。通信越しの画面から頭を下げてくる有志

連合こと、対策チームの面々に竹市がそうフォローを入れ、場を締めようとしていた……そ

の時だった。突如として執務室の扉を慌ただしくノックする音が響き、彼らに近しい政務官

の一人が、酷く慌てた様子で駆け込んで来る。

「どうした? 人払いの最中だと言ってあっただろう?」

「何だ? 連中から早速脅迫状でも届いたか?」

「い、いえ……」

 ぜえ、ぜえ。一瞬警戒の表情を見せたものの、竹市達はすぐこの信頼できる部下の姿にそ

う用件を問い返していた。肩で大きく息をしながら、彼は青褪めた様子で告げる。

「そ、それが大変なことに……。つい先程、メディア各社が睦月さんの父親について、一斉

に速報を……!」

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