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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-62.Madien/続・亡者の行進曲
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62-(3) 出し抜き合いて

「──素晴らしい!」

 時を前後して、蝕卓ファミリーのアジト。

 予定通り真弥を連れ帰って来たラース達を、シンはハイテンションでもって迎えていた。

薄暗い空間と円卓、中二階と柱の陰に詰め込まれたサーバー群の電灯。当の真弥もグリード

とグラトニー、二人に左右から腕を掴まれ、逃げ出そうにも逃げ出せない。何より。

(ど、どうしよう。私のせいで、お父様達に迷惑が……。あんなにいっぱい、お仕事の人達

も死なせて……。ガネット、ガネット! お願い、起きて!)

 せめて奴らに奪われないよう、今の今まで自身の手に握り続けていた調律リアナイザ、及

びその中にデバイスごとしまわれている筈のガネット。

 だが事態の急変、異母兄あに達がズタボロに倒されても、頼みの彼女はうんともすんとも言わ

なくなってしまった。何度も引き金をひいたのに、一向に反応が無くなってしまったのであ

る。

「私達が本気を出せば、ざっとこんなものよ。守護騎士ヴァンガード達も、プライドが変なこと言い出さ

なければ一緒に始末出来たんだけどね」

「元を辿れば、お前の展開した力場のうりょくだろうが。旧第五研究所ラボも、その油断もあって墜ちたの

ではないのか?」

「……何ですって?」

 ただ一方の七席達も、今回の出撃で必ずしも一致団結している、という訳ではなさそうだ

った。傍からこのやり取りを見ていた真弥も、なるべく自分の気配を前面に出さないよう心

掛けていた。或いは、普段から彼らはこんな感じなのか。

「止しなさい。あの場で用心を採ったのは私です。この娘という手札カードを手に入れた今、奴ら

を無力化する術はいくらでもある」

 にわかに睨み合い出したプライドとスロースを、そうぴしゃりとラースが窘めた。表情は

あくまで生真面目で眉間に皺、眼鏡の奥に油断ならない眼光を宿したままながら、ともかく

今は真弥を連れ帰って来た報告を優先する。彼女が握っていた調律リアナイザ、及びガネッ

トもとうとう取り上げられ、シンの手に渡る。

「ふぅむ……? どうやら遠隔で強制ロックが掛けられてしまっているようだね。大方こう

した事態を想定して、予め組み込んでおいた機能なのだろう」

「解除は出来ねえのか?」

「いや? 出来なくはないが……どうしても時間は掛かってしまうね。個人的には、とても

とても興味があるのだけれど」

 リアナイザとデバイスを作業台の配線に繋ぎ、暫しホログラム型のディスプレイに解析の

文字列を走らせつつぽつり。

 グリードの問い掛けに、シンはそう軽い感じで答えていた。技術者の性、とでも言うべき

ものなのだろうか。自身が開発した大元を更に魔改造、対抗してくる敵側の頭脳との知恵比

べに本人は嬉々として哂っていたが、それはそれ。これはこれ。今回真弥を攫ってくるよう

ラース達に指示したのは、一連の戦いに重要局面を作り出す為だ。

「──ええ。こちらとしても、そんな悠長にされては困ります。そもそも今回の任務は、私

どもに任せると仰っていたではありませんか」

 ちょうど、そんな時だったのだ。真弥とガネットあたらしいおもちゃを得て愉しそうなシン及びラース達の下

へ、突如アジトの扉を開いて一人の人物が訪ねて来たからである。

 線の細い、黒眼鏡の外国人。

 H&D社CEO・リチャードの側近として仕えている、インテリ秘書風の男だ。

「やあ、サイレス。わざわざ来て貰ってすまないね。分かっているよ。彼らのデータは、ま

た別の機会に採取する。量産型ざこの方が楽だろうしね」

「当然です」

『……』

 プライドやスロース、グリード、そして面々の中で一番理知的と見えるラースまでもが、

彼の登場にあからさまな不信感・警戒心を露わにしていた。各々直接言葉にこそ出さなかっ

たが、これまでの台頭で思う所は少なからずある。それを当のシンは、さも全く意に返さぬ

ようにして接しているのだから。

「ラース達を向かわせたのは、念の為、だよ。ネクロは強いが、一度奴らに倒されているか

らねえ。攻撃と回収、二手に分かれた方が当初の目的には叶う」

「……だからと言って、腹いせにぶち殺すこともなかったでしょうに」

 ちらり。言ってこの秘書風の男──サイレスはプライドの方を見た。どうやら現場で、あ

くまで“邪魔者”として襲い掛かってきたネクロを、彼が一旦磨り潰して黙らせたことも把

握済みらしい。

「だったら、せめてあいつの手綱ぐらいしっかり握っておけ。一応、我々は“同胞”の筈だ

ろう?」

「一度ならず二度までも、守護騎士ヴァンガードを仕留め損ねた誰かに言われる筋合いは無いと思います

がね」

 プライドもプライドで、睨み返す眼光に遠慮は無い。

 暫し両者の間で、無言の衝突が続く。

「はいはい、そこまでそこまで。ともかくサイレス、君は一旦この子をそっちで預かってい

てくれ。社屋内なら、彼らも下手に手出しは出来なくなる。その間に、僕達は次の準備に取

り掛かる。彼女を人質に、守護騎士ヴァンガードと筧兵悟ら“のみ”を出て来させる。あの四人さえ始末

してしまえば、奴らの戦力はほぼ壊滅と言ってしまって当然だ」

「……ラストとエンヴィー、残りの二人もその際には召集しておきましょう。念には念を。

こちらが有利な状況を作ってくることは、向こうも当然想定・警戒している筈です」

 だがそんな面々──電脳の異形らの主導権争いすら、この白衣の狂人は何処か面白可笑し

く眺めている節があった。パンパンと手を叩いて一旦止めさせ、改めて今後の動きについて

詰めの打ち合わせを行う。ラースも、じっと目を細めて考え込んだ後、そう補足を加えるよ

うに告げた。あの二人には、そろそろ中途半端どっちつかずを絶って貰わなければならない。

「その後の小娘は? 素直に返しますか?」

「ははっ。そんな訳ないだろう? 事が済んだら見せしめがてら、始末するよ」

「ひッ──?!」

 そして更に、当の真弥本人にとっては正に絶望でしかないやり取り。死刑宣告。サイレス

に問われたシンは、そうカラカラと笑いながら答える。

「でしょうね」

「なので先に、こちらで手を回しておきました」

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