62-(1) 不死身のアウター
「……フゥゥゥ。ハァァァーッ!!」
真弥を秘密裏に護送する筈だった、政府側からの使いと睦月以下対策チームの面々が、ダ
ミーを兼ねて分乗した車列。だがそんな此方の計画は、とうに敵に知られてしまっていたら
しい。
週末、人払いを掛けておいた飛鳥崎駅東口のロータリー。そこへ突如、真弥が乗る本丸の
車へと的確に、筋骨隆々とした継ぎ接ぎのアウターが文字通り降って湧いてきたのだった。
「ひゃい……!?」「お嬢様!」衝撃と咆哮。大きくへしゃげたフロントガラスと、車内で
咄嗟に身を屈める真弥や、庇い立てするSP達。同じく弾かれたように飛び出し、臨戦態勢
でもって囲んできた睦月らに、この異形は四つん這いのまま激しく敵意を剥き出しにして睥
睨してくる。
「真弥!」
「くっそ、どうなってるんだよ!? 一度倒した筈じゃあねえのか!?」
「詮索は後だ! とにかく奴を止めるぞ!」
一斉に各々の調律リアナイザ──ガネットを基にした量産型コンシェルを召喚するSP、
政府側のエージェント達。彼らに倣い、睦月らも雪崩れ込むように加勢へと入る。クルーエ
ル・ブルー、ジークフリート、朧丸にグレートデューク、Mr.カノン及びビブリオ。更に
睦月は初手から、前回継ぎ接ぎを屠った形態で挑む。
『TRACE』
『BRUTE THE GORILLA』
「妹ちゃんから……!」
「離れろォォーッ!」
向けられた敵意に反応し、殆ど動物的な動きで跳躍してきた継ぎ接ぎ──ネクロへと、ガ
ネット量産型達が炎を纏う軍刀を片手に突撃してゆく。
だがそれよりも先に攻撃をヒットさせたのは、仁のグレートデュークと宙のMr.カノン
だった。側面からのシールドバッシュと、これをアシストするよう素早く背後に回った上で
の硬質弾。とにかく先ずは、この怪物を真弥の車両から引き剥がす必要がある。
「うぐっ……! けほっ、けほっ」
「お嬢様、こちらへ!」
そして当の本人達も、そんな状況はすぐ眼前で見ていた。ネクロが一旦弾き飛ばされ、車
体に掛かる圧から解放されると、中のエージェントらは急いで彼女を連れて外へと退避を始
めた。舞う土埃と鉄屑の臭い。真弥は少々むせて涙目になりながらも、一方で同じくこの襲
撃に巻き込まれた運転手を気遣いつつ、共に小走りで駆けてゆく。
「ここから先は、行かせない!」
「──! オ゛ォォォッ!!」
その間にも、両者による戦いは続く。吹き飛ばされたことが存外だったのか、ネクロはむ
くりと起き上がってからそう、再度威嚇の犬歯を剝き出しにしていた。真弥達の車両を背後
に立つのは、重装甲に極厚のガントレットを両腕に装備した守護騎士姿の睦月。他の仲間達
も、すぐさま防衛ラインを敷いて押さえに掛かる。
真弥の位置が背後に回り、今度は射線を気にせず攻撃出来るようになった。咆哮を上げて
突っ込んでくるネクロを、ガネット量産型達のガンモードの軍刀が襲う。ただ相手もその炎
弾が厄介だと学んでいるのか、強引に叩き落すというよりは都度身体を捻り、回避にリソー
スを割く様相。クルーエル・ブルーの伸縮する刃やジークフリートの風刃、カノンの銃撃と
ビブリオの並列レーザーも同様、アクロバットに避けたり打ち落としながら、こちらへと肉
薄してくる。
「ふんぬッ!!」
そしてその拳は、程なくして待ち構えていた睦月のガントレットと激突して。
初撃は、互いの力押しが拮抗したように見えた。事実ぐぐっと弾かれ合い、だがすぐさま
再び両者の応酬が始まる。
しかし睦月は──目の前の敵を分析していたパンドラは、同時にその違和感にも気付いて
はいた。遠・中距離からの牽制が全てかわされ、左右から援護の近接に入ってくる仲間達。
それすらもタイミングを計り、拳の連撃の合間に避けてはいなすネクロを見据える。
……やはり先日戦った時よりも、筋肉量が増している。加えて、生身(?)を保護する部
分的な装甲も、その箇所が増えているように思えた。
『マスター、やっぱりそうです! こいつ……前戦った時よりもエネルギー出力が増してい
ますよ! 強くなってます!』
「みたい、だねっ! それに、明らかに……こっちの動きを、憶えてる……ッ!」
こちらの数は、先日の比ではない筈だ。なのに対するネクロは睦月と互角かそれ以上の肉
弾戦を展開し、尚且つ彼のアシストに入る仲間達の攻撃も的確にいなしてくる。打ち返した
上で、弾き飛ばしている。
「つぅ……! 電脳生命体っていうのは、こんなにも……」
「無暗に攻撃を入れても、相手の動きを不規則にするばかりです! 睦月君の迎撃に合わせ
て下さい!」
少なくとも、数の有利がこの場では、乱戦による攻撃の“渋滞”に繋がっていた。自身の
コンシェルを吹き飛ばされ、反動のダメージを貰っているエージェントの一人に、経験の多
い冴島が助言を投げる。
(お兄様達が……)
他のSP達に庇われながら逃げようとしていた真弥は、思わず振り向きながらそんな苦戦
のさまを目の当たりにしていた。睦月が、異母兄が一発二発、ガントレットの隙間を縫って
ネクロの反撃を貰っている。パワードスーツ越しからも解る苦痛と、仰け反り。彼以外の他
の面々も、以前にも増して凶暴となったネクロを止められないでいる。
「ガネット、お兄様達を守って!」
『承知!』
だからこそ、彼女は自分だけが逃げ果せることを良しとは出来なかった。このままでは兄
らが押し切られてしまう──。SP達が止める暇もなく、真弥は次の瞬間、懐の調律リアナ
イザからガネットを召喚していた。主の命を受けたこの軍服少女のコンシェルもまた、姉妹
機たるパンドラに加勢すべく、ぐんと猛スピードで地面を蹴る。
『でいッ!!』
その攻撃が、ネクロの脇腹に軍刀が押し当てられたのは、エージェント達のコンシェルが
寄って集ってこの動きを止めようとしていた最中だった。彼らの、及びネクロ自身の装甲の
合間を縫うように、得物の柄先が押し付けられる。睦月達も、彼女と真弥が加勢してきたこ
とにはすぐ気付いた。殆ど反射的に、大きく一旦飛び退く。ぐるんと、ガネットが軍刀を逆
手持ちにして銃撃形態へ。ゼロ距離からの、最大火力を撃ち放つ。
『ぬあーッ!!』
「ガッ?! ア゛ァァァーッ!?」
ネクロの全身は、文字通り火柱に包まれて消し炭にされていった。コンシェルを破壊する
為の特殊な炎が、芯たる彼女を黒焦げのシルエットにして小さく小さく削り取ってゆく。た
だ間合いなど省みずに撃った一撃のため、当のガネットもその熱風に当てられている。反動
をつけて飛び退きながらも、少なからず苦しそうな表情を浮かべる。
「……やったか?」
だがしかし、直後睦月ら場に居合わせた面々は絶望の淵に叩き落されることになったのだ
った。確かにネクロは、目の前で消し炭になった筈だ。だというのに、たっぷり数十拍、よ
うやく火の消えたその同じ場所から再構築が始まる。捻じれ渦巻くデジタル記号の光と、肉
や骨が何処からともなく現れては瞬く間に人体の──怪人の形に組み上がってゆく。人体模
型のような、筋骨隆々で継ぎ接ぎの異形。ネクロの身体は、睦月達の目の前で完全に復活し
たのだった。
「はっ──?!」
「再生した……?」
「いや、再生ってレベルじゃねーだろ!? どうなってやがんだ、こいつ!?」
「だったらもう一度殺すまでだ! 今度は全員でいくぞ!」
想定外の挙動に、思わず愕然とする面々。だが再生直後の隙を逃すまいと、皆人が自身の
コンシェル、クルーエル・ブルーの伸縮短剣に必殺のエネルギーを溜めさせる。國子の朧丸
も、仁のグレートデュークも、冴島のジークフリートも。各々が太刀に突撃槍、炎剣を滾ら
せて大きく踏み込む。海沙のビブリオは、ネクロの足元から光柱を複数円状に出現させて、
檻のような足止めを。宙のMr.カノンは、これを強引に抉じ開けようとするネクロに牽制
の機銃連打を叩き込んで、動きを封じる。
「ナックル! チャージ!」
『PUT ON THE HOLDER』
その間に睦月は、EXリアナイザをナックルモードに切り替え、同じく必殺技の体勢を取
った。ゴリラ・コンシェルのそれでは相手を吹き飛ばしてしまう。ここは皆のアシストを活
かすべく、確実にエネルギー杭の射出でもって、叩き込まれる威力達を殺してしまわない方
法を選んだ。
「ぬんっ……! でりゃあああーッ!!」
EXリアナイザの銃口、ナックルモードの収束した球体型エネルギーが、杭状にネクロへ
と撃ち込まれ、復活後反撃しようとした振り向きごと地面へと縫い付ける。そこへ同じく、
力を限界まで引き絞った皆人達の攻撃が、ほぼ矢継ぎ早の時間差で叩き込まれた。更に止め
には大きく跳躍した睦月の、エネルギーの奔流を纏った渾身の蹴り。殆どオーバーキルな破
壊と爆発で、今度こそネクロは爆発四散したように見えたが──。
『……なっ?!』
しかしまたしても、その身体は“復活”したのである。間違いなく今度も粉微塵になって
死んだのに、三度筋骨隆々、継ぎ接ぎだらけの身体は猛スピードで再構築された。
加えて明らかに、咆哮を上げつつまた現れたその姿は、先程よりも筋肉量が増えていた。
一回りは膨れ上がった肉体に、更なる刺々しい装甲部が追加されているように見える。
「嘘……だろ?」
「間違いない。これが、こいつの能力なんだ。どれだけ殺しても、殺された数だけ強力にな
って復活する……」
ただ結果から言えば、睦月達がその事実に気付いた時にはもう遅かった。ネクロは再三こ
ちらに向き直って襲い掛かり、更に増したパワーで、ゴリラ・コンシェルの耐久力や膂力す
らも圧倒し始める。
「ぐうッ!?」
『マ、マスター!』
「むー君!」
「ど、どうすんのよ!? こんな奴、一体どうやって倒せば──」
“もう遅かった”。それは何も、この驚異的な再生能力を持つアウターに太刀打ち出来な
かったことを指しているのではない。他にも現れたからだ。海沙や宙が悲痛な言葉を漏らし
た次の瞬間、周囲の時間──あらゆるものがピタリと“停まった”ように見えた。カツカツ
と、そんな既視感のある現場へ、同じくやはり浅からぬ因縁のある者達が姿をみせる。
「ふう……危ねえ。もう少しで、こいつを倒す手柄まで奴らに取られちまう所だった」
「こうして直接会うのは、旧第五研究所の一件以来ね。まああの時も今回も、あんた達が認
識する前に終わらせることになるけれど」
グリードとグラトニー、スロース、ラース、プライド。蝕卓七席の内、勇と黒斗を除く、
幹部級個体の五人だった。自身の時間停止能力で動かなくなった、直前の体勢のままの睦月
達を眺めつつ、人間態のスロースはごちる。例の如くぼ~っと涎を垂らしながら、何を考え
ているか分からないグラトニーに、睦月達と同じく固まっているネクロを小突きつつそうぼ
やいているグリード。ラースとプライドは、それぞれ別の内心と執着によって終始、不機嫌
な顰めっ面を貼り付けていた。
「グリード、グラトニー。小松真弥と彼女のコンシェルを、守護騎士達から引き離して下さ
い。この位置関係では、スロースの能力を解除しても面倒なだけです」
「へいへい……。相変わらず人遣いが粗いねえ」
「じゃあじゃあ? 引き離したらあ~、食べてもいい?」
「駄目ですよ」
ラースに言われて二人が、やや気だるげに「よっこいしょ」と真弥及びガネットを自分達
の傍へと移動させに掛かる。ただ時間停止中は、相手が動けない反面、こちらからの干渉も
し辛くなるらしい。人間態とはいえ、常人を越える身体能力を持つ筈の二人が、その指示を
完遂するのに暫く難儀していた。ズズズッ……と、まるで重いコンテナでも押すかのように
して、二人掛かりでようやくガネットと真弥、今回のターゲットの確保を終える。
「ああ、それとグリード。ついでに貴方の“掌握”も使っておいて下さい」
「? 守護騎士は耐性持ちだぞ?」
「小松真弥の方ですよ。いざという時に、こちらが任意で無力化出来ますから」
加えてもう一つ指示を出すラース。「慎重だな」哂うようにグリードは応えた。それでも
過去、自分達はそうした油断で何度も守護騎士達に辛酸を舐めさせられている。用心するに
越した事はないだろう。ポンッと、停まったままの真弥の頭に、グリードの掌が軽く一度触
れる。
「……」
一方でプライドは、その間じっと守護騎士──睦月の方を見ていた。じっと眉間に皺を寄
せて、静かな殺意にも似た圧を向けている。
カツ、カツ。こと彼にとっては、中央署の一件で自身の牙城を滅茶苦茶にされた仇敵でも
ある。独り無言のまま歩み寄り、ゆっくりと手刀を作って持ち上げた。
これまではシンの命令の所為で、彼への復讐も、再び表舞台に立つことも許されてこなか
ったが……。
「!?」
だがしかし、次の瞬間プライドは信じられないものを目撃した。自身が中央署の一件以来
の意趣返しにと、手刀を振り下ろそうとした直後、ビキッと睦月の指先が動いたように見え
たのだ。思わずプライドは、反射的にその手を止める。見開いた目で他の面々に振り返り、
確かめるように訊ねる。
「おい。スロース」
「どうしたの?」
「今……守護騎士の手が動いたように見えたぞ」
「えっ? 能力は解いてないけど?」
「見間違いじゃねえのか? つーか、しれっと手ぇ出そうとしてんじゃねえよ」
「私達は今、彼を見ていなかったのですが……。確かなのですか?」
「あり得ないわ。私の能力から逃れられるのは、予め遮断処置を受けた者だけの筈よ」
あくまで楽観的に、鼻で哂いながらそれとなく独断を指摘するグリードに、若干の警戒心
を示すラース。停止能力を行使中の当のスロースも、ちらっと睦月ら場の面々を見遣るが、
やはり動き出している様子はない。眉を顰めて、自身の掌からチリチリと発生させた、細か
な鈍色の粒子を漂わせながら言う。
「……ともかく、当初の予定通り小松真弥の確保を。守護騎士がスロースの能力にも耐性を
持とうが持つまいが、どのみち置き攻撃で一網打尽ですので」
故にラースの判断で念の為、一行はここで欲張るよりも、そもそもの発端である小松大臣
の娘を優先することにした。固まったままのガネットを蹴り飛ばし、五人は真弥を囲んで踵
を返す。止まったままの睦月達を背に、スロースが針や歯車型の刃を中空に設置。パチンと
指を鳴らして能力を解除した。
「──っ?!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーッ!!』
刹那、再び動き出した世界から絶叫が響き渡ったのは言うまでもないだろう。睦月達や政
府側のエージェント、各々に召喚されたコンシェルなどはほぼ抵抗する術もなく、降り注ぐ
ように襲い掛かってくる針や歯車型の刃に蹂躙された。
激しく散る火花、或いは鮮血。
睦月以下対策チームの面々は、すぐにこれがスロースの能力であると理解したが、時は既
に当の本人らを打ちのめした最中。通信越しの司令室からも、香月や萬波、皆継らの悲鳴が
聞こえる。真弥もハッと我に返り、背後の惨状に激しく瞳を揺らしていた。『お嬢さ──』
同じくこの状況に気付き、飛んで行こうとしたガネット。だがその直後、彼女の姿は文字通
り、電源を切ったかのように掻き消えてしまう。
「っ……。“蝕卓”の……!!」
「おい、おい、無事か!?」
「だ、駄目だ……。身体が、動かな……」
「コンシェルも、リアナイザも破壊された」
「庇ってくれていなければ、今頃自分も……」
『マスター! マスタぁ!』
「……拙い、な。幹部クラスが、五人。不意打ちとはいえ……」
パワードスーツ越しもしくは生身に、針や歯車型の刃が直撃してしまった者。間一髪コン
シェルが庇ってくれたため、即死は免れた者。差はあれど、面々が壊滅的な打撃を受けたこ
とには変わらなかった。
ボロボロにされながらも、何と起き上がろうと身体に鞭打つ睦月やエージェント達、冴島
や仁といった仲間。EXリアナイザの中から必死に主の名を呼んでいるパンドラや、肩で激
しく息をしつつ、満身創痍のクルーエル・ブルーを構えさせる皆人。このままでは真弥が、
奴らに連れ去られてしまう。
「お? 案外生きてたな」
「ふん。まあ、初見じゃないからね」
「ですから、油断は禁物だと言ったでしょうに。ともあれこれで──」
だがそうして、ラースが自ら止めを刺そうと手をかざした、次の瞬間だった。彼ら五人の
幹部級に向かって、猛然と襲い掛かってくる影が一つ。ネクロだった。彼女も同じく、少な
からず針や歯車型刃の巻き添えを食らっていた筈だが、それでも尚持ち前のタフネスで逸早
く復帰。何を思ったか一応味方である筈の彼らに掴み掛ろうとしてきたのである。
「むっ!? 何の心算です、ネクロ!」
「……なるほど。あくまで命令を果たすのは自分、という訳か。狂化された個体はこれだか
ら、所詮畜生からは抜け出せんのだ」
咄嗟に防御壁の能力を発動し、ネクロの突撃を弾き返したラース。その傍でこれを見てい
たプライドが、ややあってそう理解を示しつつも嘆息を漏らす。同じ越境種とはいえ、元よ
り七席と海外組とでは反りも合わない──言外にそんな不満を込めるかのような言い口で、
二歩三歩を前進。自身の“判決”能力を繰り出し、この継ぎ接ぎだらけの同胞の首を斬り飛
ばした。更に中空から、目に見えない重石のようなものを落とし、残る身体の方もぐちゃぐ
ちゃに圧殺する。
「……殺っちゃって良かったの?」
「邪魔してきた方が悪い。それにどうせ、復活するんだろう?」
じとっと、スロースからの流し目。だが当のプライドは、悪びれもせず答えた。トンッと
発動媒体の本を閉じ、掌から消す。事実そんなやり取りをしている間にも、ネクロは再び肉
体の再構築を始めていた。ミンチになっていた肉塊が、デジタル記号の粒子が、少しずつ元
あった形状へと集束してゆく。
『……』
ただ幸いだったのは、この時起こった僅かな“仲間割れ”の隙を、皆人ら対策チーム側が
見逃さずにいてくれたという点だったのだろう。
解っている。自分達も負傷し、政府側のエージェント達も、少なからずがあちこちで事切
れている。何より肝心の真弥が奴らに捕らわれたままだった。それでも……今は、全滅だけ
は避けなければならなかった。此処で終わってしまえば、彼女の救出すら二度と叶わなくな
ってしまう。全てが、終わってしまう。
「む──?」
冴島が、ジークフリートが起こした一陣の渦。睦月達は結局、残された面子だけでも掬い
上げざるを得なかった。
苦渋の決断、敗走。
それが程なくして間違いなく、非難の的になると解っていても。




