表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-61.Maiden/遠方より姫来たる
467/526

61-(2) 狼狽する父

 時を前後して、首都集積都市・東京。

 その日の昼下がり、小松邸は思いもせぬアクシンデントに見舞われていた。母・真由子が

娘の部屋を掃除しに入った時、机の上に便箋の書き置きがあることに気付いたのだ。


『お兄様に会って来ます

 心配しないでね? 週明けまでには帰るから 真弥』


「あぁぁぁぁぁッ!! 何て……何てことをっ!!」

 彼女から連絡を受け、大急ぎで出先から舞い戻ってきた健臣。同じく狼狽する彼女や、事

態を聞いた雅臣と静江夫人、中谷以下同家使用人らも集まって来て、邸内は大わらわとなっ

た。実際の書き置きを片手に、ガシガシと髪を掻く健臣。流石の“鬼の小松”こと雅臣も、

ばつが悪そうに顔を顰めている。

「……申し訳ございません。迎えの者が学院を捜しましたが、ご学友とは早々に別れて帰ら

れたと。今朝からその心算で、授業の終わりと監視の目が少なくなるタイミングを待ってお

られたのでしょう」

 絞り出すような声色で委縮しつつ、頭を下げる使用人達。普段、真弥が通う付属中学への

送迎を担当している者達だ。曰く放課後になっても何時もの場所に現れず、不審に思い校舎

内へ直接赴いた時には既に遅し。表向きにはとうにクラスメート達とは別れ、姿を消してし

まった後。書き置きの通り、飛鳥崎にいる異母兄あに・睦月の下へ向かったのだろう。

「ふ~む……。もしかしなくてもこの前の、お前との話を聞いてたのかねえ?」

「そうとしか考えられないな。トイレにでも起きて来てたのか……」

 健臣が父・雅臣に深夜、睦月が自分の息子だと打ち明けたのはつい先日のこと。真由子や

母、一部の信頼できる者らにも伝えたのは更に後のことだ。

 彼としては、周囲の大人達がしっかり状況を把握した後、地固めを済ませた上で娘にも打

ち明けようかどうか迷っていた最中だった。きっとショックを受けるだろう──だが現実に

当の本人が取った行動は、寧ろぐいぐいと件の息子へ向かってゆくという想定外であった。

「貴方の心配性が裏目に出たわね、健臣。あの子だけを仲間外れにしないで、正面から向き

合うべきだったのよ。結果、真由子さんも傷付けた」

「お義母様……」

 母・静江からもそう淡々と指摘され、健臣はぐうの音も出ない。ビシッと青寒色の着物を

着こなした女傑。その眼差しは、実の息子にすら容赦ない。

「おい、静江。今こいつを詰ってても始まんねえだろ。向かった先は割れてる。梅津と竹市

にも連絡を入れて、すぐに手を回させよう。大臣の娘ってのもそうだが、飛鳥崎あっちは電脳生命

体が闊歩してる本丸だからな」

「ガネットを持って行ったのは、あの子なりの自衛手段か……。だからって、何も言わずに

一人は危な過ぎるだろう……」

「ええ。もしお嬢様の正体が“蝕卓てきそしき”にも知られた場合、命を狙われる可能性すらあります。

一刻も早く、見つけないと……」

 ピリピリとし始めた空気。だが雅臣は、それが“今”向けるべき矛先とはズレてゆくのを

瞬時に嗅ぎ分け、現役時代にも劣らぬ指示を繰り出した。真弥が独り飛鳥崎へ向かった、そ

の情報に気付いた時、健臣と真由子の寝室に置かれていたオリジナルのガネットと調律リア

ナイザも姿を消していた。冷静なのか行動的なのか、正直訳が分からない。

「もしもし、俺だ。内密で頼む。ちょいとヤバいことが起きてな──」

「放課後、この時間から出発したとなれば、やはり高速鉄道か……。直通便なら、飛鳥崎へ

は片道二時間と掛からない」

「あの子がいくら向こうに土地鑑がないと言っても、ガネットちゃんもいるし、地図アプリ

も使えば迷わないとでも思ったのかしら……?」

「おそらくは。あれだけメディアでも騒ぎになった睦月殿ですから、ご自宅の位置もとうに

割れてしまっているでしょう」

 ──はあ!? マジかよ。雅臣が掛けた電話の向こうで、梅津がそう思わず素っ頓狂な声

を上げたのが聞こえる。健臣も健臣で、すぐ自身のデバイスから娘の使ったと思われる移動

ルートを絞り込んでいた。最短時間という面でもそうだが、週末休みに突入しつつある大型

交通インフラは、ただそれだけで人ごみに紛れるには好都合な筈だ。せめてあの子のそんな

判断が、悪意ある攻撃の照準をブレさせてくれていることを願う。


「真弥ちゃんが……飛鳥崎こっちに?」

 一方で現地、集積都市・飛鳥崎でも、健臣経由で入った連絡に香月が驚愕していた。急ぎ

皆継ら対策チーム上層部にも報告し、水面下で彼女の保護に動く。本人の目的が睦月である

のなら、先回りが有効だろう。

 皆人や國子、二人と一部既に知っている者を除き、大半のメンバーには血筋周りの背景は

伏せて。あくまで「共闘相手の重鎮の娘」が、飛鳥崎に来ようとしている──そんな筋書き

で面々には説明を通した。司令室コンソールに合流してきた皆人指示の下、普段怪人らを捕捉する為の

監視網を、急ピッチで一人の少女の為に合わせ直す。

「こうなると、道中でアウターに狙われるのが一番の問題ですね」

「まあ、可能性が無い訳ではないですけど……」

「向こうの話では、発見器ガネットを持参して来ているらしいですし、上手く避けて通って来てくれ

ていれば……或いは?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ