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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-60.Execution/君の自由は我等が敵也
463/526

60-(6) 双巨決戦

「瀬古……!」

 勇の姿を見て、真っ先に激しい反応を示したのは、彼と因縁のある二見及びネイチャーだ

った。前者は文字通りの恨み、亡き友の仇。後者は遂に自分達が見つかってしまったことへ

の、明らかな絶望の表情であった。

(そんな。本当にあの時に、僕の存在に気付いたっていうのか? じいちゃんのことも、調

べ上げて此処へ……?)

 ネイチャー。動揺する彼や浅田、筧達に向かって、勇の隣に立つ黒斗が言った。淡々とし

て感情こそ読めないが、少なくとも片割れのように血気盛んといった様子ではない。

「そこの三人を捕まえろ。私達に引き渡せ」

「“蝕卓ファミリー”からの命令だ。そうすりゃあ、お前は始末しないでおいてやる」

「っ!?」

「そ、そんな事、出来る訳──」

「てめら……。一体何処まで性根が腐ってやがる!?」

「狙いは私達なんでしょう? だったら、草太さん達は関係ない!」

「ああ? 妙なこと言いやがるなあ。お前らは俺達を潰すことが目的じゃなかったのか?」

「……私達は道具だ。ネイチャー。存在理由を思い出せ」

 この数日で募った情と、目の前に迫った強大な危機。

 迷うネイチャーと浅田を、二見と由香は聞く耳を持つなと言わんばかりに庇い立てしてい

た。仕掛けられる精神攻撃に対し、義憤いかりをもって応じていた。未だ両者の関係性までは把

握していないのか、勇は思わず呆れ──怪訝な表情かおを浮かべている。黒斗も黒斗で、変わら

ずじっと草太ことネイチャーに呼び掛けていた。

(……多少穏便に運ぶよう振る舞っているようだが、完全に組織てき側だな。佐原達の話してい

た人物像とは、どうにも違う……)

 一方で筧自身も、内心でそう、これまで睦月達経由で聞き及んできた黒斗の姿を見て不信

感を新たにしていた。目の前の状況が緊迫している中で、冷静に分析に勤しんでいる余裕な

ど無かろうとは解っていたものの。

「はあ……。ならまとめて、ぶっ倒すまでだ」

 露骨な嘆息、というより元からその心算で。

 あくまで筧達の味方をしようとするネイチャー及び浅田の応答を見、勇は黒いリアナイザ

に『666』の変身コードを入力した。銃口を掌へと一旦押し当て、引き金をひく。闇色を

したバブルボール状の力場に包まれ、その身を龍咆騎士ヴァハムートへと変化させる。

るぞ。額賀、七波君」

「うッス!」「はい!」

 筧達も即座にこの動きに応じていた。トリニティ・リアナイザの弾倉に次々と自身のカードを挿入

し、順繰りに引き金をひいて赤・青・黄色。飛び出した光球に降り注がれて包まれ、三騎の

獅子騎士トリニティに変身して得物を構える。

「ぬぅんッ!!」

 初手の炎剣と冷気の棍棒、ほぼ同時に地面を蹴って両側面から仕掛けたブレイズとブラス

トの攻撃に、勇は難なく対応した。半身を返して正面に炎剣を拳鍔ダスターモードの黒いリアナイザ

で、後ろへ突き出した蹴りで、冷気棒を途中でいなし返して。スーツの性能差も勿論ながら、

何より戦闘経験の差は依然大きかった。援護射撃をしようとするブリッツの射線も、二人

の身体を巧みに盾代わりにしながら防ぎ、持ち前のパワーでもって二発・三発と打撃を叩き

込みながら押してゆく。

「……ご老人。貴方もよく考えなさい」

 一方そんな勇を横目に、黒斗も怪人態──ユートピア・アウターに変身してからゆっくり

と浅田ないしネイチャーに近付いて行った。由香ことブリッツが慌てて庇い、繰り返し放つ

電撃弾も特にかわすでもなく、小さな鈴付きの杖で軽くいなしては真っ直ぐに進む。

「その御孫さんは紛い物。いずれ別れなければならない運命だ」

「貴方の願いは……亡きご本人への侮辱ではありませんか?」

「うるせえッ!!」

 あくまで淡々と、静かに詰めるように指摘されて引き攣る浅田ではなく、代わって怒り叫

んだのは二見ことブラストだった。勇に対し、筧ことブレイズと共に劣勢に追い遣られ、肩

で息をしながらも、その恨みのエネルギーは尽きない。

「他人の相棒ダチを奪った奴らが、偉そうに言うんじゃねえよ……。所詮はてめらの都合で、あ

んな物を押し付けてきやがった癖によお!!」

『……』

「額賀さん……」

 おそらくは彼自身、特大のブーメランとなって黒斗の言葉が返ってきていたのだろう。

 かつてカガミンことミラージュ・アウターと心通わせ、同好の士として共に暮らしていた

時期のあった二見。だがそんな楽しかった日々も、睦月ら対策チームの台頭と勇、後の七席

となるエンヴィーこと龍咆騎士ヴァハムートの核たるドラゴン・アウターによって失われた。もう二度

と……。そう願って、紆余曲折あって再び手にした力だというのに、今まさに目の前で悲劇は

繰り返されようとしている。

ひょうさん! 真形態トゥルースだ! 俺に真形態トゥルースを使わせてくれ! 俺がこいつらを押さえる! その

間に、じいさんと草太を安全な所へ!」

 だがそんな、半ば衝動的な二見からの懇願に、対する筧はすぐに首を縦には振ろうとしな

かった。パワードスーツの下、勇と繰り返し攻防を続ける中で、その表情は渋面に曇ってい

る。現実的に考えても、今この場で変身状態を一人に集中させるリスクの方が高いと考えた

ためだ。何より幹部級二人との同時戦闘では、殿しんがりはおろか自分達の力が通用するかも分から

ない。

「──」

 そんな最中の出来事だった。おそらくはネイチャーも、目の前の現実を受け入れざるを得

なかったのだろう。それまで浅田と共に、筧達に守られるだけだった彼が、ふいっと数歩前

に歩み出た。三人と勇・黒斗側、双方がその動きに意識を向けられる中、この少年の姿をし

た“怪人”は言う。

「額賀君、筧さん!」

『!?』

 するとどうだろう。直後彼は本来の姿──葉や茎、茨といった植物パーツばかりで構成さ

れた人型の怪人態へと姿を変えると、前衛に立つブラストとブレイズに向かって叫んだ。

 ほぼ反射的に飛び退いた二人と、数テンポ反応に遅れた勇及び黒斗。草太──ネイチャー

が地面をダンッ! と叩くと、彼らの足元から巨大な植物の檻が、この“敵”二人を包み込

むようにして飛び出して強襲。閉じられる。

 暫し沈黙する一帯。唖然とする筧達。

 だがそんな暇すら惜しいと言わんばかりに、ネイチャーは叫んだ。最期の、大切な人を守

る為の決断を、彼らに託す。ただその目的の為だけに。

「さあ、今の内に! ……じいちゃんを、頼む」

 筧達三人も、その自己犠牲いとするところはすぐに解った。解ったからこそ、すぐには駆け出せなかった

が、逸早くこれに応じて動いたのは他でもない筧だった。「草太ァ!」同じく理解し、必死

で留まろうとする浅田を、筧は急いで確保しつつ走り出す。二見と由香も、彼に「急げ!」

と喝破され、ギリギリまで後ろ髪を引かれる思いのまま後に続く。

「……」

 そうして遠ざかってゆく三人と、浅田そふの姿。ネイチャーこと浅田草太は、何処か哀しげに、

同時に満足そうに微笑んでいた。

 だが現実は非情である。それまで勇と黒斗を押さえ込んでいた巨大植物の檻が、次の瞬間

激しい熱気と共にバラバラに消し飛んだのだ。

「……」

 勇のスチームフォームだった。パワードスーツのライト眼からも、その怒りと殺気は十二

分に伝わり、濛々と立ち込める蒸気の残り香と共に『5647』を入力。鋏状の大型アーム

たるティラノ・モジュールを装備する。

 引き延ばされた時間、最期。地面を蹴り、こちらへ獣のように飛び掛かってくる勇の姿を

見上げつつ、ネイチャーは浅田のことを想った。どれだけ逃げられただろうか? 時間稼ぎ

にはなったろうか? 少なくとも彼は、これで命まで狙われる理由は無くなる筈だが……。

(ごめん、じいちゃん。これ以上一緒には、もう──)


「ばっ、化け物……!」

「電脳生命体! 電脳生命体だ! 逃げろォォーッ!!」

「えっ? どういうこと? 役所の方から出て来たけど……。あいつらってこんなにデカく

なるんだっけ?」

「知るかよ! 早く逃げないと巻き添えを食らうぞ!」

「ねえ。さっきビルの方から……誰か降って来てなかった?」

「ああ、見た。多分守護騎士ヴァンガードだ。実際あの化け物を押さえてくれてる」

「もうどっちが化け物か分かんねえな。怪獣映画じゃあるまいし……」

 睦月が皆に出した案は、銀の強化換装・ダイダロスフォームの鋼巨人形態による、敵の撃

破と“壁”の除去だった。重くて且つ引き剥がされない。海沙が呟いた一言がその発想に至

る切欠となった。当局が板倉を確保しに向かうタイミングに合わせ、睦月以下対策チームの

面々が周辺のポイントに待機。不測の事態に対処する。

『ヴォ……ォォォォッ!!』

「ぐっ!? 大人しく、しろ……ッ!!」

 案の定とでも言うべきか、漠然とした不安は的中した。始めから鋼巨人の形態を使う心算

でいた分、敵の抵抗・暴走に対し即座に対応することは出来たが、問題はここからどう事態

を解決するかである。巨大化したバリケードの腕一対と掴み合いになり、コックピット足場

内で操作する睦月は顔を顰める。迫る圧とパワーは、思った以上に強い。

(前にこのフォームで戦った時は、人の寄り付かない工場跡だったけれど……。今回は街の

ど真ん中、役所前の広場だ。このままやり合ったら、周りの被害が大き過ぎる……)

 何より問題は、アウターが現れたこの場所だ。咄嗟に止める為飛び出したとはいえ、戦闘

それ自体は人気の無い、別の何処かに移す必要がある。

『ヴォアッ!』

「うっ──?!」

 しかし当のバリケードは、勿論ながらそんな事情を顧みてくれはしない。

 初手の腕一対を押さえられ、この暴走巨体は残る二対の拳を次々に叩き込み、こちらの掴

みを剥がしに掛かってきた。鋼巨人越しの衝撃に思わず、睦月は顔を顰めてふらつく。

「佐原君、佐原君!」

 ちょうど……そんな時だった。ふとコックピットが拾ってくれる音声の中に、聞き覚えの

ある声がこちらに呼び掛けているのに気付いたのだ。

 赤桐達である。システム側が支援アシストし、半壊した庁舎の近くでこちらに手を振って見上げて

いる、彼らの姿を映し出す。面々は巨大化したバリケードの胸元を指差しながら、必死にも

う一つの課題ミッションを伝えてくれた。

「その怪物の中に、板倉が呑み込まれている! このまま戦っては駄目だ!」

 ハッと目を見開き、睦月は急ぎでその事実、ポイントを探す。同じくシステム側の補助に

よって、それは程なくして見つかった。こちらからの視界ではやや下、胸元から垂れ下がる

肉の一角に、確かに意識が朦朧としたままの板倉が囚われている。

「皆人。奴の身体に……」

『ああ。こちらでも確認した。先ずは彼を、本体から引き剥がさなければならないな』

 司令室コンソールから面々を指揮する皆人達も、赤桐らの発言は聞いていた。優先順位が変更される。

加えて曰く、もし板倉を核として動いているならば、これを取り除くことでアウター本体

の弱体化も同時に狙える可能性がある、と。

「パンドラ。板倉さんのいる部分だけを切り取るって……出来る?」

『はい、任せてください。精密作業そういうことなら、私の出番です!』

 ならば……。睦月は数拍思案し、EXリアナイザ内に挿入されたままの、電子の相棒に向

けて訊ねた。鋼巨人の形態ではパワーこそ発揮できるが、そのような細かい作業には向いて

いない。ここはアウター本体を押さえる側と、救出する側で分担した方が良いと考えた。

『ダイダロスフォームの特性と、シルバー・コンシェルの能力を使います! マスターはそ

の間、本体の動きを!』

「ああ!」

 再度こちらに迫ってくる、バリケードの三対の拳。パンドラの時間稼ぎの為にも、睦月は

これを何とか止めなければならなかった。先ずは一対、二本。残り四本の拳で脇腹や顔面を

殴られるも、睦月は気張ってこれを掴んで離さなかった。「ったいなあ!」ぐぐいっと鋼

巨人の腕力で左右双方向に引っ張ると、前のめりになった相手の体勢、顎下へと強烈な膝蹴

りを一発。その隙にこの一対の腕を引き千切ると、ふらつく身体へ追撃──背中に負ってい

た大盾と鎚の下端を、残る二対の腕に左右それぞれ突き刺して固定。更なる反撃を含めて封

じる。

『目標座標計算……完了。聖撃テイルスマン開始ゴー!』

 そしてパンドラが、そんなグラつく巨体同士のやり取りの中で、囚われた板倉の分離・切

除作業に掛かる。

 アイアン・コンシェルの組成コンポーズ能力により、新たに鋼巨人の胴体から細く長い補助用アーム

を形成。更にその先端に、シルバー・コンシェルの浄化の炎熱を纏った電動カッターを取り

付けて敵本体へ接触。プログラム特有の正確無比な刃捌きでもって、見事肉の中に埋もれて

いた板倉の救出に成功した。

『はい、どうぞ! 後はお願いします!』

 そのままずずいっと、地上にスタンバイしていたリアナイザ隊の一団に、肉塊ごと板倉の

身柄を。ついでに睦月が千切り取った腕一対も、同じくそっと傍へと置く。ぬるぬるでお世

辞にも綺麗とは言い難いそれに、彼らも思わず顔を顰めていた。

「了解……うっ!? 気持ち悪ッ!」

「どうやら脈は……未だあるみたいだな」

「まあ正直、再起可能なのかは怪しいがな……」

 これで目下の課題は、一つクリアされた。隊士達が板倉を抱えて離脱してゆくのを確かめ

てから、睦月は目の前のバリケード本体を注意深く見据える。皆人の推測通り、どうやら暴

走時に核となった板倉を失ったことで、その動きは大きく鈍ったようだ。ふらふらと穴の空

いた身体のまま、その場で反撃をするでもなく揺らいでいる。

「よしっ!」

 そして睦月は、残るもう一つの課題に立ち向かう。言わずもがな、目の前のバリケード。

暴走状態からの変貌で、最早元の姿にさえ戻ることはないであろうその討伐だ。

 人々が逃げ惑う、この庁舎前広場では、満足に戦うことは出来ない。仮に撃破することが

出来ても、その爆発四散の余波で多くの犠牲者が出るだろう。

(だったら……“上”でやるしか、ない!)

 コックピット足場内にて絶叫。雄叫びと共に、足元から掬い上げられた鋼巨人渾身のアッ

パーカットは、抵抗の術を失ったバリケードの身体を大きく空中へと吹き飛ばした。「此処

からじゃあ、全部は捉え切れないけど……」その間に睦月は、鋼巨人の両腕を左右に掲げて

組成コンポーズ──現場周辺から視認できる幾つかの“壁”を材料に、新たな鉄槌を作

り出した。ぐぐっと腰を落として肩に担ぎ、目標を見据える。バリケードの身体は幾度とな

く錐揉みし、既に落下段階へと移り始めていた。

「チャージ!」

『PUT ON THE ARMS』

 直後、鉄槌の背面部分から唸りを上げたのは、大量のジェット噴射。睦月を乗せた鋼巨人

の身体は、そのままロケットの要領で空へと飛び上がり、追い付き間合いに捉えたバリケー

ドに必殺の一撃を強打。その肉塊を捻じ切るようにして粉微塵に砕いてしまったのである。

「や……やった!」

守護騎士ヴァンガードが、守護騎士ヴァンガードが……やったぞぉぉーッ!!」

 地上の人々は、これら一部始終を、固唾を呑んで見守っていた。祈るようにして一様に空

を仰ぎ、この肥大化した怪物が消滅するさまに歓喜の声を上げた。同じく現場に展開してい

た冴島や國子、仁・海沙・宙他隊士達も、睦月かれの勝利に安堵の表情を浮かべる。互いに苦笑

を浮かべたり、ハイタッチをしたり。少なくとも新たな“壁”は、もう作られることは無い

だろう。

「……」

 鉄槌を振り抜き、勢いのまま暫しの空中浮遊。

 コックピット足場内で、当の睦月もそんな地上の面々の姿を見つめていた。フッとパワー

ドスーツの下の素顔に、穏やかでぎこちない笑みが零れる。

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