表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-60.Execution/君の自由は我等が敵也
462/526

60-(5) 防がなければ

 飛鳥崎文武祭を襲った怪物達の群れ──パンデミック・アウターらの姿をニュース映像で

目の当たりにし、板倉あつむは激しい衝撃を受けた。

 現場となったセントラルヤードは勿論、その破壊された道中。パンデミック達の進撃それ

自体は、守護騎士ヴァンガード以下有志連合の活躍で終止符が打たれたものの、その後の復旧作業に土木

課の一員として関わって痛感した。あんな化け物達が闊歩するような街では、とてもじゃな

いが安心して暮らせない……。

 彼は内心、強い危機感と恐怖を抱き、苛まれてきた。加えて一連の元凶、パンデミック達

を生み出したのが、集積都市に恨みを持つ“郊外民”だと後に知ってからは、その思いは一

層増してゆくことになる。ある種の、強迫観念に似た思想へと変じてゆくことになる。

(──奴らは危険だ。飛鳥崎から締め出さなきゃならない)

 彼からすれば、郊外民とは元より、集積都市という“合理化”に抵抗してずるずると衰退

しているだけの者達といった認識だった。格差が生じるなど当たり前であり、だというのに

彼らの為に、大なり小なり行政のリソースが使われる。その現実に、かねてより彼は憤りに

近い“不正義”を感じていたのだった。

 だというのに、恨まれるだなんて、馬鹿げている……。冗談じゃない。

 只でさえ、街の中ですら、日々開発や競争に追われているというのに。自分だって、何時

転落するか分かったものじゃない。

『──だったラ、君がその歪みを正せばいい。幸いにも我々にハ、その手段があル』

 あの男と出会ったのは、ちょうどそんな矢先の出来事だった。

 街の表通りから少し入った所、ビルとビルの狭間。真っ昼間に昇った太陽の逆光で、終ぞ

その人相は判らなかったが、彼の言うことも尤もだと思った。誰かがやらなければ、現実は

決して変わってはくれない。行政とは、ある意味その究極の“擦り付け”先でもある……。

『でも……』

 だが当初、差し出されたそれを見て板倉は迷った。男が自分に渡そうとしてきたのは、あ

のリアナイザだったからだ。

 元を辿れば、例の怪物達と同じ力。そもそも現在は、製造・販売元のH&D社によって、

自主回収が進み禁制の品となっている筈……。

『ああ、解っているサ。この国では、同じ穴の狢と云うんだろウ?』

『だがこれは“選別”ダ。大いなる発展の為にハ、多少の犠牲が付き物じゃないかイ?』

『……』

 しかし結局、板倉は差し出されたそれを──違法改造されたリアナイザを受け取ってしま

った。男の言うようにこれは必要な選別。この国が進もうとしてきた流れに、逆行する者ら

を排除する為の闘いだ。奴らとは違う。今度こそ、自分がこの飛鳥崎の街を守るのだと。


(参ったなあ……。よりにもよって、俺の時に限って、奴らの“共闘”とかち合っちまうだ

なんて……)

 所は飛鳥崎西市役所の食堂、時は昼休みの混雑期。

 板倉は独り、席の一角で定食メニューを頬張りつつ、悶々と今後の立ち回りについて悩ん

でいた。言わずもがな、自身の使役する檻兜のアウター・バリーと“壁”の建設計画の話で

ある。

 数日前、新たな“壁”を造っていた際、守護騎士ヴァンガードや有志連合のエージェントらに見つかり

戦闘となった。加えて場には、当局の捜査員達まで同行する始末。

 完全にこちら側の動きが警戒され、スクラムを組まれていた格好だった。これでは次の、

残っている“壁”の造成にも迂闊に掛かれない。あの夜は幸か不幸か、幹部クラスらしい個

体らが割って入って来たことで、こちらも逃げることが出来たが……結局口封じに始末する

ことは叶わなかった。しっかりフードは、顔は隠していたので、バレてはいない筈だが。

(建てる順番を変える? いやいっそ、予定の外周はんいをごっそり広げて──)

 だが事態は、そんな板倉の予想を更に斜め上へ行って変わりつつあったのだ。何気なく手

元に置いて、ながら視聴していたデバイスのニュース中継。その画面に、当局主導で既存の

“壁”が一斉撤去されるとのテロップを目の当たりにしたのである。

『ご覧になられるでしょうか? 現在、実に三十台以上もの重機が集まり、あの積み上げら

れた金属の塔を解体すべく──』

「っ……?! げほっ、ごほっ!?」

 思わずむせて、されど画面に齧り付くように見る。

 そこには確かに、先日自分とバリーが建てた“壁”の一つへと、クレーン付きの重機達が

群がっている様子が映し出されていた。それらの光景をやや遠巻きから、ヘルメットを装着

したレポーターが中継している。

(ま、拙い。拙い拙い拙い! そう来たか……そうだよな。バリーをどうにかするよりも、

先ずはモノを退けた方が被害は減るか。落ち着いてやがるな……)

 正直、板倉は戸惑っていた。どうする? こっちはどう出れば最善だ?

 まさか真っ昼間に、バリーを出して邪魔しに行く訳にもいかないだろう。流石に今の今で

は、人の目が多過ぎる。どうやらのんびり考えている暇は無さそうだった。急いでこちらも

動き、本来の“壁”を完成させなければ。危険な郊外民を締め出さなければ──。

「電脳生命体対策課だ! 板倉専! 不法投棄及び窃盗、ほか電脳生命体特措法違反の容疑

で逮捕する! 確保ォーッ!!」

 だが事態は更に怒涛の展開を迎えた。板倉の抵抗すらも許さなかった。直後赤桐以下中央

署のメンバーが、逮捕状を片手に食堂へと乗り込んで来たからである。騒然とする堂内、告

げられた名を聞いて、えっ? と一斉にこちらを見遣ってくる顔見知り・同僚達の眼。

 その逡巡、緊張がいけなかった。

 赤桐はあくまで皆を引き付ける囮役。実際の確保を担当する刑事達は、既に板倉の背後・

周囲から接近し、彼を押さえに掛かってきたのである。「は、離せぇぇぇーッ!!」人ごみ

に紛れ、或いは包囲された中での逮捕劇。板倉はその強襲に為す術もなく、床に捻じ伏せら

れる。懐に隠してあった改造リアナイザとデバイスも掴まれ、取り上げられようとする。

「見つけました! リアナイザです!」

「よし、現行犯確保! 奴から引き離せ!」

「っ……!!」

 しかし結論から言えば、これは一方で彼を追い詰める要因となったのだ。最早逃げ場もな

く、且つ大願を破られる未来が見えた板倉は、最後の力を振り絞って抵抗する。右手に握っ

ていた改造リアナイザに、口で懐から取り出した“赤黒いマズル”をセット。殆ど獣のよう

な雄叫びで、その引き金をひく。

『?!』

「しまっ──」

「ぶっ潰せぇぇぇ、バリィィィーッ!!」

 刹那、食堂を中心とした庁舎は縦方向に吹き飛んだ。大量の土埃から這い出るようにして

現れた、恐ろしく巨大化した檻兜のアウター・阻塞バリケードによって、場に居合わせた人々は只々逃

げ惑うしかなかったのである。巻き込まれていったのである。

「ア……。ァァ……」

 されどそんな巨大化したバリケードの肉体には、他でもない当の板倉自身も呑み込まれて

しまっていた。いや、取り込まれていると表現した方が正確だろうか。

 赤黒く発熱し、滾る肉塊の奥へ奥へと、その身体は少しずつ引き摺り込まれているように

見える。意識も手放しかけ、最早正気は失われつつある。

『──マスター! あれ……!』

「うん。前に何度か見た、黒いチップの親戚かな? とにかく碌な物じゃなさそうだけど」

 ちょうど、その時だった。

 目の前で広がってゆく地獄絵図。そんな板倉及びバリケードの暴走状態を見て、遠巻きの

ビルの屋上に立っていた睦月とパンドラは、まるで待ち構えていたかのようにEXリアナイ

ザを取り出した。デバイスは既に彼女込みでセッティング済み。耳に付けたインカムからの

指示を、混乱渦巻く眼下の光景を背後にしながら、彼は躊躇なく跳んだ。コンクリ敷きの地

面を駆け抜け、同時にホログラムの操作画面を操作──初手から決戦の強化換装へと変身を

敢行する。

『DIAMOND』『IRON』『GOLD』

『SILVER』『COPPER』『QUARTZ』『MAGNESIUM』

『TRACE』

「変身!」

『ACTIVATED』

『DAEDALUS』

 暴走・巨大化したバリケードに負けず劣らず、空中で組成コンポーズされた鋼巨人。

 銀を基調とした通常の強化換装、パワードスーツ姿の睦月をコックピット足場内に組み込

んで、両者は着地の反動もそこそこに激突する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ