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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-58.Target/拗らせた者達の連鎖
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58-(3) 基地(す)ごもり

 海沙や宙、皆人に陰山さん、大江君、七波さん──大切な人達を巻き込みたくない。

 デスからの襲撃を切欠に、睦月は対策チームの地下司令室コンソールに身を寄せ、籠ることになった。

クラスの皆や教師陣を守る為なら、ただ学園コクガクを休めば良いだけだが、飛び火が何処まで及

ぶか分からない。輝達の安全を考えれば、自宅に居ることすらも避ける必要があった。

(──はあ)

 今頃、皆人達はどうしているのだろう? またあのアウターが現れたりはしていないだろ

うか? 七波さんも出て来なくなったと聞くし、一転して持久戦の様相を呈しつつあるのか

もしれない。

 半ば自主的な避難生活から数日。自宅に帰れず、地下空間に缶詰めとならざるを得なくな

った睦月は、流石に内心参ってきていた。口を衝いて出て来そうな溜め息を、ぐっと喉奥に

押し込め、司令室コンソールの一角で黙々と自習に励む。

 今日もまた、海沙や皆人に授業のノートを借りた方が良いかな……?

 各教科の進み具合は亀足だが、それも日数が経てば経つほど、ブランクは大きくなる。最

悪、母・香月という天才に教えて貰えれば良いとはいえ、そもそもこんな状況になったのは

自分の所為だ。なるべく負担を増やすような事はしたくない。

(本当……凄いよなあ。対策チームに入ってから、母さんはずっとこういう生活を続けて来

たんだもの)

 メインフロアの片隅から、そうチラッと、睦月は現在進行形で分析作業に当たっている研

究部門の面々を見た。今やその中核、なくてはならない存在となった母・香月や部門責任者

たる萬波の横顔を眺めつつ、改めて採れる選択肢は“耐える”以外無いと思い直す。

「──出現時間そのものは長かったですが、実際の戦闘行為は半分以下でしたからね。有意

な波長データはどうしても限られてしまう」

「解った上での立ち回りか、それともただ単純に、睦月君に執着して長々と追って来ていた

だけなのか……。どちらにせよ、召喚主の身元が判らないことにはアプローチの仕様があり

ませんね」

 事実、先の戦闘記録ログの分析は困難が続いているようだった。二人は勿論、他の研究員らも

判断材料が足りないと、一様に行き詰まりを口にしている。敢えて前向きな捉え方をすれば、

敵の特性──透過能力を把握できた点を挙げられるのだろうが、それと実際に対策が採れ

る・見出せるかは別問題である。

「思っていた以上に厄介だな。これまでは、守護騎士ヴァンガードの出力強度で大抵の敵を押し切れては

いたが、今回は完全に裏目に出ている。こちらがどれだけ強力な攻撃を放とうとも、全てす

り抜けられてしまってはどうしようもない」

「司令のコンシェル達も、全く援護になっていませんでしたからねえ……」

「あれから、ご本人も色々策を練ってはおられるようですが、まだ確証ピースが揃っていないって

感じですしね」

「せめて何か、別の取っ掛かりがあれば状況も変わるんだろうがなあ……。今回の個体は、

そもそも実体化前のようだったし……」

 加えて困難さを嵩増しさせていた要因は、もう一つある。件のデス・アウターが、どうや

ら未だ召喚主の制御内──実体化以前の段階にあるらしいという点だった。つまり相手が任

意に改造リアナイザの引き金をひかない限り、その居場所をこちらが察知するのは難しいと

いうことだ。香月もコクコクと何度か頷き「盲点だった」と認めざるを得ない。

「個体一体ずつがどんどん強力になってゆく中、私達もそのエネルギー反応に頼り過ぎてい

たきらいはあるわね……。海沙ちゃんのビブリオみたいに、個々の改造リアナイザ自体の所

在を探知出来るような仕組みを構築しないと……」

 とはいえ、それも主に物理的な要因で難しいとのこと。リアナイザ自体は本来、H&D社

が開発した物──敵性の商品であり、尚且つ市中には他にも大小無数の電波が日夜飛び交っ

ている。リアナイザだけをピンポイントで絞り込むより先に、何かしらの方法で誘き出した

方が早い。

「……ごめんなさい。今度はもうちょっと、長く引き付けておきますから……」

「あ、いやいや! 睦月君が謝ることはないよ?」

「そうよ? 一番の目的はアウター達の脅威を排すること。データを取ろうとするのは、あ

くまでその手段」

 だからこそ睦月は、傍観し続けていることが出来なかった。つい口を挟んでしまい、今回

もまた迷惑を掛けてしまっていることを詫びると、香月を含めた全員から苦笑いや説得とい

った反応が返ってくる。気遣われる。

「それはそうだけど……。でも結局、自分だけが隠れて、皆人達が学園コクガクで針のむしろにされ

て……」

「いや。皆を守る為なら、これが現状最善手だったんだ。実際三条司令もそう判断した。何

より、君の決めた選択みちを支えるのが、私達裏方の役目だよ」

「萬波さん……」

 罪悪感があった。後ろめたさは常に、心の何処かに巣食っていた。

 それでも大丈夫だと、彼らは言ってくれて。だけども、その優しさを理解・咀嚼出来てい

るからこそ、睦月は尚も救われることは無かったのだ。じんと、心は彼らチームの仲間達に

打たれているのに、一方でまた新しく罪の意識は生成されてゆく……。

「主任の言う通りよ。だから睦月、独りで……突っ走らなくていいんだからね?」

「……。うん」

 セントラルヤードでの身バレいっけんを指すのであろうか。香月も付け加えて、そう我が子兼秘密

兵器・守護騎士ヴァンガードの装着者に言う。

 当の睦月は、静かに頷いていた。言葉少なげに退いてみせるしかなかった。

(香月君……。やはり君達は、親子だよ……)

 萬波以下、他の研究員や制御卓前の職員らも黙り込んでいる。

 せめて奴がもう一度、姿を現してくれれば。

 そうすれば次こそ、十二分なデータが採れる。召喚主の居場所を追ってみせる。今度こそ

確実に倒し、この膠着し始めた状況を打破したい──。

「……?」

 ちょうど、そんな時だった。ふと睦月のデバイスから、それまでの重苦しさを一変させる

ような着信音が響き渡ったのだ。香月や萬波達も何だろう? と、誰からともなく視線を向

けてくる。

 あ、すみません──。面々に見守られる中、睦月はその場を立ちながらデバイスを取り出

し、通話ボタンをタップした。『マスター、マスター!』パンドラが画面の中から指差し、

表示されていた名前は、佐原母子おやこもよく知っている人物だった。

『あ……もしもし? 睦月君? 私です、亜里沙です。秘密基地、だっけ? 香月さんや有

志連合の方達も……そこに居るのかな?』

『その、ね? 今ちょうど、こっちに海之が訪ねて来てて──』

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