56-(0) 数に呑まれる
(大変遅くなりました。申し訳ございません)
『あば、ばばばばばっ……!!』
ギョロ眼のアウター・パンデミック達の数の暴力に、睦月らの防衛線は遂に崩されてしま
った。各々の“個”は既に無く、ただ前へと進む“全”。こちらが踏ん張ろうともままなら
ず、何より押し返すには兵力差が圧倒的過ぎた。加えてそうして揉みくちゃにされ、転がさ
れてゆく間にも、相手側は尚も「増殖」し続けている。
『睦月、國子ちゃん、大江君! 一旦退いて!』
『もう一度、奴らの進行先に召喚するんだ! 隊員全員で掛からなければ、最早防げん!』
司令室から、そう通信越しに香月と萬波が呼び掛けてくる。
だがそれでも最初、この指示を耳にした睦月達は、思わず苦渋の表情を浮かべざるを得な
かった。
「えっ? でも……」
「合流するまで、こいつらはどうするんスか!? 俺達全員が束になったとしても、この数
じゃあ……!」
『そ、そうですよお! せめて会場の人達を遠ざけ切ってからでないと、大量の犠牲者が出
てしまいます!』
『だからこそだ。こちらが崩された今、立て直さなければ結果は変わらん!』
『今、最寄りのデータを送るわ。そこから一旦地下を通って、司令室に戻って来て! 急い
で!』
「……」
反発と反論、立て続けの指示。刻一刻、まるでうねる濁った塊のようにパンデミック達に
運ばされる感覚と、間延びする思考の体感時間。
母らの声を聴きながら、睦月は迷っていた。説き伏せられた相棒と同様、先ず思ったから
だ。目的の為とはいえ、たとえ一時であっても、それは彼らを“見捨てる”ことにならない
か……?
「チッ、仕方ねえか……。おい、佐原! ぼ~っとしてる暇なんざねえぞ!」
「私達は先に行きます。司令室で合流しましょう!」
『合流しましょう!』
しかし現実は問答無用で進行している。躊躇っている間にも、仁や國子、二人が率いる隊
士の面々が次々に同期を解除し、そのコンシェルごと姿を消してゆく。
守護騎士姿の睦月にも、パンドラ経由で最寄りルートの地図情報が送られてきた。面貌の
下、視界に表示されるホログラムが導くままに、パンデミック達の群れから辛うじて覗いた
地面──マンホールの取っ手へと手を伸ばした。直後、舞い戻った体感時間が、ドドドッと
辺りに轟音を撒き散らす。
『アッ……!』
『ア゛ア゛ア゛ッ……!!』
かくして場を通り過ぎてゆく、濁った体色とギョロ眼のアウター達。
睦月らの姿は、すっかり消え失せていた。遠巻きからは、まるで力及ばす呑み込まれてし
まったかのように、この異形の群ればかりが石畳の上を遮蔽・蹂躙してゆく。




