55-(4) 裏に徹さむ
『結論から言うと──大当たりよ。三条君の勘は当たっていたわ』
時は戻り、飛鳥崎文武祭。中心区・セントラルヤード。
クラスのメイド・執事喫茶が賑わいを見せる中、皆人は独りこっそりと店舗裏に抜けて連
絡を取り合っていた。デバイスの向こうから聞こえてくるのは、司令室に詰める香月や萬波、
ないし冴島達である。
『例のギョロ眼のアウターだが、以前にも似たような襲撃事件が何件が起きている。どれも
これ散発的で、郊外だった所為もあり、私達もすぐには把握出来なかったのだが……』
皆人は彼らに、先のギョロ眼のアウター達についての追加調査を頼んでいた。奴らの正体
は何なのか? 過去に類似した事件はなかったか──? はたしてその答えはイエスだった
のである。
データを送るよ。萬波に言われて、一旦デバイスを耳元から話して画面を見る。
そこには確かに、類似した事件がここ二・三ヶ月の内に集中して起こっているさまが示さ
れていた。地図上へと落とし込むと、事件は全て飛鳥崎の郊外──街の北西から市中方面へ
と点の集まりが延びてゆこうとしている。先日の一戦も北西の端だった。
「やはりか……。事件は未だ、終わっていない」
皆人は思わず、顔を顰めて唸っていた。嫌な予感とは、往々にして的中してしまうものら
しい。よりにもよって、文武祭が行われている真っ最中に。
仁や宙から“群体”という特徴を聞いた時点で、怪しんではいた。もっといるのではない
かと思った。姿形も量産型ではないというのなら、尚の事。
その時はまだ、ぼんやりとした仮説の域を出なかった。もしかたら奴らは、数そのものが
特性のアウターなのかもしれない、と……。
だからこそ皆人は、チームの息が掛かった工作員や兵力を市内の各所に配置させていた。
実現が難しくとも、香月達には調整を急がせた。
「香月博士。例の作業の方は……?」
『ええ、一応間に合わせたわ。出来れば、使わずに済むことを祈っているけれど』
中央署での一件以降、守護騎士──自分達対策チーム、こと仁や宙など元のTAユーザー
を中心とした身バレ情報が、アングラ界隈のネット上に出回り始めている。その都度こちら
が密かに手を回して、消して回ってはいるが……そんな人海戦術にも限界はある。秘匿しよ
うとすればするほどに、一部の者達は寧ろその逆張りを往くものだ。
“蝕卓”の差し金? いやそれ以上に、市民ら自身の暴きたいという欲求が勝っているの
だ。中には自分達以外のこれと対抗、擁護・反論する者らの存在も確認しているが……現状
覆すほどの勢力ではない。
(まさか、な)
平穏は壊される。それでも限界まで、皆人は睦月らのそれを守りたいと願った。同時にそ
れは、彼なりの、七波由香への償いでもあったのだろう。
せめて、この文武祭ぐらいは……。折角クラスの面々とも、期せずして融和が図れる機会
なのだ。出来ることならその一時を確保してやりたい。彼女絡みの一件も含め、本来は関わ
る必然性など無かったのだ。睦月や海沙、宙に仁。彼ら親友達もまた、こちらの見通しこそ
甘くなければ、同じくここまで足を踏み入れる必要など無かったのだから……。
「──!?」
『? 司令……?』
『な、何? どうしたの?』
だがしかし、現実は非情である。
皆人がそう確認と思案に呑まれそうになっていた最中、異変は訪れた。店の方、会場方面
全域から、何やら騒々しい轟音が聞こえ始める。




