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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-54.Trinity/噛み合う歯先は刃の如く
417/526

54-(7) インターフェーズ

 飛鳥崎市内北西端。中央に比べ、明らかに持続的な開発の波に取り残されてしまったその

地域の一角で。

 幸か不幸か、この日現場を巡回していた幾人かの警察官達は、突如として姿を見せた怪人

らの一団──いわゆる電脳生命体と遭遇。果敢にも戦闘を繰り広げていた。

「ひいっ!? ひいっ!!」

「撃て、撃て撃て! 撃ちまくれーッ!!」

 されど……数こそ拮抗していても、相手は尋常ならざる存在。必死になって放つ銃弾は、

ことごとくその硬い外皮に弾かれ、傷一つすら付けられないでいた。逆にその間に距離を詰

められ、肉薄され、一人また一人と横列を崩すように押し倒される。

「ぐあっ!?」

「岩田!」

「くそっ、駄目だ! 俺達だけじゃあ押さえ切れない……!!」

 現れたアウター達は、皆全く同じ姿形をしていた。死んだ金魚のようにギョロついた両の

眼と、濁った体色。だらりと口元が弛緩し、均整の取れていないその立ち姿は、およそ人語

を解し操れるような理性が備わっているとは思えない。

「アァァァァァーッ!!」

「ぐっ……!?」

 防衛ラインを崩され、仲間達がどんどんこの怪物らの餌食となってゆく。最後まで立ち向

かい続けていたこの中堅警察官も、遂にはギョロ眼のアウター達の一体に飛び掛かられ、手

に握っていた拳銃を吹き飛ばされてしまった。

 何でこんな、郊外も郊外な場所に? 中央署の一件以来、自分達組織はガタガタになって

しまった。

 復興までまだまだ道半ば。こんな所で、こんな訳の分からないまま死ぬなんて──。

(えっ……?)

 しかしである。ひび割れたアスファルトに倒れ込み、自身の最期を覚悟した彼が次の瞬間

に感じ取ったのは、何者かに腕を掴まれて支えられる感触だった。加えて思わず見上げ、敵

を振り解いてくれたらしいその人影に、彼は強烈なまでの見覚えがあったからだ。

「ま……まさか」

「筧、刑事……??」

『──』

 嗚呼、間違いない。蓄積された疲労とダメージ、手放し始めた意識の片隅で、彼はそのま

ま白目を剥いて気を失う。力の抜けたかつての同胞の身体を一旦、そっと後ろに寝かせてや

ると、筧は改めてこの迫りくるアウター達の一団を睨んだ。ジリジリと、こちらの様子を窺

うように身体を揺らしている。警戒し、突出する別の個体だれかを待っている。

「ったく……。相変わらず惨いことしやがる。ひ~、ふ~、み~……。ざっと二十体って所

ですかね」

量産型サーヴァント……じゃねえな。形が違う」

「え? でもこいつら、全員同じ格好してますよ?」

「そういう能力なのかもしれん。油断するなよ? 奴らが何の意味もなく、こんな全く同じ

見てくれを増やすとは思えない」

「……。ういッス」

 警察官を寝かせた彼の横で、二見が青いデバイスカードを弄びながら言う。筧もじっと相

対するこの個体達を観察していたが、開口一番、不審を抱いたのはそんな相違点。

「七波君は?」

「さっき連絡を入れました。今向かって来てくれてる筈ですけど……」

「なら合流するまで、俺達で止めるぞ。いいな?」

「勿論。寧ろここで片付けてやりますよ!」

 とにかく、目の前のこいつらを退治しなければ……。

 筧は懐から、丸く小型の三人共用式のリアナイザを取り出した。同じく赤いデバイスカー

ドを片手に。三つ穴の弾倉シリンダーを回転。内一つに挿入し、正面敵に向かってその引き金をひく。

『TRINITY』

『BLAZE』

 銃口から赤い光球が飛び出し、襲い掛かろうとしたギョロ眼のアウター達を次々に撥ねて

旋回した。引き続きこの共用──トリニティ・リアナイザを右隣の二見へと渡し、彼も同様にして青

い光球を射出する。

『TRINITY』

『BLAST』

 二つの光球は、全く同じ軌道を描いて筧と二見の頭上から降り注いだ。めいめいの色彩と

デジタル記号の輝きに包まれて弾き、二人は赤の獅子騎士トリニティ・ブレイズ青の獅子騎士トリニティ・ブラストとなって変身完了。

剣と棍を握って地面を蹴る。

『オァァァァァァッ!!』

 数の上では二十対二、こちらの方が明らかに不利だ。しかし筧ことブレイズの炎を纏わせ

た剣と、二見ことブラストの冷気を纏わせた長杖は、迫るこれらの第一波を難なく止めてみ

せたのだった。押し返し、斬り付け、叩き返す。どうやら個々の力はそこまで大きくないよ

うだが……それでも量産型サーヴァントに比べればずっとタフであるように思えた。何より一発二発とダ

メージを与えても、相手は殆ど怯む様子を見せなかったのである。

「チッ。理性が吹き飛んでる分、しぶといな。いや、そもそも本当に、こいつらは俺達を狙

って来ているのか……?」

「考えるのは後ッスよ、兵さん! 今はこいつらをぶっ倒して、寝てるお巡りさん達を病院

に運ばないと!」

 故に筧は、炎剣を振るいながらそうぶつぶつと怪訝を濃くした。ギョロ眼のアウター達は

確かにこちらに害意を向けて襲い掛かって来てはいるが、それは前段階として、先に交戦し

ていた警官達を庇って立ち塞がったためである。

 一方で二見は、これを横目に制しながら前へ前へ冷気棍の連撃を加えていた。手足や顔面

を凍らされて、アウター達はじわじわと確実に動きが鈍っている。元々そう機敏なタイプの

個体ではないようだった。このまま押し切れると、彼は高を括っていた。

「ア、ガァァーッ!!」

「?! しまっ──」

 だからこそ次の瞬間、二見は倒れかけていた別の個体から思わぬ反撃を食らってしまう。

凍て付かされながらも下半身に組み付き、大きく口を開けながら、パワードスーツの右脚に

牙を突き立ててくる。

「ぐっ……あああああーッ!?」

「!? 額賀!」

 加えてジュウジュウと、その口内からは何か紫色のガスらしきものが出て来た。酸ないし

腐食性のブレスのようだった。一気にとは言わないが、じわじわと溶かされ始めた自身の脚

部装甲を目の当たりにし、二見が叫ぶ。筧もこの異変に気付き、炎の剣閃を翻して加勢しよ

うとするが……間に合わない。

「──どっ、せいやぁぁぁぁーッ!!」

 ちょうどそんな時である。二見に組み付いていた一体二体、数体のアウター達を、刹那雄

叫びと共に超重量で吹き飛ばす者が現れた。勢い余って当の二見も地面を転がり、筧もハッ

となって顔を上げるが、にわかに影になったそこに立つ者達を、二人はよくよく見知ってい

る。少なくとも助かったと感じていた。

「おい、大丈夫か? まだ戦い慣れてないのに無茶すんなよ」

 鉄白馬形態チャリオットモードのグレートデュークを操る、仁の姿だった。同じくその背にはMr.カノンを

引き連れた宙も乗っており、何より彼女らに手を引かれるようにして、慌てた様子な由香の

姿もある。

「お前ら……。つーか、七波ちゃん。何でこいつらと一緒に……?」

「文武祭の準備で、一緒に外に出ていたので……。それよりも額賀さん、リアナイザを」

 元の騎士形態に戻ったデュークから、二人と共に降り、由香は開口一番そう急ぎ二見に言

った。お、おう……。自分が先程までピンチだった──しっかり油断したばつの悪さも手伝

い、彼はすぐに腰に提げていたT・リアナイザを手渡し。彼女も自身の黄色いデバイスカー

ドを取り出して、挿入する。

『TRINITY』

『BLITZ』

「変身!」

 光球に包まれ、黄の獅子騎士トリニティ・ブリッツへ。由香は続けてボウガン型の得物を構えると、再び集まり直そう

としているギョロ眼のアウター達目掛け、数発の磁力球を放った。S極とN極。どちらがど

の個体かは判らないが、直後彼らは互いにくっ付いて離れられなくなり、一つの塊のように

なってジタバタともがき出す。

「よしっ! これで動きは封じた!」

「あの時も見てたけど、何気に便利よね……。七波ちゃんの能力……」

「だが気を付けろ。さっきあいつらは、装甲を溶かすガスみたいなものを吐いてた。接近は

せず、距離を置いて片付ける。額賀、七波君。合わせ技をやるぞ」

 合わせ技──? 仁と宙がきょとんと頭に疑問を浮かべる中、彼の呼び掛けに、二見と由

香は気持ち真剣な面持ちを強めるとすぐさま頷いた。ブラストからブリッツへ。何を思った

か自分達の変身を解除すると、二人はT・リアナイザを今度は筧へと返したのだった。即ち

三人分、三色のデバイスカードが入ったまま、彼は再びその引き金をひく。

『BLAZE』『BLAST』『BLITZ』

『FUSION THE TRUTH』

 するとどうだろう。赤単色の獅子騎士トリニティだった筧のパワードスーツが、まるで残り二人の力

を取り込むように大きく変化し始めたのだ。炎のような赤いグラデーションを伴う金色のボ

ディ、頭と両肩に加わった獅子頭の意匠と青ライン──装甲の継ぎ目や隙間に奔ってゆく電

子的な光。

 数拍、仁と宙は彼のそんな光景に唖然とさせられていた。だが次の瞬間には立ち上がり、

これを邪魔して来ようとするギョロ眼のアウター達を突撃槍ランスと二丁拳銃の連射によって迎撃。

激しい火花を散らさせてこれを阻止する。

「──」

 獅子騎士・真トリニティ・トゥルース。T・リアナイザを持ち手として挿入した三人の合体した武器は、遠近両方

に対応できる大矛として再生成されている。


『ほう? あの個体が動き出したか……』

 一方その頃、彼らは未だ知る由も無い。本来共通の敵である“蝕卓ファミリー”の内部では、先の中

央署の一件以来大きなパワーバランスの変化が起こっていた。

 飛鳥崎市街に建つとあるビル。その明かりすら点けられていない一角に、彼らは密かに集

まっていた。人影は七人。長方形の会議用テーブルに各々が着き、上座最奥で嗤うこの人物

を筆頭に、目下の進捗具合を聞き及んでいる。

『報告では、先日から当局末端の巡回要員と複数回接触があったようです。どれもお互い数

が少なく、事件としては未だ上層部には上がっていないようですが』

『あらあら……大丈夫なの? こっちの想定通りに膨れるまでに見つかっちゃったら、計画

も何もないじゃない』

『それはそれで結構な事だと思いますよ。騒ぎになればなるほど、彼らへの突き上げは大な

り小なり巻き起こる。こちらも最大限、効果を引き出せるよう手は回しますが、こちらの存

在を気取られてしまってはそれこそ本末転倒だ』

『……まどろっこしいな。ちまちまそんな事しねえで、直接ぶっ潰しに掛かりゃあいいじゃ

ねえか。俺達で袋にしちまえば、すぐに始末出来ちまう相手だろうがよ』

『貴方……話聞いてた? 大体それをやった後、組織がもたないでしょうが』

『全くです。一度向こうの者達にやられた分際で、不用意な発言はしないでいただきたい』

『ああ!? ありゃあ“子株”だろうが! 俺が本気になりゃあ、あいつらだって……!』

『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……。相変わらず威勢が良いのう。まぁ、取り敢えず落ち着きな

されよ。儂らは何よりチームなのじゃからな?』

『……』

『ああ、そうとも。だから一先ずは、彼らの奮闘を見てやってはくれないか?』

 老若男女。暗がりに隠れてその人相こそはっきりとはしていなかったが、それぞれに癖の

強い面子であることは確かだった。上座の男に従う秘書役が二人、同じく近しい部下らしき

女性が一人。荒々しい男の声と、年老いた者の声。全く発言せずにぼんやりとしている、別

の若い女性が一人。

 市中の刺客達を暴れさせることで、彼らはその巻き返しを狙っていた。プライドや自分達

組織の存在を公に引き摺り出すも、その後再び雲隠れを図ろうとするいわゆる有志連合──

守護騎士ヴァンガード及びその仲間達。

『逃がしはしないさ。私達が……炙り出してやる』


「──決めるぜ!」「逃がさないよ!」

『TRINITY SLASH』

 仁のグレートデュークが、赤く発熱した突撃槍ランスを投擲よろしく肩に担ぐ。宙のMr.カノ

ンも長銃ライフルを構え、身動きの取れなくなったこのギョロ眼のアウター達を狙い撃つべく力を込

める。

 三分割されていた、本来の力を取り込んだ筧は、その取っ手代わりの弾倉シリンダーを回し、一旦黄

色のデバイスカードを正面に変更した。大矛の先から磁力が溢れ、塊状となったギョロ眼の

アウター達をこちら側へと引き寄せる。続いて素早く、今度は自身の赤色のデバイスカード

弾倉シリンダーの正面に回し直し、刀身部分に煌々と炎熱の光を蓄えて振り上げる。

「三条、此処で倒すぜ? 冴島さん達を待ってたら間に合わない!」

『ああ……構わない。データなら後で、何とでも採れる』

 報告を受けて既に映像を見ているであろう、司令官たる皆人にそう、インカム越しでほぼ

事後的に許可を貰いながら。仁は宙と、及び筧達三人と必殺の一撃を叩き込む。

 いっけぇぇぇーッ!! 投擲された槍と特大弾、赤熱を孕んだ文字通り巨大化するように

長くなった矛先が、このギョロ眼のアウター達を塊ごと撃ち抜いた。ばっさりと縦一文字に

両断。個々の身体の境目など関係なしに真っ二つにされた彼らは、めいめいが汚い断末魔の

叫び声を上げながら焼失──爆発四散してゆく。

『……』

 故にはたして、辺りには只々うらびれた郊外の通り跡だけが残っていた。敵の塊は塵一つ

残らず吹き飛んで消え去り、直前まで在った襲撃と戦いが嘘だったかのように、目の前には

冷ややかな程の静けさが戻って来ていた。

 しかし筧達は、仁と宙は──それぞれに変身と召喚を解いて暫く立ち尽くした。あまりに

も呆気なく、それにしては脈絡なく始まった戦いの決着に、彼らはある種の“違和感”を抱

いてしまっていたからだ。本当にこれで倒せたのだろうか……? そんな本来、意味の解ら

ない一抹の不安が、フッと胸を過ぎって戸惑っていたからである。

                                  -Episode END-

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