54-(1) 三つ巴と竜
「来るぞッ!!」
大鋏型のアームを引っ下げこちらに向かってくる、勇こと龍咆騎士に、筧は盟友二人に迎
え撃つよう叫んだ。二見の棍棒と自身の剣、冷気と炎熱の横並びでもって抵抗。初撃をいな
して体勢を整えようとする。
「瀬古ォォォーッ!!」
特に、かつて“相棒”を殺された二見こと青の獅子騎士は、その仮面の下で彼への殺意に
満ちていた。筧と共に何とかいなしたのもそのまま、振り上げた棍に冷気を滾らせ反撃する。
これを勇は、難なくアームの腹で受け止めていた。
「よくもカガミンを……! お前がカガミンを……ッ!!」
「……? ああ。そういえば、ミラージュの繰り手だったな」
接触した二人の側面を突くように、今度は筧こと赤の獅子騎士が炎剣を振り上げて駆ける。
前衛二人に後衛一人。やはりそういう布陣かと、勇は目を細める。
「──」
『ELECTRIC』
だがこれを、彼は目敏く視界の端で捉えて即応していた。二見を押し返すアームの裏で、
黒いリアナイザを操作。その銃床のボタンを回して電撃をぶつけたのである。
「ぐぅ……っ!?」
人数自体は三対一、筧達の方が有利だ。しかし戦闘経験の差は大きく、何より勇は彼らの
能力を既に調査・把握している。
「こんのッ──!!」
『STEAM』
筧に対し、スチームフォームで迎撃しなかったのは、その熱量掌握能力を警戒した為だ。
吸収されて強化されてしまったら元も子も無い。「ぐっ!?」事実逆に、二見からの凍結を
この力ですぐ溶かして弾き返していた。攻守のバランスが取れたティラノ・モジュール──
左手の大鋏型アームを駆使し、終始一対複数の近接を有利に立ち回ってゆく。
「……む?」
この左手の自由が利かなくなったのは、ちょうどそんな時だった。筧と二見、二人の立ち
回りを死角とし、残る由香こと黄の獅子騎士がその磁力球を発射。彼のこの大鋏と、ビル壁
に下がっていた看板とを引き合わせ、無理矢理防御を抉じ開けたのだ。
筧は少し離れた位置に弾かれ、二見はすぐ横──ちょうど由香とはこちらを挟んだ対角線
上で、弾かれた反動をそのまま利用して回転。端から連携する事を前提ですかさず冷気棍を
打ち込もうとしてくる。
「──」
『ACCEL』
口角を、少しだけ吊り上げて。
すると勇は、直後自らティラノ・モジュールを解除したのである。由香が隙を見て撃ち込
み、アシストした隙を、彼は一瞬の判断で水泡に。同時に再度銃床ボタンを回して二見へと
肉薄。逆に彼の腹を殴り飛ばす。
「ガッ……?!」
「額賀!」
「額賀さん!」
加勢が一歩遅れた筧も、自身のアシストの穴を突かれた由香も、そう思わず叫んでいた。
炎の剣閃を振るって斬撃を飛ばそうとする彼と共に、急ぎ次弾を放とうとボウガンの先を勇
に向ける。勇の加速状態は、まだ有効だ。漆黒のパワードスーツの各所がスライドしてエネ
ルギーを排出しているが、クールダウンまでこちらがもつとは思えない。
「ちぃッ……!!」
だがここで、勝負を焦るべきではなかったのだ。吹き飛ばされた衝撃に踏ん張るのもそこ
そこに、二見は急いで歯を食い縛りつつ冷気棍を回転。残る二人に矛先が向かないよう、自
身最大の物質遅滞を発動する。
『ENHANCE TRICERA』
勇は──その動きをしっかり観ていたのだ。力を込めて地面を叩く、その発動のトリガー
よりも早く、自身のリアナイザに『6599』のコードを入力。今度は左手に、三角竜の頭
部を連想させる射出杭を装備したのである。
(さっきとは違う……? 突き特化の装備……?)
止せ、額賀! その変化と違和感に気付いて筧が叫んだものの、もう遅かった。二見が渾
身の“ゆっくり”を放つと同時に、勇もまたこの射出杭を正面から叩き込み、自分に向けら
れた筈のこれを筧達へとそっくりそのまま打ち返したのである。「しまっ──!?」相手の
狙いに気付いた時には既に手遅れ。筧ら三人は、他でもない自分達の能力によって、完全に
身動きを停止させられてしまう。
どうやらこのモジュールは、目に視えない空間それ自体も弾き飛ばす効果があるようだ。
「……終わりだ」
『DUSTER MODE』
ゆっくりとこちらへ近寄って来ながら、銃床のボタンをノック二回。勇は黒いリアナイザ
に棘付きの拳鍔を迫り立たせつつ、左手のトリケラ・モジュールと共に動きの止まった彼ら
三人に怒涛の連撃を打ち込んでいった。
一見してダメージは無い。ただ“ゆっくり”と化した筧達には、着実にそれらは溜まって
ゆく。実際効果切れを起こした直後に、その反動は莫大なものとなって跳ね返る。
『ぎゃあああああああッ!!』
赤・青・黄。パワードスーツ越しからもその無数の凹みは明らかで、筧達はめいめいに地
面に転がりながら、強制的に変身を解除させられてしまった。ボロボロになって這いつくば
り、こちらを見下ろしてくる勇を見る。
俺達じゃあ、こいつには勝てないのか……?
ただ当の勇自身は、寧ろチッとこちらに対し、舌打ちさえして見せている。
「弱い! 弱過ぎるぞ! 俺をこれまで散々苦しめてきておいて、こんなものか!?」
だから最初、筧達にはその“怒り”の意味がよく解らなかった。勝ち誇ってくるならばま
だしも、その言い方ではまるでこちらが善戦することを望んでいたかのようにも思える。或
いはもっと、別の……。
「──ッ!」
しかしである。絶体絶命のピンチに筧達が陥っていたその時、この戦いへ新たに割り込ん
で来る者達があった。睦月こと守護騎士達だ。彼らは既に変身し、自身のコンシェルと同期
し、勇へと奇襲のチェーンハンマーを放ってきたのである。
「筧さん達を、離せ!!」
「守護、騎士……!!」
勇も勇の方で、咄嗟にこの横からの攻撃に反応。トリケラ・モジュールの“弾き”で鉄球
本体を押し留めると、打ち返した。睦月も、飛び掛かった中空で少々驚いた様子を見せ、互
いにややスローモーションなセカイで睨み合う。
『今です! ホーク、ピーコック!』
だが元より彼らの目的は……あくまで筧達の救出だった。由香がトリニティとして敵対し
始めたことを切欠に、改めて三人のマークを強化。追跡を続けている中で今夜の交戦を察知
して駆け付けたのである。
「しまっ──!」
あいつ自身が囮か。勇はすぐにその意図に気付いたが、パンドラの合図で筧達を空から急
降下で回収した、予め召喚されていたホーク及びピーコック・コンシェルの方が速かった。
慌ててバスターモードに切り替えて撃ち落そうとするも、今度は目の前に無数のコンクリ壁
──冴島ことジークフリートの流動体がこれを阻む。
「は、離して!」
「もう俺は、あんた達とは関わりたく……!」
『……?』
ジタバタ。一挙に高度を上げる中で、由香や二見は抵抗していたが、勿論そんな複雑な人
間の心理など、いちサポート・コンシェルであるホークとピーコックには解らない。
「退けっ! 守護騎士!」
「そっちこそ、いい加減七波さん達を狙うのは止めるんだ!」
『ENHANCE STEGO』
『ARMS』
『GRAVITY THE CROCODILE』
一方で勇と睦月は、互いに武器を弾かれたのを見て、ほぼ同時に武装を取り換えていた。
クロコダイル・コンシェルの重剣と、板状の刃が幾つも取り付けられた金属製のメイス──
入力コードは『3546』。
両者は暫く、時間稼ぎとその突破を狙って激しく打ち合っていた。打ち合いながら、今夜
この状況になった互いの目的について声を荒げて問い詰める。
「何故あいつらを庇う!? あいつらが邪魔なのは、お前らだって同じだろうが!」
「違う! 殺されそうになってる相手に、敵も味方も関係ない! そもそも筧さん達は、全
員あんた達に巻き込まれた人間だろう!?」
「……都合が悪けりゃ、蝕卓の所為ってか。ヒーロー気取りの勘違い野郎が!」
言って、勇は吐き捨てる。元より議論など最早通じない相手とは知っていても、睦月は正
直歯噛みせざるを得なかった。自分が“理想”論を吐いていることぐらいは理解していた。
各々の事情なんてものは、もっと後にならなければ、時間を掛けなければ判らない。
実際今夜はただ、筧さん達が戦っている反応があったから急行して来た──。
「よし、全員逃げたね……。睦月君、撤退するよ!」
だが二人の鍔迫り合いは、そう長くは続かなかった。端から続ける心算もなかった。
ホークとピーコック・コンシェルが筧達を戦域から離脱させたのを見届けると、冴島が同
期するジークフリートが叫んだ。今度は風の流動化へと自身を変え、大きな竜巻を起こして
辺りを目くらまし。睦月共々姿を消してしまう。
「……チッ」
舞い上がった土煙に思わず手で庇を作り、立ち止まってしまった勇は、直後彼らにまんま
と逃げられたことを理解していた。独り夜のビル裏に残され、激しく舌打ちを放つと闇空を
睨み返す。




